第235話 メタトロンとサンダルフォン
すると敵機体から強制的にエーテル通信が送られ映像が表示される。そこには白磁の肌に長い白髪、白い着物のような服に身を包んだ女性が映っていた。
その姿はまるで妖怪の雪女のイメージそのものだ。全てが白く人形と見まがう女性はうっすらと目を開けると綺麗な声で残酷な宣言を始めた。
『初めまして、新人類の方々。私は『クロスオーバー』に所属するメタトロンと申します。既にあなた方は我々の組織について知っていると思いますので、その説明は割愛させていただきます。――単刀直入ではありますが我々がここに来た目的を説明させていただきます。我々『クロスオーバー』はこの世界のために何度もあなた方を裏から支えてきました。それにも関わらずあなた方はこの世界を破滅へと導く選択しかしてきませんでした。そのため議論を重ねた結果、我々『クロスオーバー』は本日を持ってあなた方、新人類の抹殺を実行に移す結論に至ったことを宣言いたします。なお、これは決定事項であり覆ることはありません。以上です』
一方的に言いたいことだけ言うとメタトロンは通信を遮断した。
それと同時に<サーペント>の周囲に無数の魔法陣が展開され細かい光の粒子が散布され始める。
光の粒は海に落下するとその一帯を凍らせていった。戦闘で破壊されていた装機兵の残骸に粒子が付着すると一瞬で氷漬けになってしまう。
「どうやらあの粒子に触れると凍ってしまうみたいだな。操者が雪女なら機体も氷系統の機体ってわけか」
『ブリッジより竜機兵チームへ。敵大型装機兵を中心とした半径十キロメートルの海面が凍結した模様、接近時は注意してください。それと敵大型飛空艇に動きあり、装機兵の降下が開始されました』
アメリの報告を受けて上空を見ると敵飛空艇<ガルーダ>から大量の装機兵が降りてくるのが見えた。
氷の大地と化した海に次から次へと敵装機兵<サーヴァント>が着地する。
目視だけでも多分百体以上の敵機が<サーペント>を守るような布陣で立っている。
さらに黒を基調としながらも所々に金色の装飾が施された機体が<サーペント>のすぐ傍に降下した。
『鑑定』で確認すると熾天機兵<パールバティ>という機体である事が判明した。
機体サイズは<ブラフマー>や<シヴァ>とほぼ同じ。エーテルハイロゥを頭上に展開している事からもかなりの高性能機だろう。
この情報をすぐに味方に送り共有する。あれだけの激戦を繰り広げた後に、熾天機兵が二機と装機兵百機からなる大部隊が目の前に現れ皆に緊張が走る。
『予想はしていたけどかなりの大部隊ね。それに対してこちらは戦闘可能なのが八機だけ。一人あたり十三機ぐらい倒せばいい計算かしら。――楽勝ね!』
ティリアリアが笑顔で言い切った。それにより皆の緊張感が和らいだのが分かる。
「ティアの言う通りだ。<サーヴァント>は大して強くない。油断しなければ大丈夫だ。問題は熾天機兵二機だけ――行くぞ、皆!!」
『了解!!』
ポイント
◇
氷原を舞台にして竜機兵チームと『クロスオーバー』大部隊の戦闘が開始された。
「一機ずつ相手をしている暇はない。まとめて叩く!!」
<カイゼルサイフィードゼファー>がスターダストスラッシャー、<ティターニア>がシャイニングレイ、<アクアヴェイル>が拡散リヴァイアサン、<ドラパンツァー>が一斉射を行うと氷原の上にいた<サーヴァント>の大半は消し飛んだ。
すかさず<シルフィード>がアジ・ダハーカで突っ込んで行き、残りの敵機を一機残らず平らげる。
約百機の<サーヴァント>は一分足らずでスクラップと化し残りは熾天機兵二機だけとなった。
「俺が先行する! ――<ベルゼルファー>!!」
アインが前に出ると<ベルゼルファー>が黒いオーラに覆われていき、<ベルゼルファーノクト>へとパワーアップした。
機体が巨大化し背中から飛竜形態時の翼が生え、頭上でエーテルハイロゥが光り輝くと一気に加速し<サーペント>に向かって行く。
エーテルアロンダイトで斬りつけようとした時、二者の間に割って入る者があった。
「姉貴に触れさせるわけねーだろ!!」
<ベルゼルファーノクト>の攻撃を受け止めたのは漆黒の熾天機兵<パールバティ>だった。
分厚い装甲を有し前腕部は本体のサイズに対し巨大で指先には鋭い爪が装備されている。その爪でエーテルアロンダイトの斬撃を受け止めていた。
この光景を目の当たりにしてアインは驚きを隠せない。
「こんな爪でエーテルアロンダイトを受け止めただと!?」
「はんっ! この程度の剣であたしの<パールバティ>を傷つけられると思ってんの? 甘いんだよっ」
<パールバティ>は<ベルゼルファーノクト>に蹴りを入れて体勢を崩すと指先の爪を伸ばして串刺しにしようとする。
アインは伸ばされた爪――ニードルクローを剣で受け流すと一旦離れて仕切り直す。その周囲にハルトたちがやって来てフォーメーションを組む。
「アイン、あの二機はどんな性能を持っているのか詳しくは分からない。一機で向かい合うのは危険だ。数なら今はこっちが有利、フォーメーションを組んで攻撃するぞ!」
「ちっ、確かにあれは装機兵の常識が通じない性能を持っているようだな。気乗りはしないがそれでいくしかないようだ」
八対二の不利な状況になっても<パールバティ>の操者サンダルフォンの表情には余裕があった。
「雑魚共が何人束でかかってきても同じなんだよ。あたしの名はサンダルフォン、あんた等を終わらせる者だ。――さあ、ぶっ殺してやるよ!!」
<パールバティ>の全身からトゲ状のパーツが出現するとハルト達に向けてミサイルの如く発射した。
先端がドリルのように回転しながら飛んでくるミサイルは躱しても空中で曲線を描きながら再び襲ってくる。
「逃げても無駄だよ。このニードルはどこまでも敵を追って最後にはその身体を貫く。いい加減観念してさっさとやられな!」
空中を縦横無尽に飛び回るニードルの飛翔体であったが、それらは標的に到達する前に叩き伏せられ次々に爆発していく。
それを成したのはまるでドレスを着ているような外見の装機兵だった。
その機体――妖精姫<ティターニア>は腕部を覆うエーテルガントレットを装備し掌でニードルのミサイルを払い落とす。
掌は光のエーテルエネルギーによって淡く輝いており、その力でもって敵のしつこい攻撃兵器を沈黙させていった。
「あたしの……<パールバティ>の攻撃を無力化しただと? あの機体はまさか……ウリエルの遺産か!」
サンダルフォンが<ティターニア>を見て奥歯を噛む。一方のティリアリアは自分の力が敵に通用するのを実感していた。
「どうやらあの変則的な動きをする武器には私の八卦掌が相性いいみたいね」
ティリアリアのイメージを取り込み、<ティターニア>は両腕を円を描く様に動かし接近してきたニードルを光の手掌で払い落とし撃墜していく。
「あの黒い敵とは私が戦うわ。皆は援護をお願い。――いくわよ、<ティターニア>!!」
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