第273話 ヘパイストを炎に染めて②

 苦戦は必至と覚悟を決めると更に強力なエーテルエネルギーの反応があった。

 パワーアップした<量産型ナーガ>を超えるエーテルを備えたそいつは、炎の翼を羽ばたかせながら地下を飛び出すと遙か上空から俺たちを見下ろした。


『あははははははははは!! 見つけた、見つけたよぉぉぉぉぉ! サイフィードォォォォォォォォォ!! 今日こそ君をぶっ殺してあげるよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


「この声、それにあの赤い機体は……アグニ・スルードか! ずっと姿を見ていなかったけど、あの様子じゃクロスオーバーに洗脳されたままみたいだな」


 かつての海上戦でアグニは<ベオウルフ>にセルスレイブを打ち込まれ機体共々クロスオーバーに洗脳された。

 それ以降戦場であいつの姿を見なかったのでずっと気がかりだったのだが、状況は思っていた通り良くない。


『相変わらず騒がしい奴だ。――ハルト、あいつはどうする?』


「アグニは俺と<サイフィードゼファー>に固執している。それなら俺が――」


 言いかけた時、<ベルゼルファー>が前へ出た。


『あいつは俺が止める。お前たちは他の敵を倒せ』


「いいのかアイン? <ベオウルフ>はセルスレイブの影響で熾天セラフィム機兵シリーズと同等以上の怪物になってる。単独で相手をするのは危険だぞ」


『百も承知だ。だが、あいつは俺の仲間だ。ならばあいつを止めるのは俺の役目。この時の為に俺はお前たちと行動を共にしていたのだからな。――やらせてくれ』


 アインの切実な態度を前にしてこれ以上とやかく言うのは一緒に戦ってきた仲間として相応しい態度じゃない。ならば――。


「……分かった。アグニはお前に任せた。残りの敵は俺たちに任せてお前は自分の目的を果たせ。でも、これだけは言っておくぞ。――死ぬなよ」


『ふっ、もとよりそんな気はさらさらないさ。お前たちこそ油断して足元をすくわれるようなヘマをするなよ』


 アインは笑うと<ベルゼルファー>を飛竜形態に変形させて上空で待ち伏せている<ベオウルフ>のもとへ向かった。

 残された俺たちは他の味方チームと一緒に<量産型ナーガ>の部隊に攻撃を開始した。


 先制してきたのは敵側だ。巨大な蛇型の尻尾で俺たちをまとめて薙ぎ払おうとしてくる。全機散開して回避すると俺は上空に跳んで一番近くの個体目指して飛翔する。


「量産型と言ってもオリジナルの<ナーガ>と同じ形状な上にエーテルハイロゥを搭載している。油断したらマジで足元をすくわれかねないな。まあ、そんな間抜けは俺たちの仲間にはいないけどな。――今度は俺のターンだ! ワイヤーブレード参式……ブレードパージ!!」


 ワイヤーブレード参式の刀身を分割させてばらまき、目標の<量産型ナーガ>の上半身目がけて飛ばす。

 標的付近に到達後、散開させて包囲網を形成した。


「どんなにデカかろうが中枢部を破壊されたらおしまいなんだよ。――術式解凍、スターダストスラッシャーーーーーー!! 斬り刻めぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 エーテルを帯びた無数の刃で<量産型ナーガ>の上半身に集中攻撃を敢行する。エーテルハイロゥによるエーテル障壁を瞬時に斬り砕き本体にダメージを与えていく。

 確実にダメージは蓄積しているものの強靱な装甲を抜くことが出来ない。だったら接近戦で一気に叩く。


「突っ込むぞ、<サイフィード>!」


 エーテルマントと脚部エーテルスラスターを全開にして一気に間合いに入る。敵は槍で突き刺そうとしてくるがエーテルブレードでいなして懐に入り斬撃を叩き込む。

 そこから連続で斬りつけ両腕を斬り飛ばし、左手で敵の頭部を鷲掴みにすると左腕にエーテルエネルギーを集中する。


「どんなに性能が高くても乗り手がその力を引き出せなければ意味が無い。ましてや乗り手が不在の機体なんかに負けていられるか! これで消し飛べっ、術式解凍……バハムートォォォォォ!!」


 左腕に集中させたエーテルエネルギーを手掌から放出し<量産型ナーガ>の頭部と上半身をまるごと吹き飛ばすとその場から急速離脱した。

 中枢部を破壊された<量産型ナーガ>は身体を構成するセルスレイブが崩壊を始め下半身である蛇の尻尾部分が砕け散った。


「まずは一機! ――次ッ!!」


 まだクロスオーバーの幹部クラスの機体は姿を現していない。

 <量産型ナーガ>と戦わせて疲弊するのを狙っているのか、俺たちの戦闘パターンを分析して自分たちが戦う時の参考にするつもりなのか。

 ただ、今は目の前にいる蛇の化け物退治に集中するしかない。





 <サイフィードゼファー>が一体目の<量産型ナーガ>を瞬殺したのを皮切りに始まった戦闘は一方的な内容となっていた。


『早速ハルトがやったようね。こっちも負けていられないわ、私たちもぶっ飛ばすわよ!』


『ティリアリア様、少々言葉遣いが乱暴すぎです。戦場とは言え、もう少しお淑やかにいきましょうよ』


『何言ってるのよ、フレイア。お淑やかさで戦いに勝てるのなら四六時中、深窓の令嬢的な感じで振る舞うわよ私は。「よしなに」とか言っちゃってさ。――でも実際はそんなに甘くないでしょっ!』


『まあ、そうですね』


 雑談を交わしながら<量産型ナーガ>の攻撃をいなすのは<ティターニア>と<ヴァンフレア>だ。

 主従関係兼親友兼ハルトの妻同士という間柄の二人は息ピッタリの動きを見せ、敵の放つエレメンタルキャノンの集中砲火を受け流しながら接近していく。

 <ティターニア>はフォトン八卦掌でエーテル弾の軌道を逸らし、<ヴァンフレア>はドラゴニックウェポンであるエーテルカンショウ及びエーテルバクヤで切り払う。


『――! フレイア、尻尾の薙ぎ払いが来るわ、注意して!』


『承知しました! 巨大な体躯が必ずしも有利には働かないと言うことを教えてあげましょう』


 ティリアリアの予知通りに長大な尻尾が地表を削りながら二人に向かってくる。

 <ティターニア>はエーテルハイロゥの出力を上げて上空に逃げ、<ヴァンフレア>は跳躍すると敵の尻尾の上に着地した。


『巨大だと言うことはまとが大きいと言うことだ!!』


 燃え盛る二刀を並列に構え敵の尻尾を斬り裂きながら上半身に向けて疾走する<ヴァンフレア>。深紅の竜機兵が走り去った場所は激しく炎上し燃え朽ちていく。

 これは堪らないと思った<量産型ナーガ>は背部ユニットに仕込んでいた六本の隠し腕を展開すると<ヴァンフレア>目がけて発射した。


『巨大な腕を飛ばすのって中々強力な質量兵器だとは思うけれど――』


 ティリアリアはフレイアを守るように前方に飛び出すと自慢のフォトン八卦掌で六つのロケットパンチの軌道を変え、攻撃をした本体に弾き返した。


『一発限りの武装だからリスクが高いと思うのよねぇ。ハルトはロマンだから仕方が無いって言うけどさ』


 反射されるように戻ってきたロケットパンチ全てが本体に直撃し大爆発を起こす。爆煙の中から半壊した上半身が姿を現すと、その頭上では既に攻撃態勢に入っている<ヴァンフレア>が待ち構えていた。


『ティリアリア様と私の連携を甘く見た貴様が悪い。――フレイムクロスッ!!』


 防御する暇すら与えられず<量産型ナーガ>は胴体を十字に斬り裂かれ内部から炎上爆散した。

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