第255話 ミカエルの狂気①
暴風の塊とも言える風の斬撃波に工場の外壁は耐えきれず崩壊し、<サイフィードゼファー>は炎上する工場内部へと吹き飛ばされてしまった。
転倒する寸前で各部エーテルスラスターを調整し受け身を取ってすぐに起き上がる。
機体を立たせすぐに二刀流を構えると、大きく穴が開いた外壁から<シヴァ>が中に入ってきた。
ちらっと工場内を確認すると思ったよりも広い空間になっている。戦闘するには十分な広さがある。
ただし工場の中は敵の攻撃によって燃え上がっていて長居はしたくない場所と化していた。
「この状況……初めてお前を動かした時のことを思い出すな。あの時も燃える工場の中で初めて敵と戦ったりして必死だったな」
帝国部隊の奇襲を受けて炎上する『第六ドグマ』の中で<サイフィード>を初めて起動させた時を思い出す。
コックピットモニターには世界が真っ赤に映り地獄絵図と化していた。あの時はティリアリアが一緒に乗っていた事もあり必死すぎて恐怖は二の次だった。
初陣が終わった後に様々な感情が押し寄せてコックピットからしばらく動くことが出来なかったっけ。
「――あの時に比べればこんな恐怖なんて大したことないよな」
自分を鼓舞するように独りごちる。
深呼吸をして肺から新鮮な酸素を取り込み思考を張り巡らせる。戦いで重要なのは戦術だ。相対する敵に対して最も効果的な戦術を考え、それを実行するんだ。
戦いは適度な熱さと冷静さを保っている方が勝つ。このバランスを欠けば戦場のプレッシャーに呑まれるか陳腐な攻撃をして敵に裏をかかれてジエンドだ。
「よし……。やってやるか!!」
その場から飛び出しジグザグに動きながら<シヴァ>に接近する。向こうは迎撃するでもなくルドラソードを構えて俺を待っていた。
そこに吸い込まれるように俺は二刀流で斬り込む。当然ミカエルはその斬撃を受けきって斬り返してきた。
今度は俺がその斬撃を受け止め反撃をする。このような剣戟が繰り返される中、ミカエルが話を始めた。
『――クラウス・グランバッハ……ウリエルは実に優秀な技術者だった』
「突然何を……!?」
『彼はその類い希なる頭脳を遺憾なく発揮し
問いかけながら<シヴァ>の攻撃が徐々に苛烈さを増していく。ルドラソードの斬撃の速度と重さが明らかに上がっている。
「そんなの知るか! ってか自分でクラウスさんが優秀だって言ってるじゃないか」
『そうだ。彼がいなくなった後に開発された機体は全て彼が手がけた物の劣化品にすぎない。それが彼の後釜である私の実力だった。プロトタイプの三機に近い性能の機体を開発可能になったのは最近のことだ』
ルドラソードによる刺突攻撃が<サイフィードゼファー>側頭部のブレードアンテナをかすめる。
「ちっ……だから何が言いたいんだよ、あんたはっ!!」
『ウリエルは<ヴィシュヌ>の開発をしている時に言っていた。乗り手と機体が共に成長する……言うなれば想いの強さと能力の強さが渾然一体となった兵器を造りたいとな。それが実現すれば人は力に溺れる事無くコントロールする事が可能になる。かつて我々旧人類が力を制御できずに惑星を崩壊させたような惨劇を回避できるようになるとな!』
「乗り手と機体が共に成長するだって? そのコンセプトってもしかして……」
クラウスさんが残した記録で言っていた事と同じ事をミカエルは言っていた。そして既にその思想を取り入れた機体は完成していた。
――というより今俺が乗っている機体こそまさにそれだ。
『ここまで説明すれば私が言いたい事が分かっただろう。――そうだ。お前たちが乗っている竜機兵こそが彼が理想としていた兵器の完成形だ。しかし、これまでに私が見てきた竜機兵の性能は実に酷いものだった。それこそ通常の装機兵に毛が生えた程度のお粗末な性能しかなかった!!』
ミカエルの感情を表すように<シヴァ>はルドラソードを大きく振りかぶって思い切り叩きつけてきた。
ただならぬ殺気を感じ機体を瞬時に後ろに跳ばして回避すると、ルドラソードの直撃を受けた地面が爆発したように吹き飛ぶのが見えた。
「今のをまともに受けていたらエーテルブレードもろとも機体が大ダメージを負っていた……危なかったぁ」
背筋が寒くなるのを感じたが、その一方でチャンスとも思った。
今のミカエルは明らかに冷静さを欠いている。逆上した状態では予期せぬ事態が起きた時の反応が遅くなるはずだ。
「これで決める! ブレードパージ、術式解凍――スターダストスラッシャー!!」
ワイヤーブレード参式の刃を分割して流星の如く射出する。有人機を凌駕する速度で飛翔する
「狙いはそこだ。いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
標的を<シヴァ>の頭の上に浮かんでいるエーテルハイロゥのみに絞り火力を集中させる。
変則的かつ高速移動する刃の群れが天使の輪を斬り刻んでいく。
だが俺は違和感を覚えていた。
「……おかしい。いつもならダメージの蓄積で消滅するはずなのに……どうして消えないんだ!?」
『――愚かだな。エーテル収束……八十……九十……臨界点突破。ティヴァシマティ……照射開始ッ!!』
<シヴァ>を囲むように幾重にも魔方陣が展開、風と炎が収束され一つに混ざり合い爆発的にエネルギーが高まっていく。
そして魔方陣と共に<シヴァ>が太陽のように光り輝いた。赤い閃光が広がっていき半壊していた工場を燃やし尽くしていくのが一瞬だけ見えた。
その光はすぐ近くにいた<サイフィードゼファー>を飲み込み、モニターが赤い光で覆われると同時に激しい衝撃が俺を襲った。
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