第272話 ヘパイストを炎に染めて①

 <ニーズヘッグ>から発進して雪に覆われた大地に降り立つ。竜機兵チーム全機が降下完了し前方にそびえ立つ広大な工場区を見やった。


「ここが『ヘパイスト工場区』か。さすが『ドルゼーバ帝国』最大の工場施設だな。広さに関しては『第一ドグマ』よりもあるんじゃないか?」


 敵の施設とは言え、その規模の大きさに感心していると土地勘のあるアインが答えた。


『地表の施設だけなら『第一ドグマ』より広いだろうな。ただ、ここはそんなに地下深くまで施設があるわけではないから総合的な規模では向こうが上だろう』


 自分たちの基地の規模が予想以上に大きかった事に改めて驚く。『第一ドグマ』はこの世界において本当にトップクラスの施設なんだなぁ。

 ――それにしても、これほどの重要拠点だというのに敵の気配がしない。

 普通なら飛空艇が近づいている時点で何かしらの防衛網を敷くはずなのに、そんな気配は無く不自然な静けさがこの一帯を支配している。


「ここは敵のホームグラウンドだ。待ち伏せによる奇襲が効果的なはず……皆、周囲に注意しろ。ティア、いつもの予知能力頼んだよ」


『そんな都合良く発動するもんじゃないんだから、あまり期待されても……って言ってる側から見えてきたわ! ――下よ!!』


「――! 全機散開しつつ後退!! そんでもって迎撃準備よろしく」


 竜機兵チーム全機に命令を出して後方に下がった瞬間、さっきまで足場だった場所が崩れて数十機もの装機兵が飛び上がってきた。

 もしもあのまま落下していたらあの大部隊に袋叩きにされていただろう。いやぁ、聖女ティリアリアさまさまですな。


「センサー発動、敵スキャン開始……やっぱりコックピットに人は乗っていないか。それなら何の気兼ねもなくぶっ潰せる!」


 いきなり出現した敵機の群れに驚きはしたものの、こういった状況には皆慣れているのですぐさま反撃に打って出る。相手は例の如く無人機なので最初からフルスロットルで叩き潰す。

 

『まずはわたくしが行きますわ! エーテルフラガラッハ全基射出……座標固定。エーテル集中、シャーマニックフォーメーション――メイルシュトローム!!』


 <アクアヴェイル>が放った三基のエーテルフラガラッハが敵集団の中枢を囲むように展開し魔法陣を作り出す。

 極限まで高められたエーテルが魔法陣に集中し膨大な水の渦を発生させると範囲内の敵機を呑み込みバラバラにしていった。


『これで敵の陣形が崩れたわね。フレイ、今度は私たちの番よ!』


『分かってるぜ、聖女様! 最初からド派手にいくぜぇぇぇぇぇ!! 全砲門開放――フルバースト!!!』


『エーテル集中……これで決めるわっ! シャイニングレイ!!』


 メイルシュトロームによって陣形が崩れた所に<ドラパンツァー>の全弾発射と<ティターニア>の光の拡散ビームが降り注ぐ。

 これにより広範囲の敵機が一瞬で駆逐され、最初は数十機はいたであろう敵の数は半数以下に減っていた。


『よーし、それじゃ今度は私たちの番だね。<グランディーネ>吶喊とっかんしまぁぁぁぁぁす!!』


 残りの敵集団に向かってエーテルシールドを前方に構えながら<グランディーネ>が勢いよく突撃する。

 まるで城壁が迫ってくるような勢いによって何機もの装機兵が奥へ奥へと押し込まれ、最終的にはまとめて後方に吹き飛ばされる。


『結構深くまで突っ込めたかな。――それじゃ二人とも頼んだよ!』


 <グランディーネ>のすぐ後ろに待機していた二機の竜機兵――<ヴァンフレア>と<シルフィード>が間髪入れずに飛び出し動きが麻痺している敵機を襲撃した。


『今度は私たちの番だ。上陸戦には参加出来なかった分、大暴れさせて貰う! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


『ここまで僕たちを侵入させておいて逃げられると思うなよ。一気に殲滅する!!』


 <ヴァンフレア>はエーテルソードの二刀流と膝のニースラッシュによる蹴り技で瞬殺していき、<シルフィード>はエーテルブーメランで攪乱しながらエーテルブレードによる攻撃とエーテルソードブレイカーによる防御で破壊を進めていった。


 重装機兵<アリエテ>の集団が横一列に並び防御の構えで向かってくると、チェーンハンマーを装備した<グランディーネ>が迎撃する。


『目には目を、パワーにはパワーってね! これでも食らえ、ミョルニルハンマーーーー!!』


 チェーン先端の鉄球が高速回転し、分厚い装甲の<アリエテ>を次々にぶっ飛ばしていった。

 殴り込み役の<ヴァンフレア>、<シルフィード>、<グランディーネ>の三機によって敵部隊の中枢は完全に破壊され、一時後退した残りものに俺とアインが食らいつく。

 <ベルゼルファー>は飛竜形態で接近すると人型に変形しエーテルブレードで次々に敵機を真っ二つにしていく。

 俺はエーテルブレードとワイヤーブレード参式の二刀流で残った機体を全て斬り刻んでいった。


『……やはり自国の装機兵を破壊するのは気が乗らんな』


「あんだけ容赦なく斬り捨てておいてよく言うよ……」


 会敵してから五分足らずで竜機兵チームの前に立ちはだかった数十機の装機兵は全てスクラップと化した。

 他の味方の戦況を確認すると転生者チームもドラゴンキラー部隊も『ドルゼーバ帝国』製の装機兵を圧倒しており間もなく決着が付くところだった。

 

「……この戦力ならドルゼーバ相手であれば楽に勝てただろうな。けど、俺たちの本命は別だ。――エーテルレーダーに反応……来るぞ、全機警戒しろ」


 先程ドルゼーバ製の部隊が現れた場所から新しい反応があった。エーテルエネルギーの量から察するにさっきの連中とは桁違いの機体が上がってくる。しかもそれが複数いるときたもんだ。

 さすが原作ではストーリー終盤の激戦地だっただけのことはある。ここからが本番って事か……。


 フォーメーションを組んで攻撃に備えていると何機もの<量産型ナーガ>が頭上のエーテルハイロゥを輝かせながら仰々しく現れた。

 ただ、その下半身は今までのような人型の物ではなく、オリジナル機と同じ蛇の胴体のような物に換装されていた。

 全長百メートルを超える大型機が何機も出現した。しかもオリジナルと同じ形態になっているからか内包されているエーテルエネルギーが大幅に向上している。

 『鑑定』スキルで確認したところ、形状変化に伴い機体の耐久力もかなり上がっている。これは全部破壊するのに少々骨が折れそうだ。

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