第259話 パーフェクトオーベロンVSナーガラーゼ

 <カイゼルサイフィードゼファー>が<ブラフマー>と戦闘を開始する中、ティリアリアが搭乗する<パーフェクトオーベロン>は『クロスオーバー』の新型機である<ナーガラーゼ>と対峙していた。

 

「いくわよ、<オーベロン>! まずはこれで牽制する……エレメンタルキャノン!」


 <パーフェクトオーベロン>は掌に魔法陣を展開すると何発ものエーテル弾を発射した。

 その標的である<ナーガラーゼ>は雷を帯びたエーテル障壁で身を包み、全てのエレメンタルキャノンを無力化してしまう。


「あらあら、図体が大きいばかりで攻撃力は大した事ないのねぇ。それとも、もしかして手加減してるのかしら? だったら、とんだ筋違いだって事を教えてあげないと……ねぇ!!」


 バラキエルの意思を反映し<ナーガラーゼ>は、その場から急加速し間合いを詰める。

 全長百メートルにも及ぶ巨大な機体に似つかわしくない高機動にティリアリアは驚くが、咄嗟にフォトンソードを発生させると<ナーガラーゼ>の槍による刺突攻撃をいなした。


「くぅ……こんなに大きいくせに何てスピードなの!」


「へぇー、初見で今の攻撃に反応するなんてやるじゃない。さすがはウリエルの遺産ってところかしら?」


 互いの得物が衝突した際に接触回線が開き、操者の姿がお互いのコックピットに表示される。

 バラキエルはティリアリアの姿を見るとクスクス笑い始めた。


「あらあら、大きなおっぱいをばるんばるん揺らして楽しそうね」


「なっ……! 人の身体で変な表現をするのは止めてくれる!?」


 ティリアリアは怒りと気恥ずかしさからか顔を赤くしながらフォトンソードで敵の槍を切り払い、もう片方の手からもフォトンソードを出力すると袈裟懸けに斬りつける。

 バラキエルは機体背部の六基の隠し腕を稼働させると、フォトンソードを掴んで受け止めた。


「フォトンソードを受け止めた!?」


「うふふふ、ごめんなさいねぇ。あまりにも派手に揺れていたから気になっちゃって。――ところであなた、よくそれに乗る気になったわねぇ。オリジナルではないにしても、今までループしてきた中で百回以上はあなたを悲劇に陥れた機体なのよ。敵対した竜機兵たちを何度もそれで始末してきたでしょ? 第二特異点のあなたには、リセットされた期間の記憶が断片的に残ってるはず」


「……そんな事、重々承知しているわ! でもね、<オーベロン>は私を不幸に陥れる為に造られた機体なんかじゃない。この子には、お爺様とお父様とお母様の願いが込められているのよっ!!」


 ティリアリアの闘志に呼応するかのように<パーフェクトオーベロン>の頭部前方に魔法陣が展開、エーテルエネルギーが収束していく。

 

「これを食らいなさい! フォトンレーザー発射!!」


 魔法陣から高密度に圧縮された光線が発射されると、<ナーガラーゼ>に直撃し展開されている障壁ごと吹き飛ばして大地に叩きつけた。


「中々の威力じゃないのよ! でも、この<ナーガラーゼ>の障壁を破るまでにはいかないようね。――って、ちょっと正気!?」


 余裕を見せていたバラキエルの表情が引きつる。

 コックピットモニターにフォトンレーザーを照射しながら突っ込んでくる<パーフェクトオーベロン>の姿が映っていた。

 その両手からは、さらに出力を増したフォトンソードが伸びている。あれで斬られれば最新鋭の熾天セラフィム機兵シリーズでもただではすまない。


 <ナーガラーゼ>は専用の槍――エーテルロンギヌスの穂先でフォトンレーザーを拡散させると、突撃してきた<パーフェクトオーベロン>の攻撃を受け止めた。

 エーテルロンギヌスと二刀流のフォトンソード――高密度のエーテルで構成された武器同士の衝突で激しく火花が散る。


「……なるほどね。正直、あなたを甘く見過ぎていたようね、聖女様。このアタシの<ナーガラーゼ>とここまで互角にやり合うなんてやるじゃない。これじゃ、ラファエルちゃん達を助けに行く余裕なんてなさそうね」


「あなたをハルトの所へ行かせないわ! ここであなたを食い止めてみせる。いえ、倒してみせる!!」


 通常の装機兵の規格を大きく上回る二体の怪物の戦いはますます激しさを増していく。

 そして同時に戦いを繰り広げている<カイゼルサイフィードゼファー>と<ブラフマー>の鍔迫り合いもヒートアップしていくのであった。




 ティリアリアの駆る<パーフェクトオーベロン>は敵の新型機を抑えてくれている。あの感じならパワー負けはしていないようだ。

 それならあっちはティリアリアに任せて俺は目の前に立ちはだかる敵に集中できる。――そう、以前にも戦った熾天機兵<ブラフマー>。

 あの時は<サイフィードゼファー>の状態でやり合ったけれど、向こうも本気で戦っていなかった。

 しかし、今のラファエルは怒りを隠そうともせず俺に向かって来る。


『小僧ォォォォォォォォォ!! お前は一体何を考えてやがる!!!』


 <ブラフマー>はザグナルサイズを振り回して俺を斬り刻もうとして来る。この殺気は本物だ。前回戦った時とは明らかに違う。

 右前腕に装備したエーテルカリバーンで何度も切り結び鍔迫り合いに突入した。パワー負けしていない。かつて王都を奇襲し俺たちに屈辱を植え付けた機体と互角に戦えている。

 その事実に安堵するものの、今はラファエルの言動と怒りの方が気になる。


「どういう意味だ、ラファエル!?」


『どうしてティリアリアが<オーベロン>に乗っている!? お前はあいつをあの機体の呪縛から解放してやりたかったんじゃないのか? それを……!!』


 その言葉を聞いてラファエルの怒りの理由が分かった。それに、他にも推測の範疇はんちゅうを出なかった事柄が現実味を帯びてきた。

 きっとラファエルとミカエルは――。


「……ラファエル、あんたがそこまでティアを気に掛けているのは彼女がクラウスさん――いや、ウリエルの孫だからか?」


『……っ!?』


 ラファエルは一瞬目を見開き動揺を隠せないでいた。それを見て俺は確信した。


「やっぱりな。マドック爺さんの話だとクラウスさんは、故郷に残してきた友人二人をずっと気に掛けていたそうだ。それがラファエル――あんたとミカエルの事だったんだな」


『……なんの事だかさっぱり分からんな』


「はぐらかそうとしても無駄だ。ミカエルはクラウスさんを尊敬していた。それにあんたの言動や行動からクラウスさんやティアへの執着が見れる。今そうして怒っているのが何よりの証拠だろ!」


 <ブラフマー>が明らかにパワーダウンした。その隙を突いて鍔迫り合いを維持したまま地面に向かっていく。

 地面に衝突する直前で切り払われて滑り込むように大地に不時着した。お互いすぐに体勢を立て直し武器を構える。


『小僧が一丁前に……生意気なんだよ!!』


「――以前ティアからこんな話を聞いたことがある。ティアがまだ小さくてご両親やクラウスさんが健在だった頃、屋敷によく遊びに来ていた男性がいたらしい」


『…………』


 一瞬だけラファエルの目が震えるのを見た。どうやら間違いなさそうだ。


「その人物はいつも黒ずくめの服を着ていてかなり筋肉質な体格をしていた。一見無愛想だけど幼いティアとよく遊んでくれたらしい。そんな彼の事をティアは『黒のおじ様』と呼んで慕っていた。けれど、クラウスさん達が立て続けに亡くなった頃から姿を見せなくなったそうだ。――あんたのことだろう、ラファエル!?」


『……知らねーな!!』


 <ブラフマー>の頭部のフェイスマスクが上下に開き魔法陣が展開される。奴のお得意のハウリングボイスが来る。

 あれを食らったらさすがの<カイゼルサイフィードゼファー>でも危ない。距離を取って回避に専念すると大気を揺るがす衝撃波が機体近くを通り過ぎていった。

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