第242話 氷の大地の底から


 <サーペント>と戦いながら他の状況を確認すると、<パールバティ>と戦うティリアリア達も<量産型ナーガ>と戦うジン達も戦況を有利に運んでいるのが見える。

 

「さすがだな皆。これならいける!」


 仲間の援護を受けつつ、俺は<サーペント>の本体である上半身部分に食らいつく。

 <カイゼルサイフィードゼファー>のあらゆる武装を駆使して、巨大な敵の攻撃を無力化し次第に押していった。


「自己修復の速度が落ちてきた。そろそろ限界のようだな!」


 <サーペント>の槍攻撃をエーテルカリバーンで斬り払い、接触すると膝蹴りをかましてそのまま膝先からエーテル金属製の杭――エーテルパイルバスターを連続で叩き込む。


『くうっ! 何て野蛮な攻撃を……』


「よく言う。お前たちがやってきた事の方がよっぽど野蛮じゃないか。新人類同士を戦わせて互いに弱り切ったところを襲うなんて、お高くとまっている『クロスオーバー』にしては卑怯なやり方だろ!」


『これはれっきとした戦術ですよ。それに闘争心に火が付いた新人類は戦争して滅ぼし合うのが必然と言えるでしょう』


「そうかよ。そうやって最もらしい御託を並べて自分たち以外の存在を見下すのがお前等だもんな。それで裏でこそこそ動いて自分たちの手を汚さず新人類の同士討ちを狙う。――自称神様の割にはやり方が本当にせこいんだよ!!」


 <サーペント>が再び無数のアイスニードルを発射し俺を含む仲間たちに向かって行く。この攻撃は回避してもしつこく追って来るので皆迎撃して無力化している。

 俺も同様に攻撃による撃墜に移った。


「追ってくるのなら叩き落とすまでだ。ブレードテイルパージ、術式解凍――スターダストスラッシャー!!」


 尾部に装備されているブレードテイルを幾つもの細かい刃に分割して発射、<カイゼルサイフィードゼファー>の周囲に展開し近づいてきた氷のミサイルを次々に迎撃する。

 自慢の武器を無力化された事でメタトロンは悔しそうに奥歯を噛む。


 その時、俺たちの戦いに割って入る機影があった。

 それはティリアリア達と戦っていた<パールバティ>だ。機体のあちこちを修復させながら逃げるようにこっちに向かって来る。

 するとコックピットモニターにティリアリアの姿が映った。


『ハルト、ごめん! そっちに<パールバティ>が向かったわ。私たちもすぐに合流するから持ちこたえて!』


「問題ない。見たところティア達の攻撃でヤツはかなりパワーダウンしているみたいだ。<サーペント>ごと叩き潰す!」


 <サーペント>をエーテルカリバーンで薙ぎ払って吹き飛ばすと激昂したサンダルフォンが俺に突っ込んで来る。


『よくも姉貴をやったな! あたしがぶっ殺してやるよ!!』


 <パールバティ>は爪の先端を伸ばして剣状にすると俺に斬りかかる。

 エーテルカリバーンで斬り結んでいると、途中からもう片方の爪も伸ばして二刀流で攻めて来る。

 

『一本の剣で二刀流のあたしの斬撃を受けきれるものか! 第四特異点、ハルト・シュガーバイン。お前をここで倒せば『聖竜部隊』の士気も戦力も大幅に落ちる。あたしに黙って落とされなっ!!』


「まったく、一々声がでかいんだよ。女版ジンかお前は。――それにそんな粗末な剣術で俺を倒そうなんて十年早いんだよ!!」


 剣戟の中、俺は敵の左手を斬り落としそのままの勢いで袈裟懸けを浴びせる。

 <パールバティ>は体内の循環液を噴出しながら落下していくが、全身にニードルを出現させると全方位にミサイルのように発射する。


『この距離なら逃げ切れないだろ。落ち――』


 サンダルフォンが言い終わらないうちに空中に待機させておいたスターダストスラッシャーで全てのニードルミサイルを一瞬で叩き落とした。

 その様子を目の当たりにしたサンダルフォンは驚きで目を剥いている。


『なっ、そんなバカな。あたしの攻撃が通用しないなんて』


「お前の攻撃は既に何度も見せてもらった。中々トリッキーな戦術が得意のようだけど、俺には通用しないよ。――それにお前等の実力はミカエルやラファエルに比べると数段劣る。その程度の相手に負けていたらあいつらと互角にやり合うなんて夢のまた夢だからな」


『なん……だとぉぉぉぉぉ! あたしと姉貴があいつらに劣ってるっていうのか!?』


「だからそう言ってんだろ。ミカエルと戦った時、その圧倒的な強さと信念の前に俺は屈服した。ラファエルもそれに負けない位強い相手だった。そんな強敵と戦って勝つ為に……生き残る為にマドック爺さん達がこの機体を造ってくれたんだ。ガブリエルの言うがままに戦っているお前等程度に負けていられないんだよ!!」


 下方にいる<パールバティ>に突撃し、エーテルカリバーンによる連続斬りでダメージを与えつつ氷の大地に叩き付け沈黙させる。

 その時氷の大地に次々に亀裂が入り、それによって生じたクレバスに<パールバティ>は落ちて行った。


 俺は急いで機体を急上昇させて状況を確認すると<サーペント>が二百メートル程もある尻尾を激しく動かしているのが見える。

 それによって自身で作り上げた氷原を解体しているようだ。するとさっき氷原の裂け目に消えた<パールバティ>が<サーペント>に回収されているのが見えた。


『どうやらあなた方を甘く見過ぎていたようですね。この場は撤収させて頂きます』


「このまま逃がす訳ないだろ。ここで討たせてもらう!」


『あら、こちらにばかり気を奪われているようでは足元をすくわれますよ』


 メタトロンが得意げに笑った瞬間、下方から異常な殺気とエーテルエネルギーを感じた。

 それと同時にコックピットのアラートが鳴り響き、崩壊していく氷原の一部が赤く染まっていくのが見える。


「氷の大地が……溶けていく」


 言うと同時に赤く染まっていた場所が蒸発し氷原に大穴が開く。その奥から姿を現したのは、血のように赤い装甲を身にまとった装機兵だった。

 しかしその姿は装機兵の持つ機械と鎧の特徴の他に生物のような部分も併せ持っている。

 あの機体の禍々しい雰囲気を俺は知っている。


「この感覚は<ベルゼルファーノクト>と同じ。あの機体はまさか!?」


『ふふふ、気が付きましたか? 確か<ベオウルフ>と言ったかしら。海底で動けなくなっていたのでセルスレイブを大量に打ち込んでおいたのです。いざという時に駒として使おうと思っていたのですが、保険を掛けておくのは大事だと痛感しました』


 <ベオウルフ>を始めとした滅竜機兵には予めセルスレイブが搭載されているようだが、キャパシティを超える量を入れられた事で機体に異変が生じている。

 装甲は筋肉のように膨れ上がり、十五メートル級の身体は今や二十メートル程に巨大化している。

 元々攻撃的な外見をしていたが、より凶暴で禍々しい感じが強くなっている。


『殺す……殺す……<サイフィード>……殺してやる……!!』


 どうやら中身の方も凶暴化しているようだった。

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