第236話 ウリエルの遺産

 <ティターニア>は<パールバティ>の放つニードルミサイルを手掌で払い落としながら接近していく。

 その尋常ではない防御性能を前にして<パールバティ>の操者サンダルフォンに余裕は無かった。


「くぅっ! これはどういう事だ。報告ではウリエルの遺産のうち使えそうなのは<オーベロン>だけで、もう一機は支援特化型だったはずだ。それがどうしてこれだけの防御性能を持っている!?」


 間合いに入った<ティターニア>は指を伸ばしフォトンソードを発生させるとそのまま<パールバティ>に斬りつける。

 それを堅固な爪で受け止めると接触回線により互いの操者の姿がモニターに映し出された。

 サンダルフォンはモニターに映るティリアリアの姿を認めると睨み付ける。


「第二特異点、ティリアリア・グランバッハか……これまでは<オーベロン>に乗って自滅していた愚かな聖女が……こんな表舞台に出て来るなんて身の程を知れっ!!」


「そういうあなた達こそ、この世界に生きる人々を抹殺しようなんて正気なの!?」


 <パールバティ>は腕部の爪――ニードルクローでフォトンソードを破壊すると今度は<ティターニア>を串刺しにしようと接近する。

 そんな二機の間に深紅の竜機兵<ヴァンフレア>が割って入り、エーテルカンショウとエーテルバクヤで<パールバティ>を急襲する。

 サンダルフォンはそんな電光石火の攻撃にも反応し自機の爪で受け止めるのであった。


「ちっ、今度は<ヴァンフレア>か。そう言えばお前も今回は随分イレギュラーな動きをしているようだね、フレイア・ベルジュ。聖女の腰巾着風情が竜機兵の操者になるなんて、ある意味ティリアリアより異常とも言える」


「今の攻撃に対応するとはさすが『クロスオーバー』の一人というところだな。だが、私の前でティリアリア様を侮辱して無事で済むと思うなよ。斬り刻んでやるから覚悟するんだなっ!!」


 深紅の機体と漆黒の機体が苛烈な接近戦にもつれ込む中、ティリアリアは<ティターニア>のエーテルエネルギーを腕部に集中させていた。

 機体の両腕部は光を帯び攻撃の準備が整う。


「フレイア、今度は私が行くわ!」


「了解しました!」


 <ティターニア>が前方に出ると同時に<ヴァンフレア>が後退し位置が入れ替わる。二機の流れるような動きに一瞬戸惑いを覚えつつもサンダルフォンは冷静に対処する。


「後ろで震えていればいいものを調子に乗って前に出るなんて聖女様は今回も乱心しているみたいだね!」


「……あんまり人をバカにしていると痛い目を見るわよ」


 怒気を孕んだティリアリアの声が響くと二機は同時に互いの間合いに入った。

 <パールバティ>のニードルクローが<ティターニア>のコックピット目がけて向かってくると、ティリアリアはそれを光る手掌で払いのけカウンターとして掌底を敵の胸部に叩き付ける。

 深窓の令嬢のような華奢な体躯から繰り出された一撃は二回りほど巨大な敵を後方に吹き飛ばしよろめかせる。

 この不可思議とも言える状況を体験しサンダルフォンは理解が追いつかなかった。


「なっ、これはどういう事だ。あんな支援機の一撃で私の<パールバティ>がダメージを受けている? いや、そんなのまぐれに決まっている! これで落ちろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 <パールバティ>の機体の至る所から再び全方位にニードルミサイルが発射され、それらは目の前にいる<ティターニア>に向かって行った。

 ティリアリアは回避行動をせずその場に留まると機体の両腕を円を描く様に動かし、間合いに入ったニードルミサイルを全て払いのけて破壊した。


 水のような変幻自在の動きで敵の攻撃を無力化すると、ティリアリアは間髪入れず敵に接近し再び光の掌底をぶち当てた。

 しかも今度は単発ではなく腹、肩、脚、腕、最後に顔面に流れるように掌底を叩き込む。

 素早い連続攻撃を受けた<パールバティ>は一時的に機能が麻痺し氷の大地に両膝をついた。


「こんなバカな! <パールバティ>がパワーダウンするなんて今まで一度もなかった。あんな細い機体のどこにこんな力が?」


「確かに純粋なパワーならあなたの機体の方が上でしょうね。でも、搭乗者と装機兵の力が一体となればこういう戦い方も出来るのよ。私が習得した八卦はっけしょうと<ティターニア>の光のエーテルが合わさった〝フォトン八卦掌〟なら大抵の攻撃は無力化できる。それに攻撃直後で隙がある敵にカウンターを当てれば大ダメージも与えられる。今のあなたのようにね」


「八卦掌……だと? そんなものでやられてたまるものか!」


 サンダルフォンの怒りに呼応するように<パールバティ>の出力が上昇していき氷の大地に立ち上がる。

 そしてエーテルハイロゥを展開して空中に浮かぶと<ティターニア>に向けて高速飛行で接近し、自慢の鋭い爪で突き刺そうと襲って来た。


「ニードルクローでズタズタに引き裂いてやるよ!」


「そんな直線的な攻撃にやられるもんですか!」


 <ティターニア>は<パールバティ>の爪による刺突攻撃を手掌でいなすと同時に相手のパワーを利用して顔面にフォトン八卦掌を叩き込む。

 その衝撃で黒い装甲に覆われた頭部が歪みバランスを崩す。だが、サンダルフォンはそんな事をお構いなしに愛機を突っ込ませて来た。


「この程度のダメージでたじろぐものか! コックピットごと破壊してやる!!」


 バランスを崩しながらもサンダルフォンの執念の一撃がティリアリアを襲う。それを食い止めたのは彼女の侍女兼親友のフレイアだった。

 渾身の一撃を台無しにされたサンダルフォンは再び目の前に現れた深紅の竜機兵を憎しみの表情で見つめる。


「またお前か、フレイア・ベルジュ!!」


「言ったはずだぞ、サンダルフォン。お前は私が斬り刻むとなっ!!」


 <ヴァンフレア>の炎の十字斬りが<パールバティ>の胸部に刻まれ、衝撃がコックピットのサンダルフォンを襲う。

 それにより一時的に動きが鈍くなった敵をティリアリアとフレイアは連携攻撃で押し込んでいく。

 <ティターニア>のフォトン八卦掌で敵の攻撃を無力化し、その瞬間に<ヴァンフレア>が高火力の斬撃を浴びせる。

 長い付き合いの二人だからこそ実現可能な連携攻撃が熾天セラフィム機兵シリーズ<パールバティ>を追い詰めていくのであった。

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