第237話 蛇神は群れとなって降りて来る
<ティターニア>と<ヴァンフレア>の息の合った連携に押される<パールバティ>であったが、機体の出力を最大にして起死回生の一撃を放とうとしていた。
「調子に乗るなよ、雑魚共が。あたしを怒らせたことを後悔させてやる!」
サンダルフォンがありったけのマナを<パールバティ>に送り込み、黒色の機体の至る所から再び無数の針が出現する。
「ティリアリア様!」
「ええ、分かったわフレイア!」
接近中だった二人は今<パールバティ>に近づくのは危険と判断し、タイミングを合わせて散開する。
その様子を見ていたサンダルフォンはティリアリア達の予想通りの反応に笑みをこぼした。
「そうだよなぁ。こんな針だらけの相手に無闇に接近はしないよな。だからこっちから行ってやるよ。その奇妙な回避術もこの状態で組み付けば意味を成さないだろ。さあ、まずは聖女! お前から血祭りにあげてやるよ!!」
エーテルハイロゥを最大出力にし、急加速した<パールバティ>は真っすぐに<ティターニア>を追っていく。
ティリアリアは機体のエーテルハイロゥの出力を上げて逃げるが、少しずつ二機の距離は狭まって行く。
「さあ、このアイアンメイデンで穴だらけになりなぁ!!」
<パールバティ>の無数の針全てが高速回転を始め、今まさに<ティターニア>に組み付こうとした時だった。
「――それがその機体の術式兵装か? 随分と無様な姿だな」
男の声と共に放たれた閃光が<パールバティ>に直撃し、その黒い装甲を焼いていく。
機体表面に出現させていた無数の針は融解し、ダメージを受けた黒い
「くぅ、何だ今の攻撃は? たった一撃でこの威力だと!?」
機体を立ち上がらせ、閃光の発射元に目を向けるとそこには<パールバティ>同様に漆黒の装甲を身にまとった装機兵が浮遊していた。
エーテルハイロゥを頭上で輝かせ胸部には竜の魂たるドラグエナジストを備えた、天使と竜の力を併せ持つ異質の機体――冥竜機兵<ベルゼルファーノクト>。
天使の輪の周辺には魔法陣が展開されていて次弾装填が済んでいる状態だ。
「今の攻撃はヤツの仕業か! ついさっきまで殺し合っていた連中が簡単に手を取り合うなんて、節操が無さすぎだよお前等は」
「……言いたいことはそれだけか? ならばもう気は済んだだろう。消えろ!」
<ベルゼルファーノクト>の魔法陣から最大出力のドラゴンブレスが発射される。
ぎりぎりで攻撃を回避したサンダルフォンであったが、氷の大地を一瞬で溶かし大穴を開けたその威力に背筋が寒くなるのを感じた。
そう思ったのも束の間、コックピットに警報音が響くと次のドラゴンブレスが発射され今度は機体をかすめ損傷させる。
「ありえない! これだけの威力の術式兵装を連射だと!? そんなこと熾天機兵にも不可能なはずだ」
コックピットに表示されるロックオンマーカーが敵を捉えると迷うことなく次のドラゴンブレスを発射し眼下の氷原を焼いていく。
「ちっ、また外した。ずんぐりしている割にすばしっこいヤツだ。せっかくチャージしたドラゴンブレスの残弾はこれでゼロになったか。……おい、聖女と侍女。また時間稼ぎをしろ」
アインがティリアリアとフレイアに向けて言い放つと、激怒した二人が反論した。
「もうするわけないでしょ!! 作戦じゃ、私とフレイアが時間稼ぎをしている間にあなたが術式兵装に必要なエーテルエネルギーを溜めて止めを刺す話だったのに、なに無闇に乱発して外してんのよ! ほとんど相手にダメージを与えていないじゃない!!」
「ティリアリア様を囮にしておいてよくそんな事が言えるな! 今度はお前が囮役をしろ。その間に私とティリアリア様でヤツを倒す術式兵装の準備をする」
「お前達の装機兵には、あの熾天機兵に致命傷を与えるだけの火力は無いだろう。適材適所という言葉を知らないのか?」
こうして三人の連携は早々に崩壊した。
仲間割れをする三機の装機兵を目の当たりにして半ば呆れるサンダルフォンであったが、もう一方の戦闘状況を見て青ざめる。
彼女が見た光景は、姉であるメタトロンの搭乗する熾天機兵<サーペント>がフルボッコされる様子だった。
◇
熾天機兵<サーペント>に対し、俺たちは<カイゼルサイフィードゼファー>、<アクアヴェイル>、<グランディーネ>、<シルフィード>、<ドラパンツァー>という五機の布陣で挑んだ。
広範囲を攻撃する氷のミサイルに最初は苦戦したが、<ドラパンツァー>の火力に物を言わせた迎撃、<アクアヴェイル>のエーテルフラガラッハとエーテルアローの連射による支援攻撃、それに<グランディーネ>が敵の攻撃を引き付けてくれたお陰で俺とシオンは間合いに入り白兵戦を仕掛けることが出来た。
<サーペント>は全長二百メートルを超える巨大な装機兵ではあるが、その分的が大きく攻撃を当てやすい。
それに広範囲をカバーする攻撃力はかなりのものだが、単体に大ダメージを与える武装は無いみたいだ。
『あなた方のような野蛮な新人類は抹消されなければなりません。消えなさい!』
<サーペント>の周囲にいくつもの魔法陣が展開され、そこから無数の氷のミサイルが発射される。
今までと同じく俺とシオンは他の三人にミサイルの処理を任せ、術式兵装を放った直後の無防備な敵にカウンター攻撃を行う。
「シオン、斬撃技で挟み撃ちにする! 術式解凍――コールブランド!!」
『了解した! ディバイディングストーム!!』
<カイゼルサイフィードゼファー>の光の斬撃と、<シルフィード>の嵐の斬撃で挟むようにして斬りつける。
巨大な敵機は胸部を損傷し氷原に倒れそうになるが、途中で止まり体勢を立て直した。
『攻撃は何度も直撃しているのに倒れないとは、呆れるほどの耐久力だな』
「それが熾天機兵最大の強みでもあるからな。あの異常な再生能力は厄介だけど、操者のマナを糧にしている以上無限にはできない。――と言っても、持久戦は連戦の俺たちには辛いところだな。さて、どう攻めるか」
戦況的には俺たちが優勢ではある。しかし戦闘が長引いた場合、『ドルゼーバ帝国』との激戦で疲弊している俺たちには分が悪い。
できれば短期決戦といきたいところだ。その為にはあの分厚い装甲と再生能力を無視する高火力の攻撃を当てる必要がある。
それによってコックピットを破壊してしまえば敵は撃破できる。
「こうなったら、黄金の園で一気に勝負を決めるか……」
その時ブリッジから緊急通信が入り、オペレーターのアメリの顔が真っ青になっていた。
『敵大型飛空艇から多数の装機兵の出撃が確認されました! その機種が……その……』
「どうしたんだアメリ? 敵装機兵のタイプがどうかしたのか!?」
画面がシェリンドンに切り替わりアメリと同様に神妙な面持ちをしている。
『敵飛空艇から出撃した機体は以前『オシリス』で戦った<ナーガ>とほぼ同型の機体よ。一部形状が異なっているけれど、エーテル反応が同じものだったわ』
「ちょ、ちょっと待った! それってつまり<ナーガ>とほとんど同じ機体が何体も現れたって事なのか!?」
シェリンドンは頷いて肯定の意思を示す。
モニターで上空から降下してくる装機兵部隊を拡大すると下半身こそ人型の脚に換装されてはいたが、それ以外は以前戦った<ナーガ>に間違いなかった。
『オシリス』で苦戦したあの怪物が十機以上の群れとなって降りて来る。しかもその頭上にはエーテルハイロゥが発生していた。
「そんな……嘘だろ。<ナーガ>が量産されているなんて……」
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