第234話 共同戦線
『<ベルゼルファー>もアインさんも他の皆と同じように回復させてしまってよいのですか?』
「ああ、それで頼むよ。ティアは<カイゼルサイフィードゼファー>が終わったら<ベルゼルファー>のエーテルエネルギー回復を頼む」
『分かったわ』
ティリアリアとクリスティーナはすぐに指示通りに動いてくれた。これなら敵が到達する頃にはこちらの準備も整うだろう。
ただ、アインだけは俺の指示に驚いている様子だ。それはそうだろうな。さっきまで全力で戦っていた相手なわけだし。
『どういうつもりだ。俺はお前たちの敵だぞ。それを回復させるとは気でも触れたか?』
「そんなわけあるか。ここに近づいてくる敵は『ドルゼーバ帝国』の部隊を全滅させたんだ。少なくともお前達にとっては敵だろ。そんでもって俺達にとっても敵なわけ。――だから、ここからは共同戦線を張る。俺たちに力を貸せ、アイン」
『なっ!』
さすがのアインもこの提案は意外だったようで言葉に詰まっている様子だ。
しかし、こいつも軍人である以上、敵対関係にある俺たちと個人の判断で共闘する事は出来ないだろう。
そこで<ニーズヘッグ>経由で<ナグルファル>とエーテル通信を繋いでもらい、俺が直接向こうの船長と話をつけることにした。
「こちらは『アルヴィス王国』、『聖竜部隊』所属、ハルト・シュガーバインです。あなたがドラゴンキラー部隊の隊長ですか?」
『いかにも、私がドラゴンキラー部隊隊長兼<ナグルファル>船長のゼクス・オーガンです。王国の聖騎士どのがこんなに若いとは驚きです。――それでこのように直接通信を入れて来るとはどのようなご用件でしょうか?』
このゼクスという船長は、恐らく俺がこれから言おうとしている事を分かっている。俺の経験上、こういう目をした人はかなりのやり手だ。アインが信頼を置くだけの事はあるな。
「先程、何者かの手によって先に退避していたあなた方の味方が全滅させられたと聞きました。十中八九『クロスオーバー』の仕業だと我々は考えています。彼らはあなた方にとって今まで同盟を結んでいた相手かもしれませんが、その真の目的は新人類の抹殺です。恐らくその目的を達成するために本格的に行動を開始したと我々は考えています。お互いに生き残るために、ここは共同戦線を張りたいと考えています。時間が無いので即決していただきたい」
お互いに戦力を消耗した状況で生存率を上げるためにはこれしかない。
今まで相手をしてきた帝国のお偉いさんなら、プライドやら祖国愛やらを優先して突っぱねるだろうがこの人物は部下を見捨てない気質を持っている。それなら――。
『その話に乗ったとして、こちらが提供できる戦力はありません。あなた方にとってなんの旨味はないはずですが……』
「現在、竜機兵チームの手で<ベルゼルファー>と操者であるアインの回復を行っています。提供してもらう戦力はそれだけで十分です。あいつがいれば
ゼクス船長が口をつぐんで俺を見ている。アインの力だけが欲しいと言えばすぐに乗って来ると思ったが、何を考えているのだろう?
『一つだけお訊ねしたい。なぜ敵であるアインにそれ程の信頼を寄せているのか、それを聞かせていただきたい』
「そんなの戦ってみれば分かりますよ。アインは実直な性格で愛機を大事にしている戦闘バカです。共闘するにあたってあいつは十分に信頼できると俺は思っています。――多分あなたもそう思っているんじゃないですか?」
『……ふふふ……あっはっはっはっは!!』
さっきまでシリアスムード満点だったゼクス船長が突然大笑いを始めたので、俺も向こうのブリッジクルー達も唖然としてしまった。
当の本人は笑い終え呼吸を整えるとモニター越しに俺を見てこの共同戦線を受諾した。
『アインはああいう性格だから他人から誤解されやすいんだが、実際はただの単純な戦闘バカだからな。まさか敵にそれを分かっているヤツがいるとはな』
ゼクス船長は何というか気の良いおっちゃんだった。こういう上司がいたら社会人生活も、もう少し楽しかったかもしれないなぁ。
「――というわけで、上からの許しが出たので遠慮なく力を貸してもらうぞ、アイン」
『いいだろう。あくまで上からの命令だからな。従おう』
こう言ってはいるがアインは割と共同戦線に前向きな感じだ。こうして俺たちの準備が整った直後にそれは現れた。
<ニーズヘッグ>よりも高高度を浮遊する巨大な飛空艇。両舷から巨大な翼が展開されたその姿は鳥の怪物のようだ。
『鑑定』で確認してみると<ガルーダ>という名の飛空艇らしい。全長はおよそ二千メートル。ここまでくると飛空艇というよりもはや飛空要塞だ。
その<ガルーダ>から何かが降下してくるのが見える。人型の上半身に蛇の胴体のような下半身。
そのシルエットには見覚えがあった。かつて『オシリス』で戦った機体<ナーガ>を彷彿とさせる姿だ。
その<ナーガ>モドキはエーテルハイロゥを頭上に展開しながら降下速度を落として海面に着水した。
初めて見るこの機体も『鑑定』で見ると熾天機兵<サーペント>と言う名の機体らしい。
<ナーガ>よりも人型の上半身は女性のような流曲線を意識したデザインになっている。
背部からコウモリのような巨大な翼が二基生えており、下半身の蛇型の部分は<ナーガ>の倍の二百メートル程度ある。デカすぎだろ。
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