第256話 ミカエルの狂気②

「くそっ、範囲攻撃でこの威力……やっぱりチートだな」


 <シヴァ>の術式兵装ティヴァシマティによって俺たちがいた工場は消し飛び、残っているのは基礎部分の一部と赤熱化した瓦礫だけだった。

 俺は直撃寸前に防御系スキルの使用と全てのエーテルエネルギーを総動員して防御に徹した。

 そのお陰か機体はかなりのダメージを受けたものの五体満足の状態だ。これなら回復系スキルで損傷箇所を修復できる。


「<サイフィード>よく耐えてくれた。今直すからちょっと待っててくれ」


 バトルスキル『再生』で機体を完全修復する。

 だがこういう強力なスキルは再使用までのクールタイムが長いので、基本的に一戦闘で一回しか使用できない。

 つまり今度同じダメージを受けたら機体の自己修復機能と回復率が低いスキルで対応しないといけない。

 そのスキルにしたってやはりクールタイムがあるので連続使用は不可能だ。


「これ以上ダメージを受けたら確実に詰む……なんとかして活路を開かないと負ける!」


 <シヴァ>には未だにダメージと言えるような攻撃を与えられていない。

 それに中途半端な攻撃を食らわしたとしてもセルスレイブによる自己修復機能で即座に回復されるだろう。


『先ほどの攻撃はエーテルハイロゥ破壊時のパワーダウンを狙ってやったのだろうが、それに関しては既に対策済みだ。エーテルハイロゥの耐久値は以前よりも遙かに増強してある』


「通りでスターダストスラッシャーの直撃を受けてもびくともしないわけだ」


『これまでの戦いでお前たちはエーテルハイロゥを狙ってくる戦法を多用していたからな。出力の低い量産型には通じるだろうがオリジン専用機に関してはその手はもう通じない。――熾天セラフィム機兵シリーズ唯一の弱点をいつまでも放置しておくと思ったのか? 実に舐められたものだな。そういう愚かなお前たちだからウリエルが託した竜機兵の性能を活かせないのだろう。実に不愉快だ』


「…………」


『本来ならウリエルこそが我々『クロスオーバー』の指導者として相応しい人物だったんだ! それがお前たち新人類に心を許したばかりにオリジンとしての永遠を捨て、『アルヴィス王国』のような小国の錬金技師などになってしまった。そして新人類と共に造り出した遺作が竜機兵などという彼の理想とは程遠い出来損ないの代物になってしまったんだ。もし充実した研究施設であったなら……もし一緒に研究に携わったのが私だったならこんな粗末な物は生み出されなかったはずだ! 彼が理想とした想いと力が渾然一体となった兵器が生み出せたはずなんだ!! だから全ての竜機兵は私が破壊する。そして彼の子孫でありながら愚かな行動しか出来なかったティリアリア・グランバッハやクリスティーナ・エイル・アルヴィスを始めとするグランバッハの血筋は根絶やしにする。それが私に出来る彼への手向けだ!! 彼をおとしめる存在は全てこの世から抹消しなければならない!!』


「…………うるさいんだよ」


『なに……!?』


「さっきから黙って聞いてれば気持ち悪い事をぺらぺら言いやがって。おまけにティアやクリス……クラウスさんの子孫全てを殺すだって? ふざけんのも大概にしろっ!! てめーなんぞにそんな事させてたまるか!! お前は狂ってる。狂ったヤツにこれ以上好き勝手させる訳にはいかない。教官の敵討ちも含めて、お前は俺が地獄に直接ぶち込んでやる。覚悟しろよミカエル。お前の大事な<シヴァ>ごとてめーを斬り刻んでスクラップにしてやる!!!」


 怒りが頂点に達しようとした時コックピットモニターの一部が点滅した。それはパッシブスキル『灰身滅智けしんめっち』が使用可能になった事を知らせる合図だった。

 これで反撃の準備は整った。ここから巻き返してやる。

 両手に装備していた剣をストレージに戻すと代わりの武器の取り出し準備に取りかかる。


「ストレージアクセス!」


 <サイフィードゼファー>両肩のアークエナジスタルが輝く。

 そこから出現した二つの光玉を取り出しぶつけ合うと内包される術式が連結し一振りの黄金の剣へと姿を変える。


「マテリアライズ完了、ドラゴニックウェポン――エーテルカリバーン!!」


 エーテルカリバーンを装備して構えるとミカエルは目を細めて俺を見ていた。


『ドラゴニックウェポンか。それを装備した竜機兵の性能は飛躍的に向上するが、その程度の強化では<シヴァ>には届かない。ドラグーンモードを搭載していないその機体ではこれ以上の性能アップはない。その気迫だけは認め――』


「パッシブスキル『灰身滅智』発動!」


 ミカエルの言葉を遮るように俺はスキルを発動させる。集中力が極限まで達し体中から力がみなぎる。

 ――これならいける!


『なに……? 何だそのスキルは!?』


「実演しながら教えてやるよ!!」


 『灰身滅智』を発動させた事により俺のステータスが倍近くまで向上し、それが<サイフィードゼファー>の性能に反映されていく。

 そして俺の怒りはそのままに思考は澄み切った水の様にクリアになる。瞬時に<シヴァ>を追い詰める戦術を数通り組み立てると実行する為に動き出す。


 エーテルスラスターを噴射し真っ直ぐ正面から向かって行く。


『多少動きが速くなったようだが、<シヴァ>に対してそのような単調な動きは命取りだ』


 <シヴァ>が蜂の様に俊敏かつ複雑な動きで飛行を始め、<サイフィードゼファー>の後ろに回り込んでルドラソードを振り上げた。


「――遅いっ!」


 剣が振り下ろされる直前、サイドステップで躱し敵の攻撃は空を切る。

 その回避行動から流れるように<シヴァ>の後ろに回り込み、エーテルカリバーンで背部に一撃を入れて斬り飛ばした。

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