第254話 ハルトVSミカエル
◇
「すぅーはぁー」
深呼吸し正面に現れた三体の敵機を見る。
三機中二機は見覚えのある機体だ。忘れもしない……いや忘れられる訳がない。
燃え上がる工場の中に佇むその姿があの時の、蹂躙された王都の光景と重なる。
「<ブラフマー>……<シヴァ>……それにもう一機は見た目からして<ナーガ>の強化版か?」
新顔の機体を『鑑定』すると<ナーガラーゼ>という名前だった。
操者の名前はバラキエルか。機体の性能も操者のステータスも他の二機と遜色ないレベルだ。
一機だけでも手強いのに三機同時を相手にするのはさすがに分が悪い。どうする……?
『久しぶりだな、ハルト・シュガーバイン。王都で戦った時以来か』
コックピットに流れてきた声を聞いて心臓がドクンと脈打つ。燃える王都の戦いで教官を失った瞬間がフラッシュバックする。
「……ミカエル!!」
<シヴァ>が強制的にエーテル通信を繋げコックピットに美形の男の姿が映し出される。声を聞いていなければ女性と見紛う美しさがある。
だが俺は知っている。この男の強さを。そしてこの男が乗っている<シヴァ>の力を。
教官の
『ふっ、随分と怖い顔をしているな。まあ無理もないか。私はお前の師の敵なのだからな』
「……まさかこんな所であんたに会うとは思わなかったよ。てっきり『ドルゼーバ帝国』本土にいるものと思っていたからな」
『こちらにも色々と事情があるという事だ。しかしいきなりお前が釣れるとは思わなかったぞ。お前ほどの男がたった一人で偵察任務とは『聖竜部隊』は余程人手が足りていないらしい』
「人手が足りないのはどこも同じだ。それにしても前回とは違って随分と口が回るじゃないか」
ミカエルは顔色一つ変えず会話を続けている。『クロスオーバー』の幹部が三人一緒に行動しているからには何か狙いがあるはず。
でも今はこの場を何とか切り抜けなければならない。幹部専用の
『ラファエルとバラキエルは下がっていろ。私一人で相手をする』
『……好きにしな。確かに三対一じゃ弱い者いじめみたいでかっこわりーしな』
『ミカエルちゃんがそう言うのなら従うわ。それにこの後の事を考えるとこちらの戦力は温存しておいた方が良さそうだし、ね』
聞こえてきたのはラファエルの声ともう一つはバラキエルという人物の声のようだ。どいつもこいつも声色から余裕たっぷりなのが分かる。
でもこれはチャンスだ。一対一ならなんとかなるかもしれない。少なくともこっちの奥の手を出さずに済みそうだ。
「余裕だな、ミカエル。お仲間と一緒に戦わなかった事を後悔させてやる!」
『強気な発言をしているようだが安堵が表情に出ているぞ。あれからどれだけ強くなったのか見せてもらう!!』
言い終えると同時に<シヴァ>がエーテルハイロゥを展開し急接近してきた。一瞬で間合いを詰めると斧と剣が合体した様な武器で斬りかかってくる。
その斬撃をエーテルブレードで受け止める。刀身が擦れ合って火花が散った。
「くっ、相変わらず何て重い斬撃だ。受け止めるので精一杯かよ!!」
刀身にエーテルを集中して硬度を最大に保ってはいるが、それでも何とか持っている状態だ。一瞬でも気を抜けば剣が破壊されそうになる。
『どうした、その程度か? あの時と何も変わっていないようだが……とんだ肩透かしだったようだな』
「結論を出すにしては早すぎるんじゃないの? 油断してると足元をすくわれるぞ!」
ビビるなっ!!
今までだって何度も危険な戦いはあった。その度に恐怖を克服してきたはずだ。今更こんな奴に何を恐れるってんだ!!
「うおおおおおおおおおおりゃあああああああああ!!」
左手に装備しているワイヤーブレード参式を敵の刀身に打ち込んで二刀流で対応する。
瞬間的に力を爆発させて剣を弾くとその隙にバックステップで距離を取り体勢を整える。
「はあ……はあ……以前に比べてこっちは機体の性能が段違いに上がっているはずなのにどうしてパワーで圧倒される?」
<サイフィードゼファー>の性能は<サイフィード>のドラグーンモード発動時以上のスペックだ。
王都で戦った時はドラグーンモードである程度互角に斬り結んでいたのに今は明らかにパワー負けしている。
ドラゴニックウェポンを使用してない状態だとしてもこの状況はおかしい。
『さすがに腑に落ちないようだな。ならば種明かしをしてやろう。以前王都で戦った時、私は<シヴァ>の性能を半分も出していなかったのだよ』
「なっ……」
嘘だろ? あの圧倒的な性能で全力の半分以下だったっていうのか?
もしもそれが本当なら今の状態じゃ例えサシの勝負だとしてもこっちの勝ちは薄い。
『今回は王都戦のような手心は加えない。全力で叩かせてもらう。――死にたく無ければ全力で抵抗して見せろ!』
<シヴァ>のエーテルハイロゥが一回り巨大化したかと思うとヤツは更に機動性を増して襲いかかってくる。
重力を無視したアクロバティックな動きでこっちを翻弄しながら接近し剣で攻撃してくる。
防御して反撃しようとした時には距離を取っており、そこから再び急加速による接近戦を繰り返し仕掛けてくる。
まるで教科書に載せたいぐらいの基本に忠実なヒットアンドアウェイだ。
カウンターを何度も試みるものの、ミカエルは毎回微妙にスピードや攻撃の挙動に変化を加えていて対応しにくい。
ここまで戦いにくい相手は初めてだ。前回とはレベルが違う。<サイフィードゼファー>も高速戦闘は得意だがヤツの動きは段違いだ。
攻撃に固執しすぎて防御を疎かにすれば一気に装甲を持っていかれかねない。かといってこのままじゃジリ貧だ。
コックピットモニターに表示されるスキル発動状態を横目で確認する。未だ『
まだ俺の戦意が十分に上がっていない。この状況をひっくり返せる可能性があるのはこのスキルだってのに……。
『よそ見をするとは余裕だな』
「しまっ――!」
スキルに思考を割いた一瞬の隙を突かれ<シヴァ>の接近を許してしまった。
敵の斬撃が目の前に迫り直撃寸前で二刀流で防御するが、そのパワーを抑えきれず工場の外壁に叩きつけられる。
「がはっ!!」
『戦いは一瞬で決着がつく。強者同士の戦いであれば尚更な。――ルドラソード出力上昇、エーテルエンチャント率百パーセント。風のエーテルによる斬撃を受けるがいい。クレセントエア!』
体勢が崩れたところに三日月状の風の斬撃波が飛んでくる。このタイミングじゃ回避は間に合わない。
二本の剣を十字に交差させエーテルを集中し防御に徹する。その直後クレセントエアが二刀流に直撃した。
「くっ……ぐぅっ……!」
斬撃波自体は受け止められたが、生じた細かい風の刃が<サイフィードゼファー>の全身に刻まれていった。
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