第269話 ドルゼーバ本土上陸戦①
<ホルス>と<ナグルファル>が同じ高度で飛行しているのが見える。
<ナグルファル>が先行し、その右側に<ニーズヘッグ>左側に<ホルス>が位置取り陣形を組んで飛んでいく。
元々『ドルゼーバ帝国』所属だった<ナグルファル>が土地勘があるという事でこの陣形で本土を目指すことになった。
攻撃に備えて飛行可能な機体が発進し母船の守備につく。
竜機兵チームでは<サイフィードゼファー>、<ティターニア>、<ベルゼルファー>、<シルフィード>が空中で迎撃態勢を取り、残りは<ニーズヘッグ>の甲板状で待機する。
『進路クリア、発進どうぞ』
「ハルト・シュガーバイン、<サイフィードゼファー>いきます!」
<ニーズヘッグ>から発進すると飛竜形態に変形して空を舞う。続いて残り三機が出撃し俺に続く。
「全員配置についたな。いつ敵が出てきてもおかしくない。各機警戒は厳に」
竜機兵チーム全員から『了解』と返答があり飛行可能な四機で<ニーズヘッグ>を囲むように飛行する。
エーテルレーダーに反応はないが動力の出力が一定以下であったり大気中のエーテルの流れが不安定だとレーダーに映らなかったりもする。
だからこそレーダーだけじゃなくモニターを通して目で確認する必要がある。
『もう少ししたら『ドルゼーバ帝国』本土のはずだけど襲ってこないわね』
ティリアリアが不安そうな表情をしている。それもそのはず、セオリー通りなら待ち伏せなりして奇襲を仕掛けて本土への上陸を何としても阻止するはずだ。
それなのに攻撃はまだない。そうなるとこの北の大地が戦火に晒されることになる。
「今『ドルゼーバ帝国』を支配しているのはクロスオーバーだ。どうやら連中はここの土地が戦場になっても気にしないみたいだな」
『奴らにとっては『テラガイア』の大地そのものにそこまで価値を見出していないのかもしれないな。新人類を従わせた後は『オービタルリング』に戻って
シオンはクロスオーバーのやり口が心底気に入らないといった感じで険しい表情をしている。
今まで経験してきた連中の非道なやり方には本当に嫌気が差していたから当然の反応だ。それに戦力を分散させずに本拠地に集中するのは戦略的に有効だ。
けれどもし俺が敵側だったのなら奇襲するポイントは今この瞬間だ。
『ハルト……何だか嫌な予感がするわ。忌まわしい憎しみの塊が近づいてくるような……』
「それって予知の力か! 皆、敵が来るぞ!!」
全ての飛空艇の厳戒態勢が最大になると警戒アラートが鳴り響いた。<ナグルファル>のエーテルレーダーが敵機の反応をキャッチした。
『エーテルレーダーに反応……下ですっ!』
海中から勢いよく水しぶきを上げて何体もの機体が飛び上がってきた。
頭上に天使の輪を思わせるエーテルハイロゥを展開し、こちらの行く手を阻むように広範囲に展開する。
「……全機<量産型ナーガ>で固められた大部隊か。数は……」
『こちらで確認した。敵の数は五十六機だが、当然増援は用意されているだろう。前哨戦にしては物足りない内容だな』
アインが言いながらスピードを上げて敵の大軍に突っ込んでいく。先行している<ナグルファル>が囲まれる前に数を減らすつもりか。
「アイン、一人で突っ込むな! ティア、シオン、俺たちも行くぞ!」
『分かったわ』
『了解した。まったく、あの男は自由が過ぎるな!!』
アインの読み通り敵量産機の群れは<ナグルファル>を囲もうと広範囲に展開している。飛行可能な<ゲオルギス>が迎撃しており、甲板上から<カドモス>と<シグルズ>が援護攻撃している。
「フォーメーションを組んで各個撃破する! ティア、援護を頼む。シオン、突っ込むぞ!」
『分かったわ。これで一気に吹っ飛ばす。エーテル集中――シャイニングレイ!!』
<ティターニア>の頭上に展開された大型魔法陣から無数の閃光が発射され、包囲網の一角を消滅させた。
援護と言うには余りにも威力がありすぎる光景に開いた口が塞がらない。
『これでどうよ!』
胸を張ってドヤ顔をするティリアリアには頼もしさしか感じられない。さすが元ラスボスの一人なだけはある。
感心していると<シルフィード>が加速して敵陣形の崩れたポイントに向かい始めた。
『グズグズするな、ハルト。ティリアリアの攻撃で陣形が麻痺している今が好機だ!』
「分かってるよ。たたみ掛けるぞ!!」
こっちも加速スキルでスピードを上げて敵部隊に突撃する。そこでは既にアインが八面六臂の活躍をしていた。
<ベルゼルファー>の飛竜形態と人型形態を使い分けて見事な空中戦を繰り広げている。そんなアインが孤立しないように<ゲオルギス>が絶妙な位置で援護している。
ドラゴンキラー部隊のチームリーダー、ツヴァイの装機兵操者としての能力の高さがよく分かる。
「ドラゴンキラー部隊とは一戦交えただけで終わって良かったよ。敵に回したら恐ろしい事この上ないな」
背中に寒気を感じつつ人型に変形し二刀流で近くにいた<量産型ナーガ>を十文字に斬り伏せる。
「<サイフィードゼファー>は人型でも空中戦が出来るんだよ。空中戦を仕掛ければ有利にいくと思ったら大間違いだ!」
ワイヤーブレード参式で敵機をがんじがらめにして、そのまま周囲の敵機にぶつけて破壊していく。
数機スクラップにしたところで絡めていた機体も大破した。
<シルフィード>は術式兵装アジ・ダハーカで次々に<量産型ナーガ>を葬っていく。空中戦に参加している味方五機で五十機以上いる部隊を圧倒していた。
こうなってくるとこっちも気合いが入るってもんだ。
「アイン、アレをやるぞ!!」
『アレか……いいだろう!!』
<サイフィードゼファー>と<ベルゼルファー>を飛竜形態にして敵が複数固まっている箇所に突撃する。
こっちの後方にアインがピッタリくっついた直列飛行で加速する。
「いっけえええええ! 術式解凍、リンドブルムッ!!」
敵部隊のど真ん中に突撃して数機撃破し空を駆け抜ける。そのタイミングで後ろにいた<ベルゼルファー>が反転し竜型の機首に魔法陣を展開した。
『白竜の攻撃を免れたと思ったようだが残念だったな。今度は黒竜の業火をお見舞いしてやる! ドラゴンブレス・パワーーーーーーーーー!!』
魔法陣から大出力のドラゴンブレスがレーザー砲の如く放たれ、生き残っていた敵機を一機残らずなぎ払った。
「これで待ち伏せ部隊の第一陣は全滅させたな。次は――」
陸地の方を見やると崖一面に『ドルゼーバ帝国』の装機兵による大軍がズラリと並んでいた。
全ての機体が掌をこっちに向けて魔法陣を展開している。
「エレメンタルキャノンを一斉射するつもりか」
『一発の威力は大した事は無いけどあの数を一気に放たれたらまずいわね』
『そうだな、放つ事が出来たら危険だったかもしれんな』
予想通りの敵の動きに俺たちは全く動じていなかった。まさかここまでセオリー通りに攻撃してくるなんて思わなかったなぁ。
クロスオーバーの連中の作戦はまるで意外性がない。素人感丸出しだ。これなら『竜機大戦』のゲームを作ったチームの方が策士と言えるだろう。
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