第十四章 ドルゼーバの落日
第245話 可愛いロボは俺の嫁
壮絶な死闘を繰り広げた海上戦から一週間が経過していた。
『ドルゼーバ帝国』本土は『クロスオーバー』によって占領され、帰還すべき場所を失ったドラゴンキラー部隊は俺たちと一緒に『第七ドグマ』へ入港していた。
この一週間の間に『クロスオーバー』に対する会議が連日行われ、ドラゴンキラー部隊の隊長ゼクス・オーガンはこちらが提示した同盟に応じた。
<ナグルファル>に所属する全戦力は『聖竜部隊』に組み込まれる形となり、今後予定されている『ドルゼーバ帝国』本土への侵攻作戦に参加する事となっている。
それと救援に来てくれた転生者部隊エインフェリアも『聖竜部隊』と共同で作戦に当たる事となった。
その母船である飛空艇<ホルス>も現在『第七ドグマ』で調整を受けており、飛空艇専用の港には<ニーズヘッグ>、<ホルス>、<ナグルファル>という高性能飛空艇三隻がずらりと並んでいる。
それと余談ではあるのだが、<ホルス>には『シャムシール王国』の国王カーメル三世も乗船しており今後は<クラウ・ラー>で出撃し前線で指揮を執る事になっている。
前回の戦いでは<クラウ・ラー>は修理中だったらしく<ホルス>で待機していたらしい。
久しぶりに会ったカーメル三世は初めて会った時とは別人のように活気に満ちており、無事に再会できたことを喜びあった。
こうして『ドルゼーバ帝国』本土侵攻作戦に参加する戦力が整い準備を進めている訳だが、会議も一通り終わりデスクワークから解放された俺は癒しを求めて<ニーズヘッグ>の格納庫にやってきていた。
そこで俺はシリウス、ジン、ヤマダさん、ヒシマさん、アインと一緒に<ティターニア>を眺めている。
「いやー、この<ティターニア>を造ったティリアリアさんのお爺さんは本当にいい趣味をしているねー」
「全くだ。あの大きな目、白磁の肌、メリハリのあるボディライン……実に素晴らしい」
「俺は長い事ロボットオタクを自負しているが、ロボットを見て結婚したいと思ったのは初めてだよ。というか結婚しよ」
転生者組のヤマダさん、ジン、ヒシマさんが頬を緩ませながら<ティターニア>に見惚れている。
こいつらは前回の海上戦で<ティターニア>に一目ぼれしたらしく、俺が会議に出席して<ティターニア>に会えなかった間に足しげくここに通っていたらしい。
本当に油断も隙もあったもんじゃない。<ティターニア>は俺の嫁だというのに……。
「ヒシマさん、悪いけど<ティターニア>は既に俺と婚約しているので結婚は諦めてください」
「おいおいおい、何を言ってるんだよハルトさんよ。お前の嫁は<ティターニア>の操者のティリアリアさんだろ? つまり<ティターニア>本人は未婚なんだよ。……分かる?」
「いやいやいや、<ティターニア>はティリアリアの機体なんだから間接的に俺の嫁になるんですよ。……つまりあれですよ。俺の物は俺の物、ティリアリアの物も俺の物的な」
「何処のガキ大将の主張だよ! ったく……こうなりゃ平和的に解決しようぜ」
ヒシマさんは<ティターニア>に純粋な眼差しを向け己の主張を述べようとしていた。
そう言えばこの人、今日は勇者がどうとか言ってないけど自分のキャラを見失うほど<ティターニア>に夢中になっているのだろうか?
「<ティターニア>……いや、彼女は俺たち全員のものという形で落ち着くのはどうだろうか?」
「それってつまり一妻多夫制ということですか?」
ヒシマさんの考えをシリウスが別の表現にして口にする。
俗に言う逆ハーレムな状況な訳だが、頭の中で<ティターニア>を中心に俺たちが色々と尽くしている様を想像してみる。
……うん、悪くない、悪くないぞぉ。
「まさにその通り。この場にいる俺たちは皆彼女にぞっこんの野郎共だ。誰かが独占するよりも全員の共有財産にするのが良くないか?」
「それってつまりファンクラブみたいなものなんじゃ……」
「そんなものと一緒にするんじゃない!!」
「ひっ、すんません!」
俺が『ファンクラブ』と口にした瞬間、何故かヤマダさんがキレ気味に言ってきたので反射的に謝ってしまった。
いつもは冷静沈着なヤマダさんらしからぬ感情的な姿を目の当たりにし、ヒシマさん以外は驚きを隠せない。
「ヤマダは昔……転生前の若い頃にあるアイドルのファンクラブに入ってたんだ。その当人がある日できちゃった結婚してアイドルを電撃引退したのよ。そのトラウマが今でも残っていてな。『アイドル』とか『ファンクラブ』という言葉に対して敏感になっているんだよ」
「うう……ちほりん……彼氏なんていないって言ってたじゃん……」
前世のトラウマをしつこく引きずるヤマダさんをなだめるヒシマさん。いつもの二人の役割が入れ替わった光景に違和感しか感じない。
とにかく面倒くさいので今後ヤマダさんの前ではこの二つの単語はタブーにする事となった。
「「…………」」
そう言えばアインとジンは会話にあまり入って来ずにひたすら<ティターニア>を見つめている。
そして時々「ふぅ」と何処か満足そうに吐息を吐いている。いつもの寡黙な二人からかけ離れた姿は何とも形容しがたい。
特にアインはバイザー型の仮面を着けていて視線が分からないので怪しさが割り増しになっている。
するとジンがポケットから何やら取り出して顔に装着した。なんとそれはアインと同型のバイザー型仮面だった。
「なっ!? ジン、その仮面はどうしたんだ?」
「ふっ……アインからもらった。この仮面はどこで売っているのかと訊いたら特注品で売っていないと言われてな。そしたら予備を譲ってもらったのだ」
「ジンはこの仮面に興味があったようだからな」
「お前等いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」
俺が会議に追われている間に周囲の交友関係が色々と発展していた。
熱血タイプのジンとアインは相性がいいと思ってはいたけれど、俺が考えていた以上に打ち解けるのが早かったみたいだ。
そんなこんながありつつ<ティターニア>の観賞は継続され、その深窓の令嬢風の美しいフォルムを皆で称え合っているとシェリンドン、アメリ、ステラ、ハンダーの四人が通りがかった。
「あら、皆さんこんな所で何をやっているんですか? ……はっ! この位置取りからしてもしかして<ティターニア>を見ていたのでは?」
俺たち以上にロボットオタクのシェリンドンはその鋭い嗅覚でこちらの行動を一瞬で理解し食いついてきた。
「<ティターニア>の話をしていたんですよね? 是非私も混ぜてください。本当に可愛いですよね~。装機兵でありながらあの女性らしいフォルム。胸のラインをしっかり造り込んでいるあたりクラウスさんの情熱が分かります。それにそれに――」
最初は美人錬金技師の参入に鼻の下を伸ばす野郎共だったが、その後シェリンドンは俺たち以上の熱意を持って俺たちの嫁について小一時間程語り続けた。
外見の造形に関しては分かるけど内部フレーム構造まではさすがに愛せない。人間で言えば骨や内臓まで愛せよと言われているようなものだ。
でもシェリンドンはそこまで愛情を注いでいた。改めて凄い奥さんをもらったなと思ってしまう。
一通り熱弁をふるい満足したシェリンドンは研究チームの皆と一緒に去って行った。
取り残された俺たちは、シェリンドンの熱意の前に<ティターニア>の表面しか見ていなかった事を知り己を恥じた。
最終的にシェリンドンこそ<ティターニア>のパートナーに相応しいという結論に達し、早々に<ティターニア>一妻多夫制度は終焉を迎えるのであった。
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