第247話 全ての竜が集いし時②

 話題がミカエルの事になり俺は王都襲撃時の事を思い出す。

 あの時、俺はあいつとその搭乗機である熾天セラフィム機兵シリーズ<シヴァ>の前に歯が立たなかった。そして目の前で恩師であるランド教官を失った。


 あの時から俺の心の底ではミカエルに対する憎しみの感情がくすぶっている。

 憎しみに突き動かされるまま戦ってはいけないと頭では分かっていても心が納得していない。


 ミカエルは『ドルゼーバ帝国』で<ベルゼルファー>の強化をしていた。

 それなら、奴等の支配下に置かれた『ドルゼーバ帝国』に乗り込んだ際に戦う可能性は高い。

 その時、俺は平静を保ったまま奴と戦う事が出来るのだろうか。

 俺が色々と悩んでいるとアインが何かを思い出した様に口を開いた。


「そう言えば<ベルゼルファー>の改造中にミカエルはよく昔の話をしていたな。そのほとんどがウリエルという人物の話だったが」


「ウリエルだって!? アイン、その話詳しく話してくれ」


 ティリアリアの祖父であるクラウスさんが『クロスオーバー』にいた頃に名乗っていたウリエルという名前が出て来て驚いた。

 一体彼とミカエルの間に何があったのだろう。


「ミカエルの話によればウリエルは優秀な技術者だったそうだ。ミカエルは彼から様々な技術を教えてもらったと言っていた。そのウリエルは大昔にミカエル達の前からいなくなってしまったが、今でも技術者として人として彼を尊敬していると言っていたな」


「ミカエルがそんな事を言っていたのか……」


「ああ。滅多なことじゃ表情を崩さない男がウリエルの話をしている時だけは穏やかに笑っていた。言葉だけじゃなく心の奥底から信頼しているんだろうな。きっと今でも」


 あの非情な男がクラウスさんにそこまで心酔していたなんて意外だ。当然かもしれないが、『クロスオーバー』には俺たちが知りえない人間関係があるのだろう。

 

「それにラファエルにとってもウリエルは特別な存在だったみたいだ。彼の話をしている時のラファエルは嬉しそうに、それと同時に悲しそうな顔をしていたよ。さすがにそれ以上踏み込めるような空気じゃなかったから俺は何も訊かなかったがな」


 するとずっとコンソールを操作し黙っていたマドック爺さんが話に参加してきた。


「……もう何十年も前の話なんじゃが酒に酔ったクラウスが言っておったな。故郷を離れる際に二人の親友に申し訳ない事をしたと。物凄く後悔していると言っておった。もしかしたらそれがミカエルとラファエルの事だったのかもしれんのう」


 ラファエル……あの黒ゴリマッチョな男も不思議な奴だった。

 王都奪還作戦時に俺と戦ったあの男は<オーベロン>に囚われていたティリアリアの助け方を教えてくれた。

 もしあの助言が無かったら、俺たちはティリアリアの肉体だけを奪還し<オーベロン>ごと彼女の精神を消滅させていた可能性が高かった。

 そんな事になっていたらティリアリアは二度と目を覚ますことはなかっただろう。

 

「ミカエルとラファエルとは、もしかしたら戦わなくても済むんじゃないかな。二人共クラウスさんと仲が良かったんだろ? それにラファエルに関しては、ティアを<オーベロン>から助ける時にアドバイスもしてくれたし」


「それは無理だと思うよ」


 俺の淡い期待を真っ向から否定したのはシリウスだった。こいつがこんな事を言うのは意外だ。

 いつもは大抵言葉を濁すのがシリウスもとい黒山の特徴だったからだ。


「ミカエルとラファエルは今まで『クロスオーバー』の人間として任務に当たって来たんだよね? 例えウリエル――つまりクラウスさんの事を引き合いに出したとしてもそれで二人の決心が揺らぐとは思えない。確実に壁として僕たちの前に立ちはだかってくるはずだよ」


「私もシリウスと同じ考えだ。アザゼルもそうだったが『クロスオーバー』に所属するオリジン達は気が遠くなる様な時の中を生きてきた者たちだ。それ故彼等の決意は固い。我々新人類の説得に応じるとは思えない」


 カーメル三世がシリウスの意見に同意した。何百回も四年の時を繰り返し『クロスオーバー』とも面識のあるカーメルが言うのだから間違いないのだろう。


「そうかぁ。やっぱり戦うしかないって事か」


 俺が溜息を吐いているとシリウスが真剣な顔でこっちを見ているのに気が付いた。

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