第244話 必死の追撃戦

 仲間たちの攻撃が集中する中、<サーペント>はアイスニードルをばら撒きながらこの場から逃げようとしていた。

 <サーペント>に食らいつく仲間たちは氷のミサイルを凌ぎつつ敵を逃がすまいと全力で攻撃している。

 それに対し巨大な図体と高い自己修復機能を併せ持った敵は余裕よゆう綽々しゃくしゃくの様子だ。


『ふふふふ、そんなに必死になって食らいついて来るなんてお可愛いこと』


 <サーペント>の操者であるメタトロンが柔らかい声で煽っているのがエーテル通信で聞こえて来る。

 それに対し、パメラ、シオン、クリスティーナ、フレイの苛ついた声も聞こえて来た。


『私が可愛いのは当たり前だとして……逃げんなこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


『どさくさに紛れて何を言っているんだお前は。もっと集中して攻撃しろ、逃げられるぞ!』


『ここまで好き勝手に暴れられた挙句に逃げられる訳にはいきませんわ。火力を上半身部分に集中しましょう!』


『くそっ! 氷の針が邪魔して攻撃が通らねぇ。ここまで追い詰めたってのに……ちくしょう!!』


 <サーペント>がその巨躯のほとんどを氷原に沈ませた頃、俺はその場にやっと到着した。ティリアリアとフレイアが遅れてやって来るが二人を待っている時間はない。

 タイミング的には難しいが攻撃のチャンスはまだある。手数が少ない分、強力な一発をくれてやるまでだ。


「メタトロンッ! このまま逃げられると思うなよ。全エナジスタル共鳴開始、ストレージアクセス!!」


 <カイゼルサイフィードゼファー>の全エナジスタルが共鳴し何層にも重なる魔法陣が展開される。

 内部から出現したエーテルエクスカリバーを手に取り全速力で<サーペント>に突っ込んだ。

 敵のエーテルサリッサと衝突し接触面から激しい火花が散る様子がモニター越しに見える。

 それと同時にコックピットにメタトロンの苦渋に満ちた顔が映っていた。


『くっ……去ろうとする女性に対してこうまでみっともなく追いすがるなんて恥ずかしいとは思わないのですか?』


「はんっ! 全然思わないね。悪いけど俺はそんなスマートに女性をどうこうできるほど恋愛経験が豊富じゃないんだよ。ここ数ヶ月で四人の奥さんが出来るというミラクル以外、前世も含めて女性と付き合った試しがないんでね。エスコートのやり方は現在勉強中!!」


 敵の槍を斬り払い懐に入り込む。黄金の大剣の切っ先をコックピットに向けて刺突攻撃を繰り出すと敵は左腕で防御した。

 エーテルエクスカリバーの刀身は敵の腕を貫通したもののコックピットへの直撃は僅かに逸れて突き刺さった。


「外した!? でもまだ!!」


 俺は剣を刺したまま力づくで刀身を動かし敵のコックピットへと少しずつ斬り進めていく。

 それに気が付いたメタトロンの顔が青ざめ必死に抵抗を始めた。

 右手に持っているエーテルサリッサで<カイゼルサイフィードゼファー>を攻撃してきたのでバハムートを叩きつけて槍の穂先を破壊し使用不能に追い込む。

 それと同時に更に斬り進め黄金の刃は敵のコックピット付近まで到達した。


『ひぃっ!』


「怖いかメタトロン。そうだよ、誰だって命が危険に晒されれば怖いんだよ。そんな恐怖を抱えて俺たちは戦ってるんだ。その先に平和な世界が来ると信じて……。これはゲームでもなけりゃ遊びですらない、命のやり取りなんだよ。お前等がやってきたのはその命のやり取りを弄ぶ行為だ。その恐怖をしっかり噛みしめながら地獄に落ちろ!!」


『あ、あなたは人を殺める事に抵抗はないのですか!?』


「無いわけないだろ。――けどな、そんな事は今更だ。俺は既に大勢の人を手に掛けてる。いつか自分が地獄に落ちる覚悟はとっくに出来てるさ。だからこの手をどれだけ汚そうが構わないんだよ!」


 俺に迷いが無い事を理解したメタトロンが口惜しそうに歯を噛みしめる。

 その姿を見届け刃をコックピットに到達させようとした時、モニターに慌てた様子のヤマダさんが映った。


『ハルトすまん! 量産型が三機そっちに向かった。気を付けろ!!』


「――ッ!?」


 直後コックピットに警報音が鳴り響き、エーテルレーダーが後方から接近する敵の反応を捉えた。

 三機が真っすぐこっちに向かって来る。

 

 近づいてくる<量産型ナーガ>に気を取られた隙をついて<サーペント>はゼロ距離からアイスニードルを何発も撃ち込み引き離されてしまった。


「しまっ――!」


『保険を掛けておいて正解でしたね。第四特異点ハルト・シュガーバイン、この屈辱は忘れませんよ。それではごきげんよう』


「このっ、逃がすか!!」


 氷原の中に姿をくらました<サーペント>を追おうとした時、背後から衝撃が入り<カイゼルサイフィードゼファー>は氷の大地に落下した。

 モニターにはさっきレーダーに映っていた量産型が三機映っている。機体状況を確認すると胸部追加装甲と背部のエーテルフェザー発生翼が小破していた。


 急いでスキルを使って機体のダメージを完全修復したが、レーダーには既に<サーペント>の機影は映っていない。

 今から追いかけたとしても視界が悪い水中ではヤツを見つける事すら難しいだろう。


「くそっ……あそこまで追い詰めて逃げられるなんて……!!」


 悔しさと怒りで視界が狭まり操縦桿を握る手に力が入って指の関節が軋む。

 地面に佇む<カイゼルサイフィードゼファー>の近くに敵の放ったエレメンタルキャノンが次々に着弾し、砕けた氷の破片が機体にぶつかる。


「……うだうだ考えていても仕方ねぇ。次に会ったら今度こそぶっ倒す。とにかく今は目の前の敵に集中する!」


 気持ちを切り替えてこっちに攻撃をしまくっている<量産型ナーガ>を見やると、敵は背部に装備している六基のサブアームを発射した。

 三機一斉に放って来たので合計十八発のロケットパンチが飛んでくる。

 

 エーテルエクスカリバーにエーテルを集中し飛翔してくるロケットパンチを次々に斬り払い全てを叩き落とした。


「踏み込みが足りないんだよ!!」


 エーテルフェザーを羽ばたかせて頭上にいた<量産型ナーガ>三機との間合いを一瞬で詰め、その中の一機を一刀両断すると間もなく爆散した。

 残りの二機が俺から距離を取ったが敢えて追撃はしない。もう結果は見えているからだ。


 超圧縮した水の砲撃、風の斬撃波、大量のエーテル砲弾を背後から受けた一機は地上に落下し、真下に回り込んでいた<グランディーネ>のインパクトナックルを受けて撃破された。

 残り一機は高度を上げて後退しようとしたが、上空に回り込んでいた<ティターニア>のフォトン八卦掌を頭部に叩き込まれ、動きが麻痺した瞬間を<ヴァンフレア>のケツァルコアトルで溶断されて完全消滅した。


 残りの<量産型ナーガ>はジン達の活躍で全滅し、メタトロンによって暴走状態になっていたアグニは制止しようとするアインを振り払ってこの場から撤退した。


 こうして『アルヴィス王国』と『ドルゼーバ帝国』間の戦いで始まった海上戦は、紆余曲折を経て幕を閉じた。

 今まで裏から戦争を操っていた『クロスオーバー』がついに表舞台に上がって来た。ここから俺たちの本当の戦いが始まるんだ。

 

 そして竜機兵操者として転生者として俺は自分の運命と向き合う事になるのだが、それはもう少し先の話になる。

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