第257話 驚異のスキル『灰身滅智』
『くっ、何だ今の動きは? 一瞬でこちらの視界から消えただと!?』
「斬撃を浴びせる前に前方に飛んで威力を半減させたか。さすがの判断力だな。でもここからが俺のターンだ!」
今のやり取りでミカエルは警戒心を持ったはずだ。さっきみたいな意表を突いた手はもう通じない。
奴の反応速度を超える動きで一気にたたみ掛ける。
<シヴァ>が方向転換した瞬間を見計らって加速スキルで急接近し、そのまま横薙ぎに一太刀入れる。
『速い……!!』
「まだまだこれからだ。食らいなっ!」
一瞬怯んだ隙を突いて<シヴァ>の身体の至る所に斬撃を打ち込んでいく。
「面、胴、小手、肩、脚……どうりゃあああああああ!!」
気合いと共に最後は袈裟懸けを浴びせて一旦距離を取る。ミカエルは反撃をする事なく<シヴァ>を二、三歩後退させた。
『バカな……! 先程とはまるで動きが別人。それに<サイフィードゼファー>のスピードとパワーが段違いに上がっているだと……。こんな……こんな事が……』
ミカエルはショックを受けたのかワナワナ震えている。信じられない者を見るような目で俺をモニター越しに見ている。
「今ので分かっただろ。これがクラウスさんが目指した想いと力が一体となった装機兵――竜機兵の性能だ。この機体にはクラウスさんの他にもマドック爺さん、シェリー、沢山の人々の思いが込められている。それは未来を繋ぐ為の力だ。過去に振り回されているお前等とは違うんだよ!!」
『くっ……』
「だから……これ以上俺たちの邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
気合いを放ち前進すると<シヴァ>が後方に飛びながら魔方陣を展開、そこから膨大な量の炎が噴出し左手に収束すると球体の形になった。
『そのような機体にこの<シヴァ>がやられるものか! エーテル収束完了、プロミネンスボール……シュートッ!! これで燃え尽きろっ』
<シヴァ>の掌に収まりきらないサイズの火球が俺に向けられて放たれる。
火球の動きは速いが単発だ。余裕で回避できると思っていた矢先、その動きに違和感を覚えた。何だか妙にブレている。
こっちに近づけば近づくほどブレが大きくなっていく。
「これは……ちぃっ!」
機体を急いでプロミネンスボールから離れさせた直後、その炎の玉は大きく軌道を変えて地面に落下し周囲を炎で焼き尽くした。
あのままギリギリで躱そうとしていたら確実に<サイフィードゼファー>は炎に飲まれていた。
「いきなり変化球とはな。やってくれる!」
広がる炎によって視界が悪く、エーテルセンサーも敵の反応を見失ってしまう。
意識を研ぎ澄まし<シヴァ>の気配を探ると、左側から接近する殺気を感じた。次の瞬間、炎の中から<シヴァ>が勢いよく現れ剣先を突き立てながら突っ込んで来た。
『消えろ、ハルト・シュガーバイン!!』
エーテルカリバーンでルドラソードの刀身を弾き鍔迫り合いに持ち込む。
さっきまではパワーで遅れを取っていたが『
刀身の接触部から激しい火花が散り、その閃光はどんどん強くなる。その光に呼応するよう鍔迫り合いにも変化が訪れていた。
徐々に刃が<シヴァ>側に近づいていった。
『バカな……パワー負けしているだと!?』
「操者である俺の変化に応じて<サイフィードゼファー>もあらゆる性能が上がってるんだよ。いい加減認めたらどうだ。クラウスさんの理想はちゃんと実現したんだよ!」
『認めん……こんな事実は認められない! ウリエルと私が造り上げた<シヴァ>が、新人類と共に造った竜機兵などに劣るわけがない!!』
ミカエルは剣を斬り払うと左肩を突き出して突進してきた。<シヴァ>の体当たりによって<サイフィードゼファー>は押し込められてしまう。
<シヴァ>のエーテルハイロゥは輝きを増し、その内部ではエーテルエネルギーが高まっていく反応が確認できる。
これはさっきヤツが使用したティヴァシマティの時と同じ反応だ。
「こいつ……!」
『お前とその機体の強さは分かった。だが、勝つのは私だ! いくらその機体でもゼロ距離でティヴァシマティが直撃すればさすがに持つまい!! さらばだ第四特異点、ハルト・シュ――』
エーテルスラスターを全開にして膠着状態に持って行き、左手で敵の顔面を殴って怯んだ隙に横に逃げる。
本来ならここで一旦距離を取るところだが、この一瞬を最大限活かしてみせる。
「言い終わる前に殴って悪かったな。ついでにもう一発食らえ!」
エーテルカリバーンの一太刀を<シヴァ>の右前腕部にたたき込むと切断には至らないものの、かなり深くまで斬り込めた。
腕が損傷した影響で手の把持力が失われ、ルドラソードが金属音を立てながら地面に落下する。
『しまっ――!』
「武器が無くなれば反撃できないな。ボコボコにしてやる!!」
この場から離れようとする<シヴァ>に張り付き斬撃を浴びせる。何度もエーテル障壁ごと装甲を斬り付けダメージが蓄積していく。
『まだだ! まだ終わらんっ!!』
俺が近くにいるにも関わらずミカエルは術式兵装の使用に踏み切った。敵の
周囲に幾つもの火球が生成されるとコックピットに警報が鳴る。
「こいつ、まさか自分ごと俺をやる気か!?」
『このままやられはしない。お前も道連れだ』
「冗談じゃないぞ!」
<シヴァ>から急いで離れて迎撃態勢に入ると間髪入れずプロミネンスボールの群れが襲いかかってきた。
それを一つ一つ剣で斬り裂き撃墜していく。
「一個、二個、三個撃墜……次ッ!」
火球はかなり速い。目だけで追えば反応が遅れる。殺気を感じ取り軌道を先読みして叩き落とす。
それを繰り返し被弾する事無く全てを斬り落とした。
『あの数を全て叩き落としただと。その超反応……もはや普通の人間とは言いがたいレベルだな』
「何せ人間辞めた怪物共と互角以上にやり合わないといけないんでね。こっちも人間を辞める覚悟ならとっくに出来てんだよ。それで今ので時間稼ぎしている間に右腕の自己修復は終わったみたいだな」
<シヴァ>は右手にルドラソードを装備している。さっき中破した右前腕は完全に直っていた。
セルスレイブによる修復速度には本当に嫌気が差す。
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