第243話 暴走のアグニ
メタトロンに打ち込まれたセルスレイブによって怪物に変貌した<ベオウルフ>は背中から炎を噴射した。
その炎は二枚の翼の形状を取り、それを大きく羽ばたかせ空を飛んで俺に真っすぐ向かって来る。
『<サイフィード>……燃えちゃいなよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
大型の鋭い五本爪が赤熱化し、その先から火炎放射を放ってきた。
それを回避するがヤツは執拗に俺に向けて火炎放射を継続する。その攻撃範囲はどんどん広がっていき、このままでは俺の周囲に被害が出る恐れがあった。
「こいつ――!」
<カイゼルサイフィードゼファー>のエーテルフェザーを羽ばたかせて俺は<ベオウルフ>に接近し、エーテルカリバーンによる斬撃を敵の左腕に打ち込み火炎放射を中断させた。
「いい加減にしろ、アグニ! 今俺たちとお前たちの部隊は共闘してるんだよ。敵はお前の後ろにいる『クロスオーバー』の連中だ。分からないのか!?」
『殺す……殺すぅぅぅぅぅ、今度こそ……ズタズタに引き裂いてやるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』
「くそっ、やっぱり駄目か。全然話が通じないぞ」
コックピットに映るアグニは仮面が外れていて、その下の素顔が露わになっている。その顔の至る所で血管が浮き出て時々脈打っているのが見える。
口端からは泡沫上の唾液が溢れていて明らかに正気ではない事が分かった。
「これもセルスレイブの影響なのか。機体だけじゃなく操者にまで影響が出るなんて……」
その時くすくす笑う女の声が聞こえた。モニターにはメタトロンが如何にも愉快そうな表情で映っている。
「……本当に怖い女だよ、あんたは」
『あらあら、酷い嫌われ様ですね。でも私は彼の背中を押しただけですよ。彼――アグニ・スルードの内面はあなたへの憎しみで一杯だった。そこに機体と体内に侵入したセルスレイブによって理性よりも本能が上回る結果になっただけです。彼は今自分と正直に向き合っているんですよ』
「体内にもセルスレイブを流しただって!?」
『『ドルゼーバ帝国』の強化兵たちは強化の際に体内に微量ですがセルスレイブが打ち込まれているんです。その際に身を裂かれるような全身の痛み、目眩、幻聴幻覚に襲われるんですけどね。それに耐え生き延びた者が強化兵として完成する仕組みだったわけです。その時の研究データは色々と参考になりました。お陰で我々の量産機の核となる疑似操者システムが完成した訳ですから。これにより『クロスオーバー』最大の懸念であった操者不足が解消され、無尽蔵に
「……つまりは全部お前等の掌の上で踊らされていただけって事か」
『言い方は悪いですが概ねその通りですね。あなた方新人類は結局、旧人類と変わらない闘争本能に身を任せる愚か者でしたが我々に多くの研究データを提供してくれました。その点は本当に感謝していますよ』
「この、ふざけ――!」
言いかけた時、目の前にいる<ベオウルフ>の剣と爪が炎に包まれ、今までとは段違いに強力な攻撃を仕掛けて来た。
炎の剣も炎の鋭い爪も直撃すれば、<カイザードラグーン>と合体して強化された装甲でもただでは済まないだろう。
手加減をしていれば遠からず致命傷を受ける可能性が高い。
「……恨むなよアグニ。俺はこんな所でやられる訳にはいかないんだ!」
エーテルカリバーンにエーテルエネルギーを集中して<ベオウルフ>の炎を斬り裂き接近し、崩壊しつつある氷の大地にパワーで押し込み叩き付ける。
『ぐあああああああああっ!!』
<ベオウルフ>の頭部を左手で鷲掴みにして、その身体を地面に押し込んだまま機体を飛ばす。敵の機体で氷の大地を砕きながら左腕にエーテルを集中させる。
「これならっ! 術式解凍、バハムートッッッ!!」
<カイゼルサイフィードゼファー>の光り輝く左腕で<ベオウルフ>の頭部を破壊し、蹴りを入れて黙らせる。
沈黙した赤い滅竜機兵を尻目に俺は機体を飛翔させ、氷の大地に沈み込み撤退しようとしている<サーペント>に向かおうとした。
すると機体に衝撃が走りコックピットにアラートが鳴る。何事かと思い原因を探ると機体の脚に<ベオウルフ>が組み付いていた。
『逃がさないよぉぉぉぉぉ!!』
完全に破壊したはずの頭部がリアルタイムに再生されていく。内部フレームやデュアルアイが修復され、それを包むように装甲が修復され元の形に戻った。
まるで破壊される瞬間を逆再生で見せられたような感じだ。
「何て修復速度だよ。けど、とにかく今は離れろアグニ! このままじゃ敵が逃げる!!」
『逃がさないよ、<サイフィード>。僕がお前を殺すんだからね!!』
アグニは目を血走らせながらモニター越しに俺を睨んでいた。憎しみの感情を剥き出しにしてぶつけられ一瞬怯んでしまう。
その隙を突く様に<ベオウルフ>の赤熱化した爪が<カイゼルサイフィードゼファー>のコックピットに向けられた。
「まずいっ!」
『落ちなよぉぉぉぉぉぉぉ!!』
敵の爪が突き刺さる寸前でその攻撃はいなされ無力化された。それをやってのけたのは<ティターニア>だった。
『ハルトは私が守る!!』
「ティアか!?」
ティリアリアが気迫を込めたフォトン八卦掌で<ベオウルフ>の爪を連続で凌ぎ俺を守ってくれている。
すると、今度は<ヴァンフレア>が参戦し二振りのドラゴニックウェポンで敵の右腕を切断した。
『私の目の黒いうちはハルトはやらせんぞ!!』
俺の機体に掴まっていた手を破壊された事で、<ベオウルフ>は引き剥がされ高度を落とす。
しかしそれでは終わらず炎の翼を展開して再びこっちに向かって来た。
『何てしつこい奴だ。ここまで来ると執念を感じざるを得ないな』
そう言いつつフレイアが<ヴァンフレア>のエーテルカンショウとエーテルバクヤを構え迎え撃とうとする。
しかし、その前に先手を打った者がいた。
<ベオウルフ>は俺たちに接触する前に後方から突っ込んで来た<ベルゼルファーノクト>に抑えられ落下していったのである。
「アインッ!」
『お前たちは<サーペント>を倒しに行け。こいつは俺が抑える!』
「でも一機だけじゃ……」
『こいつは俺の仲間だ! だから俺が何とかする。任せろ!!』
アインの奴……初めて会った頃は味方にも興味が無いとか言っていたのに、随分と変わったじゃないか。
あれから俺も様々な経験をしたようにあいつも色んな事があったのだろう。
「分かった。ここは任せる。ティア、フレイア、行くぞ!」
『『了解!』』
俺たちはアグニをアインに任せてメタトロンを倒すべくこの場を去った。
ここから遠くにいる<サーペント>は<パールバティ>を回収し、その巨大な身体を半分以上氷原の中に沈ませていた。
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