第252話 ハルト、レベルアップ


 ――『聖竜部隊』が新体制となって三ヶ月が経過していた。


 『クロスオーバー』に占領された『ドルゼーバ帝国』では帝国製の装機兵の他にも『クロスオーバー』製の量産機が生産され始めたらしく、世界各地でそれらの装機兵による攻撃が始まった。

 <シヴァ>や<ブラフマー>を始めとする熾天セラフィム機兵シリーズはこの三ヶ月前線には姿を見せていない。

 敵の強力な幹部が出て来ないのは戦況的にありがたいとは思えたが、それが却って不安を煽る。連中が前に出て来ないのは何か準備をしているからではないのかと……。




 俺たち『聖竜部隊』はこの三ヶ月間世界各地を転戦し、今は東大陸であるイシス大陸の大国『ワシュウ』に留まっている。

 『ワシュウ』は江戸時代から明治大正の辺りの日本を思わせる建築物が沢山あり、その中でも城はとても見応えがあった。

 城のあちこちにはエレメンタルキャノンが設置され砲撃戦が可能であり、有事の際は下部に搭載されているキャタピラが稼働し移動要塞と化すらしい。


 ここ数日間は『ワシュウ』への攻撃が強かった為『聖竜部隊』が派遣された。その後は俺たちが大暴れをした甲斐もあって敵の大部隊は壊滅した。

 現在、俺は<サイフィードゼファー>で『ワシュウ』の領空内をパトロールしている。


「ったく、いつまでこのいたちごっこは続くんだか……。それにしても今日はいい天気だなぁ。こういう日は昼寝したら、さぞかし心地いいだろうなー」


 昼食を食べ空腹が満たされた後に襲って来る眠気に耐え、頭の覚醒を促す為にわざと複雑な飛行をしてみる。

 少しずつ頭が活性化してきたので今度は気分転換にモニターに自分のステータスを表示してみた。

 

 そこには『レベル九十一』と表示されている。この三ヶ月の間に俺はレベルが一つ上がっていた。

 前世の記憶が甦り<サイフィード>に乗って戦い始めてから数ヶ月。今まで散々戦ってきたというのにようやくレベルが一だけ上がったという有様だ。

 元々のレベルが高かったから仕方ないと言えばそれまでなのだが、自分が成長していない感が否めなかった。


 でもまあとりあえず一応少しだけ成長したし良しとしよう。それに今回のレベルアップで重要なのは微々たるステータスの向上ではない。

 俺は表示画面をステータス関連からパッシブスキルへと変更した。その一番下に『灰身けしん滅智めっち』というスキルが表示されている。


 先日レベルが九十一に上がった際に取得した新しいパッシブスキル『灰身滅智』。

 こいつが中々にチートスキルで発動すれば俺のステータスが劇的に上昇する状況

となっている。


 スキル説明では『戦意が高まる事により発動する。操者の集中力が極致に達する事で空間認識能力や反応速度が向上する。スキル発動時、累計撃墜数の半分値が各ステータスに上乗せされる』となっている。


 かいつまんで言うと俺の反応速度が爆上がりする回避力アップが説明前半の内容。そして問題なのが後半で述べられている効果だ。

 今までの撃墜数に応じてステータスがアップするのだが、最前線で戦い続けてきた俺の撃墜数は軽く五百を超えている為、このスキルが発動すると最終的に通常時の倍近いステータスになる。


 これをチートと言わずして何と言おう。

 敵を倒し続けて来た俺だからこそスキルがチート化したような気がしないでもないが、とにかく俺にとってこの上なく強力なスキルである事には変わりない。

 その時コックピット内のエーテル通信機器が救援信号をキャッチした。


「敵に襲われているのか? ここから近い……急ぐぞ、<サイフィード>!」


 <ニーズヘッグ>に支援要請を出し全速で救援信号が送られた場所に飛んでいく。 

 『ワシュウ』国内のマップ情報と照らし合わせると、そこは装機兵の整備工場区のようだ。

 こちらの戦力を削ぐために工場を攻撃してきた訳か。


 ――数分後。現場に到着すると工場区は半壊し黒い煙があちこちから上っているのが見えた。その中に装機兵が戦闘をしている姿が確認できる。

 『ワシュウ』の装機兵<ワキザシ>――<モノノフ>の簡易量産型と言える機体五機が追い詰められている。

 その相手は『クロスオーバー』の量産型熾天機兵<量産型ナーガ>だった。しかもその数は十三機。とても<ワキザシ>でどうにかなる相手じゃない。


「このままじゃ全滅する。――乱入するぞ!」


 戦場の上空で<サイフィードゼファー>を人型に変形させ両手にエーテルブレードとワイヤーブレード参式を装備し、二つの勢力の間に割って入るように着陸した。


「こちら『聖竜部隊』所属、聖竜機兵<サイフィードゼファー>。ここは本機が対応します。あなた方は撤退してください」


『おお、あの『聖竜部隊』の……! しかし、相手は十三機……しかも一機一機がとてつもなく強力だ。聖竜機兵でも一機だけでは……』


「大丈夫です。それに<ニーズヘッグ>もこちらに向かっています。それよりも敵は破壊可能と判断した相手を優先的に狙ってきます。早くここから撤退を」


『……すまない!』


 <ワキザシ>部隊が撤退しようとすると、それを逃がすまいと<量産型ナーガ>が動く。

 俺の横をすり抜けて彼等を襲おうとするが、そこにワイヤーブレード参式の刀身を打ち込んでエーテルハイロゥを破壊する。

 頭上の輪っかを壊され飛行能力に異常が起きた敵機は勢いよく地面に落下し転がっていった。


 その場所に向けて<サイフィードゼファー>を跳躍させ、起き上がろうとしていた<量産型ナーガ>のコックピットに二本の剣を突き立て機能停止に追い込む。


「全く躾がなっていないな。お前等の相手は俺だと言ったろ。他を襲いたいのならまずは俺を倒してからにしろ。――まあ、お前等もすぐにこいつと同じ事になるけどな」


 剣を引き抜き前方に群がっている十二機の<量産型ナーガ>に向かってゆっくり歩き始める。

 

「まずは一機撃破、残り十二機か……ヌルゲーだな。それじゃサクッと終わらせるぞ!!」


 俺の後方でさっき倒した敵機が爆発する。その爆風を背に受け、<サイフィードゼファー>を敵部隊に向けて突貫させた。

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