第262話 決戦の予感

 ラファエル達が撤退し<ニーズヘッグ>と合流した俺とティリアリアは『第七ドグマ』へと帰還した。

 それから別働隊として動いていた<ホルス>と<ナグルファル>も合流し、主要メンバーが集まって今回の戦闘報告と今後の作戦会議を行っていた。

 

 『シャムシール王国』の現国王カーメル三世は第一特異点と呼ばれる存在で、新人類の中でタイムループを繰り返してきた世界を認知している唯一の人物だ。

 第二特異点であるティリアリアも同じくタイムループ時の記憶があるが、それは断片的なものに留まっており彼の方が正確にこれまでの状況を把握している。

 『クロスオーバー』とも少なからず接触してきた彼にそのリーダーであるガブリエルについて訊ねると難しい顔をされた。


「ガブリエル……か。名前は知っているが私も実際に面識はない。私が会ったことのある『クロスオーバー』のメンバーは以前戦ったアザゼル、ラファエル、ミカエルぐらいだったからね。恐らく彼らのメンバーの多くはオービタルリングに常在していたんだと思う。特にリーダーのガブリエルはその傾向が顕著だったと思うよ」


「……ってことはミカエルが言っていたようにガブリエルが地上にいるのは相当レアなケースってことか」


「そういう事になるね。現状私たちにはオービタルリングに行く手段がない。であれば、今『ドルゼーバ帝国』にいる状況は彼を討つ千載一遇のチャンスということになるね」


「そうかぁ。結局はミカエルの言っていた通りになるのかぁ」


 作戦会議室内が静まりかえる。

 情報をまとめた結果、この戦いを早期決着に導く為には『クロスオーバー』のリーダーであるガブリエルを倒す事が必須という結論に至った。

 

 これがゲームの話であるなら、通常であれば到達不可能な魔王城にいる魔王が近くのダンジョンに何故かやって来ている状況。

 そこで魔王を倒してしまえばエンディングへ、と言うわけだ。ゲームだったらこんなヘンテコな仕様は実装されないだろうが俺たちにとっては好都合。


 ただしガブリエルが『ドルゼーバ帝国』に滞在している事を俺たちが知っているという情報は敵側にも伝わっているので、急いで向かわなければ逃げられるか迎撃態勢を整えられてしまう。

 どのみちハイリスクハイリターンな状況だ。その為、どう動くべきか全員悩んでいる。重々しい空気の中シリウスが口を開いた。


「僕は今が決着を付ける好機だと思います」


「それはつまりすぐに『ドルゼーバ帝国』に赴きガブリエルを討ち取るべき、という考えでいいのかな?」


 カーメルが神妙な面持ちで訊ねるとシリウスは真剣な表情で頷いて見せた。普段は慎重過ぎるほど慎重なあいつがこんな事を言うのは初めてかも知れない。


「これまでの情報からガブリエルという人物が用意周到で狡猾な人物であると分かります。であれば常に自分の周りに強力な護衛を付けているはずです。仮に我々が『クロスオーバー』の本拠地であるオービタルリングに行くことが出来たとして、そこには常に強力な防衛網が敷かれているでしょう。むしろ地上の方が防衛戦力は少ないと考えられます。そして我々が迅速に動けば、その分敵が用意できる戦力は少ないはずです」


「……なるほど。君の言い分は理解できた。しかし各国の装機兵部隊は散発する敵の攻撃に対して自国の防衛だけで精一杯の状況だ。今動かせるこちらの戦力は我々『聖竜部隊』ぐらいだろう。援軍が望めない状態で我々だけで突撃するのは余りにもリスクが高いと私は思う」


 意見が対立する形になったシリウスとカーメル。この千載一遇のチャンスに賭けるか安全を取るか……悩ましいところだ。

 それにしても個人的にはやはりシリウスの様子が気になる。いつものあいつなら意見が分かれた場合、自ら折れる事が多い。

 でも今は全然そんな様子は見せていない。何が何でもガブリエルを討つという意志を感じる。


「――それにこれは僕の推測なのですが、ここ三ヶ月の敵の動きは妙でした。量産型装機兵を大量生産し各国に攻撃を仕掛けていました。それで戦況が厳しい地域に『聖竜部隊』が派遣され世界中動き回っていた訳ですが……今考えれば時間稼ぎだったように感じます」


「時間稼ぎ……?」


「竜機兵や転生者が操る装機兵は非常に強力です。これまでループを繰り返してきた世界線とは明らかに違う状況です。それは彼らのこれまでの言動からも分かっていることです。おまけにここには彼らが特異点と呼称する人物が揃っています。――つまり『聖竜部隊』は『クロスオーバー』にとってイレギュラーな存在だと考えられます。用意周到なガブリエルが対抗策を講じないわけがない」


 会議室が静まりかえる。今やカーメルでさえシリウスの説明に聞き入っている状況だ。あいつの言葉にはそれだけの迫力と説得力があった。


「我々への対抗策か……シリウス、君はそれがどういったものだと考えているんだい?」


「……恐らくこれまでにない高性能の熾天セラフィム機兵シリーズを用意していると考えられます。かつてウリエルと呼ばれていたクラウス・グランバッハが造りあげた最初の熾天機兵を超えるほどの怪物を……。そんな機体が存在して彼らの本拠地であるオービタルリングでの戦いに持ち込まれたら勝機は無いに等しいでしょう。――だからこそ彼が地上にいる今が絶好のチャンスなんです」


「ふむ……」


 カーメルは顎に手を当てて考え込んでいる。するとこっちに視線を送った。

 

「ハルトはどう動くべきだと思う? 是非君の意見も聞かせて欲しい」


「僕も同じ意見です。『聖竜部隊』竜機兵チームのリーダーであり聖騎士でもある君の意見を聞きたい」


 今度は皆の視線が俺に集中する。こういうふうに目立つのはハッキリ言って苦手なのだが、この作戦会議は皆の命を左右する重要なものだ。

 二人の話を聞いた上での俺の考えを素直に話すことにした。


「……俺はシリウスの意見に賛同したいと思います。もしもガブリエルが新型の熾天機兵を用意しているのなら時間が経てば経つほど不利になります。時間を与えた分、操者が機体に慣れることになりますから。上手くいけばこれで戦いは終わります。――高いリスクを負う価値は十分にあると思います」


 カーメルには悪いがこれが俺なりに考え出した結論だ。

 一人の装機兵乗りとしての見解が強いが、強力な機体がいるのなら性能が発揮できないうちに叩くのがセオリーだ。


 それから検討を重ねた結果、シリウスの案が通り『聖竜部隊』による『ドルゼーバ帝国』本土攻撃作戦が決まった。

 幸い『第七ドグマ』は補給を終えたばかりだったので、このまま北に進路を取り明日作戦を決行することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る