第258話 竜の皇帝と妖精王

 攻防戦は振り出しに戻ったかに見えた。だがどうもミカエルの様子がおかしい。

 <シヴァ>は完全に修復を終えて万全の状態である一方、操者であるミカエルは苦しそうにしている。


「……そうか。連続で結構な自己修復をやったから操者に負担が掛かったのか。それなら悪いけどここで決めさせてもらう!」


 操者と共に機体のパフォーマンスが低下している瞬間を逃す手は無い。

 一気に勝負を決めようと斬りかかると<ブラフマー>が突然横入りし死神鎌――ザグナルサイズで受け止めた。


『ラファエル! どういうつもりだ。これは一対一の戦いだと言ったはずだ!!』


『テメーがいつまでもチンタラやってるからだろーが。状況が変わった。奴らの援軍が来たんだよ』


 意図しない援護にミカエルが怒りを露わにするとラファエルは厳しい表情でたしなめる。

 彼等の会話から俺の味方が来たということらしいが、<ニーズヘッグ>到着にはもう少し時間が掛かるはずだ。


 一体誰が――?


『ハルトッ!!』


 その時モニターにティリアリアが映り大きな声がコックピット中に響き渡った。

 あまりの声量に耳がキーンとなる。


「うおっ!? ……って、ティアか? 援軍に来てくれたのってお前か」


『そうよ。シェリンドンさんから『第七ドグマ』に支援要請があって私が来たの』


「そいつはありがたいけど、『第七ドグマ』で<オーベロンアーマー>のテスト中だったはずだろ?」


『そのテストが終わって実戦可能になったから来たんでしょ。――それと改修が終わった<カイザードラグーン>も一緒に持ってきたわ』


「マジか! そいつは助かる。合流しよう!」


『分かったわ!』


 <サイフィードゼファー>を飛竜形態に変形させ空中に移動するとそこには<ティターニア>と要塞フォートレス形態フォームで飛行する<オーベロンアーマー>、それに俺の『灰身けしん滅智めっち』に対応すべく改修を受けた<カイザードラグーン>がいた。

 

「ティア、救援に来てくれてありがとう」


『そりゃあなたの妻ですから。夫のピンチには駆けつけないとね。『第七ドグマ』の近くだったから良かったわ』


 とても頼もしい事を言ってくれる俺の第一夫人。かつての弱気な部分はそのまま強さとなって今の彼女を作り上げている。

 身体的にも精神的にも死角はない。平手打ちで致死的ダメージを与えられるのだからハンパない。


 無事にティリアリアと合流を果たすと敵さんも三機一緒になって空に上がってきた。


『あれが<シヴァ>、<ブラフマー>ね。それともう一機は新型?』


「ああ。機体の特徴から<ナーガ>タイプの後継機だ。量産型とは違って性能向上のワンオフ機だと思う。『鑑定』で判明した機体と操者のデータをそっちに送るから参考にしてくれ」


『了解……かなりの性能ね。でも今の私なら何とか抑えられると思うわ』


 ホント頼もしい。確かにクラウスさんの最後の遺産を受け取ったティリアリアなら幹部用熾天セラフィム機兵シリーズとも互角に渡り合えるだろう。

 

「それなら俺は<シヴァ>と<ブラフマー>を相手にする。<ナーガラーゼ>は任せていいか?」


『了解、それなら早速合体して戦闘態勢を万全にしないとね』


「ああ! やってやるか!!」





 <サイフィードゼファー>と<ティターニア>は支援機を伴い二手に分かれ、各々エーテルエネルギーを高めていく。


 ハルトは高度を上げると合体シークエンスを開始した。


「機体各部チェック……問題なし。<カイザードラグーン>とのシンクロ率百パーセント、その他諸々まとめてオールグリーン……いけるっ! ストレージ範囲拡大、合体フィールド形成……聖竜合体!!」


 範囲が拡大し結界となったストレージ内で合体が開始された。


 人型に変形した<サイフィードゼファー>の周囲を<カイザードラグーン>が踊るように飛び回ると、本体から六つのパーツをパージする。

 それは脚パーツ、肩パーツ、前腕パーツとなって順次装着されていく。

 

 次に下方より上昇してきた本体部分から竜の頭部パーツが外され胸部に装着される。

 そして背部に<カイザードラグーン>本体が接続されると二基のエーテルフェザー発生翼が展開された。

 続いてワイヤーブレード参式を素体として増加装甲が付与された尾部――ブレードテイルが背部下方に装着されるとエーテルが血液の様に通い始め大きくしなる。


 最後に頭部を覆う兜状のパーツが装着されると鋭い牙のようなフェイスガードが口部を包み、額のアークエナジスタルを核として左右と前方に伸びる大型のブレードアンテナが展開した。

 

「聖竜機皇……カイゼルサイフィードゼファーーーーーーー!!!」


 全ての合体シークエンスが完了し深紅のデュアルアイと全身のエナジスタルを光らせながら白き装甲を纏った竜の皇帝が起動を開始した。




 そしてそれと並行してもう一つの王が誕生しようとしていた。


 純白の城を彷彿とさせる外見を持つ<オーベロンアーマー>要塞形態。

 重厚な見た目ながら大空を飛翔する姿はそこにいるだけで相手にプレッシャーを与える。

 その要塞から飛び上がった<ティターニア>は頭上で輝くエーテルハイロゥを広範囲に展開し自機と<オーベロンアーマー>を取り込む結界を形成した。


「<オーベロンアーマー>とのリンク開始。いくわよ、<ティターニア>。――よ、妖精合身!!」


 ティリアリアが全力でシャウトすると合体シークエンスが開始され<オーベロンアーマー>が変形を始める。

 要塞の各部が稼働し一瞬で姿を変え人型へと変貌する。

 巨大な人型の怪物がその胸部装甲を開くと中はがらんどうであり、そこにあるべき心臓部は存在しなかった。


「ドッキングするわよ、<オーベロン>!」


 <ティターニア>の両脚が背部に折りたたまれコンパクトになると<オーベロンアーマー>の胸部内に収納され各部装甲が閉じ頭部の一つ目モノアイが光を灯す。

 背部のエーテルフェザー発生翼と頭上のエーテルハイロゥを展開し始めた巨大な姿は圧倒的存在感を周囲に放つ。


「合身完了! 妖精王、パーフェクトオーベロンッッッ!!」


 妖精姫の力を得て妖精王は自らに定められた真の使命を果たすべく再び起動を開始した。

 エーテルフェザー発生翼から放たれるエーテルの光は天使の羽の如く舞い散り純白の装甲と相まって優美さと荘厳さを感じさせる。


 かくして、かつて『アルヴィス王国』の王都上空で死闘を繰り広げた二体の王は並び立ち、崩壊を呼ぶ天使たちと相対するのであった。

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