第246話 全ての竜が集いし時①

 『聖竜部隊』に<ナグルファル>の戦力が組み込まれる形になって<ベルゼルファー>と操者のアインが<ニーズヘッグ>所属となった。

 何でも<ベルゼルファー>は『クロスオーバー』のミカエルの手によって魔改造されたらしく、向こうの錬金技師や整備班の手に負えない代物になってしまったらしい。

 それでも機体内のセルスレイブの作用によって自動で機体修復がされるので整備不要となり今日に至っている有様だった。

 そんなこんながあって、<ベルゼルファー>の生みの親でもあるマドック爺さんのもとへ戻されたという訳だ。


 こんな事をされたら普通は「盗んでおいて勝手な事を言うな」と言って怒ってやるところだが、当の生みの親は二つ返事でこの申し出を受け入れた。

 都合のいい申し出に対する憤りよりも『クロスオーバー』の技術による改造解析が出来る喜びの方が遥かに勝っていたからだ。


 そして現在『第七ドグマ』の格納庫の一ブロックには<ベルゼルファー>の他に竜機兵チームの七機、<カイザードラグーン>、<クラウ・ラー>、<スサノウ>が並べられて、調整を受けていた。


「それにしても、まさか<ベルゼルファー>がこうしてわしらの所へ戻って来るとはのう。人生において何が起こるか分かったもんじゃないわい」


 このブロックの格納庫にあるコンソールで各機体のチェックをしながらマドック爺さんがしみじみとした感じで言う。

 <ベルゼルファー>の隣には<サイフィードゼファー>が並べられており、兄弟機が隣り合って立っている状態だ。

 それに続いて竜機兵各機が並んでおり、ここに本当の意味で全竜機兵が勢揃いした事になる。その光景は圧巻だった。


 ゲームのイベントCGコンプリート勢としては写真を撮りまくりたい衝動に襲われるが、俺はマドック爺さん、シェリンドン、ティリアリア、カーメル三世、アイン、シリウスと一緒にコンソールの周りに椅子を並べて作戦会議をしているのでそんな事は出来ない。

 そんな俺の代わりにカメラマンとして撮影会をしているのはヒシマさんだ。

 転生者部隊エインフェリアの面々が目をキラキラさせながらロボット観賞を楽しみつつ撮影をしているのだ。


「うおーっ、スゲー! この<カイザードラグーン>っていうサポートメカが分離して<サイフィードゼファー>と合体するのかぁ。やっぱり勇者ロボたるもの合体機能は外せないぜ! 俺たちの<ハヌマーン>二機も合体できたら最高だったな」


「やっぱり変形と合体はロマンがあるよな。いいなぁ、ハルトはー。<サイフィードゼファー>にはその二つの機能があるんだからさ。羨ましいなー」


 転生者の中でもヒシマさんとヤマダさんが特にテンション高く話をしている。その傍ではジンが赤べこの様に首を縦に振って同意していた。

 くそっ、あの会話に交ざりたい。そして自慢したい。ああああああああっ、俺のロボットについて自慢したくてしょうがない。大事なことだから二回言った。

 そんな事を内心思いながらそわそわしているとティリアリアが俺の耳を引っ張った。


「あいたたたた! ちょ、ティア何すんのさ」


「何じゃないわよ。さっきから明後日の方ばっかり見て。今撮っている写真なら後で貰えるでしょ? 今は会議に集中しなさい」


 頬を膨らませ俺をジト目で見つつティリアリアが身体を寄せて来る。

 一応、俺が逃げないようにする処置なのだがはたから見ればいちゃついている様にしか見えないだろう。


「そうですよ。あなたは竜機兵チームの隊長なのですからもっと自覚を持たないといけませんよ」


 そう言って俺をたしなめながらこれまた腕に胸を押し付けて来たのはシェリンドン。

 妻二人に怒られはしたのだが、左右の腕に当たっている大きく柔らかいモノに神経が集中してしまう。これはご褒美なのでは?

 片や聖女のGカップ、片やドグマの女神のIカップ。服越しとは言えこの破壊たるやロボットトークに意識がいっていた俺の少年心を一瞬でスケベ心へと変えてしまった。

 

 思わず顔が綻んでしまいそうになるが公衆の面前でそんなだらしない顔は出来ない。大人として表面だけでも平常心を貫かなければならないのだ。


「ハルト、さっきから鼻の下が伸びきっているけど、もうちょっと平常心頑張ろうか」


 周囲から残念な人間を見るような視線が集中し、その代表として親友の黒山もといシリウスが俺の駄目っぷりを指摘する。

 はい! 無理でしたー! そりゃそうだよ、俺の両腕で二つの霊峰が大暴れしてるんだよ。これでポーカーフェイスをしろっていうのが無理ってもんですよ。

 

「シェリーもティリアリア嬢ちゃんもハルトを甘やかし過ぎじゃぞ。その一割……いや三割でいいからわしも甘やかして」


「「お断りします!」」


「世知辛いのう。老い先短いこの老人にこの仕打ちじゃよ。お前さん達もそう思わんか?」


 しれっと要求の度合いを高くしたマドック爺さんは二人にピシャっと突っぱねられ呆気なく撃沈した。

 爺さんに同意を求められたシリウス達は苦笑いをしている。


 こんな感じで会議は多少脱線しながらも進められている訳だが、この中で優秀さを際立たせているのは俺を甘やかしている女性二人だった。

 ティリアリアは俺が逃げないようにホールドしつつ竜機兵チーム、エインフェリア、ドラゴンキラー部隊という三部隊のフォーメーションや緊急時の役割など細かい部分まで煮詰めていく。

 シェリンドンも俺をホールドしながら片手で目にも止まらぬスピードでコンソールを操作して各機のチェックを済ませていく。

 勿論作戦会議の内容もしっかり聞いているというマルチタスクをそつなくこなしているのだ。


「それにしても<ベルゼルファー>を改造したミカエルという人物は天才ね。外見こそ以前とは変わらないけど中身は完全に別物で<サイフィードゼファー>に近い性能にまで機体ポテンシャルを引き上げている。おまけに搭載されているセルスレイブは後付けだったというのに機体と高いレベルで調和しているわ。これだけの精度があってこそ<ベルゼルファーノクト>への変身が可能なのでしょうね。正直言って同じ錬金技師として嫉妬すら覚える優秀さだわ」


 シェリンドンが凄いのは相手に嫉妬しながらも素直にその優秀さを認めてしまうところだろう。

 更に『ドルゼーバ帝国』側が訳わからんと言ってさじを投げたミカエルの魔改造を解析して自分の知識として吸収しているのだ。

 俺は錬金技師じゃないけどシェリンドンも控えめに言って超優秀だと思う。

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