第270話 ドルゼーバ本土上陸戦②

 上陸しようと海から来る相手に対して海辺から攻撃するなんて戦術はシミュレーションゲームをプレイした事のある人間ならすぐに思いつく。

 実際、『竜機大戦』でもこの状況と似たステージがあって海から陸地を目指していたところ、海岸に大量の敵増援があり水中でフルボッコされた経験がある。

 だから返し技の一つや二つは当然考えてある。


 敵が集中している岸壁付近の海原に一機の装機兵が水中から姿を現した。

 特徴的な青い装甲が海水を弾く中、その機体――水の竜機兵<アクアヴェイル>はドラゴニックウェポン、エーテルフラガラッハ三基を従え魔法陣を展開しながら海面からジャンプした。


『こちらの読み通りに海岸で待ち伏せしていましたわね。ならばこれで一網打尽ですわ! エーテル集中、シャーマニックフォーメーション……リヴァイアサン! 拡散バージョンですわっ!!』


 <アクアヴェイル>が放った水の砲撃がエーテルフラガラッハ三基で形成した魔法陣を通過すると無数に拡散し敵部隊を貫いていく。

 多くの敵装機兵が爆散していく中で攻撃に耐えきった機体が何機も存在した。耐久力に定評のある重装機兵<エイブラム>と高性能機<シュラ>だ。

 <アクアヴェイル>の術式兵装が当たる瞬間に防御して凌ぎきった。いくらクリスティーナでも単独であれだけの数を相手取るのは危険だ。


「急いで救援に向かわないと……!」


『ここは我らに任せて貰おう!』


「……え?」


 その声の主はカーメル三世だ。彼が駆る<クラウ・ラー>、ジンの<スサノオ>が機体の大推力を生かして猛スピードで飛翔し、それに続いてヤマダさんとヒシマさんの<ハヌマーン>が飛んでいく。

 <ハヌマーン>は最近キントウンと言う雲のような飛行ユニットを足場に展開して空を飛ぶ事が可能になった。その姿はまさに孫悟空そのものだ。

 彼らはスピードを落とさず滑り込むようにして海岸に着地しそのまま戦闘に突入した。


 目を引く黄金の装甲を輝かせ<クラウ・ラー>は背中に装備しているエーテルマントを六分割して六本のエーテルバンテージにするとそれらを蛇腹剣のように操作して群がる敵機を薙ぎ払っていく。

 一方<スサノオ>は唯一の武器である二十メートル超えの大剣――斬竜刀ムラクモで大型装機兵<エイブラム>を斬る……と言うか叩き潰していく。巨大な敵機が一瞬で鉄塊と化す様子は圧巻の一言に尽きる。

 二機の<ハヌマーン>は<アクアヴェイル>のアシストに向かい、近づく<シュラ>をフリーダムロッドでぶん殴っていった。


『まあ! 助かりましたわ、勇者殿』


『くうっ! さすが姫様。俺たちが喜ぶ台詞を知っていらっしゃる』


『姫を救うのは勇者の努め!! そう、俺たちは今まさに勇者をやっている!! ナイスな展開だぜぇ!!』


 一国のリアル姫様を救う勇者の図。ヤマダさんとヒシマさんのボルテージは最高潮に達し、近づく敵をちぎっては投げちぎっては投げといった調子で片付けていく。

 あの二人は普段必要以上に目立たない様にしているけれど本気を出したらジンに匹敵するくらい強いのだ。しかも二人の連携は見事なので全力のヤマダさん達を相手にしたら俺も勝てるかどうか分からない。


『やれやれ、一番槍を姫に譲ったあげくにエスコートでも遅れを取るとは王として立つ瀬が無いな』


『あら、今時エスコートをするのは男性の特権ではありませんわ。実際、我が家の聖騎士殿はその辺が不得手なので女性陣が毎回主導権を握っているんですのよ』


『……ほぅ、それは実に興味深い話だね。装機兵による戦では八面六臂の活躍をするハルトでも夜戦は受け身と言うことか。なるほどなるほど』


 全ての回線に開放されているチャンネルで実にプライベートな話題を交わす姫と王様。只でさえ問題のある行動である上に、内容がメチャクチャ俺んちのトップシークレットだったので慌てて会話に乱入する。このままじゃ皆にうちの幸せ家族計画がばれてしまう。


「ちょ、クリス! 戦闘中なのに何てこと話してくれてんだ! カーメルも真面目に戦いなさいよ。不謹慎でしょうが!!」


『いやぁ、済まないね。相手は全て無人機だし相手としては不足気味でね。つい、クリスティーナ姫と世間話をしてしまったよ』


『その通りですわ。せっかくカーメル王と同じ戦場に立っているんですもの。お互い情報交換をするのは当然ですわ』


「くっ……これだから王族は……戦場がパーティー会場感覚になってやがる。――シオン! 飛空艇の守備は任せた。俺は海岸戦闘に加わってくる!」


『分かったからさっさと行ってこい。僕としても他人事ではない話題だからな。あのドSの暴走をさっさと止めてこい』


 モニター越しに映る皆が同情や呆れ顔を見せる中、俺は必死の思いで海岸を目指し始める。

 そんな俺の心中などお構いなしにクリスティーナの暴走は激化する。<アクアヴェイル>は装備している三つ叉の槍をクルッと回すと刃とは逆側にある石突を近くの敵機に向けた。


「あの構えは……ヤバい!!」


 槍の形状が変化し三つ叉になっている刃は一本にまとめられコンパクト化、石突部分から長い柄の部分はワイヤーブレードの様な蛇腹剣に近い形になった。


『……わたくしに近づくと痛い目に遭いますわよ!!』


 かつて柄だった部分が鞭のようにしなり接近していた<シュラ>に叩きつけられた。クリスティーナは鞭になったエーテルトライデントで<シュラ>をガンガン打ちまくり、そいつが破壊されると複数機を同時に相手する。


『あっはは! ふふふふ、あははははははははは!! いい! いいですわ!! やっぱりこれが一番手に馴染みますわぁぁぁぁぁ!!』


 全力で飛ばしてきたものの俺が海岸に到着した時には時既に遅し、クリスティーナは完全にぶっ飛んだ状態で嬉々として鞭を振るい敵装機兵部隊を圧倒していた。

 近くにいた<クラウ・ラー>と<スサノオ>、<ハヌマーン>ヒシマ機は無差別に暴れ回る<アクアヴェイル>から距離を取りつつ戦闘を継続、上手く立ち回っている。

 その一方でヤマダさんは突如暴走鞭使いになった<アクアヴェイル>を呆然とした様子で見つめていた。


「くそっ、遅かったか!」


『ちょ、ハルトォォォォォォォ! 何あれ、何あれ、何なのあれぇぇぇぇぇ!? 俺の知らない姫様が俺の知らない戦い方してるんですけどぉぉぉぉぉ!?』


 いつもの冷静さは何処に行ったのか、ヤマダさんは酷く動揺した様子で俺の所にやってきた。

 ヤマダさんはゲーム『竜機大戦』においてヒロイン枠のクリスティーナのファンだったのでゲームのおしとやかな彼女とはかけ離れた目の前の狂人の振る舞いに恐れをなしていた。


「クリスはゲームとは違ってドSプリンセスだって話したじゃないですか」


『そうだけどさぁ。まさかあんなに凄いなんて思わなかったよ。それに何なのさ、あの鞭……あんな武器見たことないし、鞭の扱いがめっさ上手なんですけどぉぉぉぉ!』


「本人たっての希望でこの間エーテルトライデントを改造してもらったんですよ。その結果できあがったのがあのウィップ形態でして。お陰で最近クリスは遠距離支援じゃなくて接近戦ばかりするようになっちゃって……困りますよね、あははは」


『「あはは」じゃねえよ! あれじゃ姫様じゃなくて女王様じゃん。何だってこんなラスボス手前ダンジョン的な場所で味方に女王様が爆誕してるのさ。タイミングおかしいだろ! ってか<アクアヴェイル>ってRPGで言えば魔法使いポジションでしょ。それが魔法使わず物理攻撃しかしないって問題ありすぎだろ!』


「それはそうですけど、俺が昔遊んでたRPGだと魔法使いに鞭の武器ありましたよ。そう考えれば不自然ではないはずです。……ただクリスに関しては今まで使い続けていた杖よりも実戦投入したばかりの鞭のほうが扱いがやたら上手いという不思議がありますけどね」


『不思議でも何でもねえよ! それ絶対プライベートで常日頃使ってた証拠じゃん! 職業姫様の裏で女王様やってたって事じゃん!』


 ヤマダさんには刺激が強すぎたかも知れない。

 クリスティーナはゲームだと本当におしとやかではかなげなイメージだったから、目の前で大暴れしている現物とのギャップが激しすぎる。俺はもういい加減慣れたけどね。

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