第253話 聖竜は無双する
◇
ハルトは<サイフィードゼファー>を十二機の<量産型ナーガ>へと突っ込ませるとワイヤーブレード参式を鞭形態にして敵を滅多打ちにする。
その連撃は敵の関節部に集中しており、何機かは肘を破壊されたり膝を破壊されたりして四肢のいずれかを失っていった。
「量産型と言えど
たった一機で十二機の敵を手玉に取りながらハルトは状況を整理していた。
「<ニーズヘッグ>がここに到着するのは約十五分後……。こいつらを全滅させるのにそんなに時間はいらない、五分で十分だ」
ハルトは気合いを入れて容赦のない攻撃を敵部隊に打ち込んでいく。
その内の二機がワイヤーブレード参式の乱舞から抜け出し、<サイフィードゼファー>の左右に回り込んで槍型の武器エーテルサリッサで突き刺そうと近づいて来た。
ハルトは左右から急接近する敵機をモニター越しに見ながら慌てる素振りもなくタイミングを見計らう。
「……ここだ!」
二機が接触する直前、<サイフィードゼファー>は高速でバックステップし標的を見失った二本のエーテルサリッサは目の前に位置取っていた味方の胴体に突き刺さった。
ハルトは敵の動きが止まった隙を見逃さず、両手に持った剣でコックピット部を突き刺し機能停止に追い込むのであった。
「――残り十機! そんな攻撃をして回避されたら同士討ちになるって分からないのか? こいつらの戦闘プログラムを組んだ奴はズブの素人だな」
残りの<量産型ナーガ>に向かおうとすると、それらは空中へと飛び退き円を描くように飛行し始める。
頭上で光り輝くエーテルハイロゥの見た目もあり、その姿は天から舞い降りる天使たちを思わせる幻想的なものだった。
事実、撤退中の『ワシュウ』の兵士たちはこの光景を目の当たりにし、自分たちが戦っている存在の強大さを感じ取り絶望し始めていた。
ただその中にあって、それら天使の模倣品と戦っている少年は空に舞う敵たちを静かに見つめる。
天使たちはエレメンタルキャノンの一斉射を地上にいる白き聖竜に向けて放ち始めた。
エーテルエネルギーの弾幕は雨のように降り注ぎ、<サイフィードゼファー>ごと大地を焼き、削り、破砕していく。
その圧倒的な火力によって地上は土煙で覆われ標的にされていた白い聖竜機兵の姿は煙に紛れて視認できない。
エレメンタルキャノンの一斉攻撃が止み未だ地表が土煙で見えない中、何かがそこから飛び出した。
その正体は一機の白い機体であった。
あれだけの攻撃を放たれながらも無傷の<サイフィードゼファー>は下腿後部のエーテルスラスターを全開にしつつ空に向かって跳躍した。
その圧倒的出力により空中に鎮座している<量産型ナーガ>の集団を一瞬で飛び越え、ワイヤーブレード参式の刃を分割射出する。
「数撃ちゃ当たると思ったんだろうがそんなに甘くねーよ! ブレードパージ、術式解凍――スターダストスラッシャー!!」
くびきから解き放たれた無数の刃は流星群と化して天使の群れに突っ込んでいき、その象徴たる天使の輪を破壊していった。
「お前ら熾天機兵の弱点は分かってんだよ。そのまま落ちろ!」
ハルトが言い捨てると<量産型ナーガ>十機は飛行能力が麻痺し地上目がけて落下していく。
<サイフィードゼファー>はそれらを追い猛スピードで降下を始め、空中でろくな動きが出来なくなった敵機を一機ずつ確実に斬り裂いていく。
それにより機体内の循環液が飛び散り雨の様に地表に降り注いだ。
地上に降下するまでの短時間で六機の<量産型ナーガ>が破壊され残り四体も落下した衝撃で追加ダメージを負いまともに動けない状態へと陥る。
そんな半死半生の獲物を追いかけ地上に降り立った<サイフィードゼファー>の装甲には敵の循環液が返り血の様に付着していた。
獰猛な追撃者となった聖竜機兵は近場にいた一機を十字に斬り伏せ、固まって逃げる二機を追う。
「遅いっ! 術式解凍、コールブランドッ!!」
エーテルブレードの刀身から黄金色のエーテルエネルギーの刃が放出され、二機の<量産型ナーガ>は同時に胴体を真っ二つにされ爆散した。
「二機撃破。――あと一機!」
機体の性能をアシストするエーテルハイロゥを壊され片腕片脚を失っていた最後の<量産型ナーガ>はまともに逃げることも出来ず、最後の抵抗と言わんばかりに生きているエーテルスラスターを噴射し、白い機体目がけて突撃を敢行する。
そんな悪あがきを見せる敵の姿を正面に捉えハルトは体内のマナを機体へと送り込み攻撃準備を整える。
「俺がお前の立場だったなら同じ行動をしただろうな。でもさ――」
敵のエーテルサリッサによる刺突攻撃を難なくいなしカウンターとして繰り出した斬撃によって最後の<量産型ナーガ>は上半身と下半身を分断され、大破炎上した。
「悪いけど負ける訳にはいかないんだよ、俺は。……敵部隊全滅を確認、とりあえず前哨戦は終了。あとは――」
一機の聖竜機兵と十三機の熾天機兵による戦いはハルトの予想通り五分以内で決着し、この戦いを終始見ていた『ワシュウ』の兵士たちは、この白い機体の圧倒的な強さに畏敬の念を抱くのであった。
その白い機体――<サイフィードゼファー>のコックピットには工場から吹き出す炎の向こう側にいる三機の熾天機兵が映し出されていた。
「一機は新型のようだけど、残り二機はようやくお出ましだな。<ブラフマー>、それに……<シヴァ>!!」
『アストライア王国』王都崩壊以来の因縁の戦いが今始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます