第十三章 古よりの支配者
第233話 一難去ってまた一難
アインとの決着がつき周囲の状況を確認していると、どうやら他の戦闘も終了し『ドルゼーバ帝国』側は撤退を開始しているようだった。
ここポイント
そのため母船である<ナグルファル>がかなり近い位置にまで来ていた。
それに対し、これ以上の戦闘は不要と<ニーズヘッグ>は彼等の撤収作業を見守っている状態だ。
帝国側の残存戦力を見る限り、現地に残っているのは<ナグルファル>を始めとするドラゴンキラー部隊だけのようだ。
彼らが
さらにその上で戦場に残った仲間を置き去りにせず迎えに来たのだ。
「アイン……あれはお前が所属してる部隊の母船だろ。この状況でお前等を迎えに来るなんて中々いい仲間じゃないか」
『あれの船長は、俺たちが強化処置を受けた施設にいた時の教官だ。――あの人だけは俺たちを人間として見てくれていた。そして新設されたドラゴンキラー部隊の責任者となって生き残った強化兵を集め俺たちの居場所を作ってくれたんだ。感謝してもしきれない存在だ』
「……何だよ。お前にもちゃんと信頼できる人がいるじゃないか。それなのにお前ときたら自分は独りで戦ってます的な事を言ってさ。――そんな人がいる部隊とはできればもう戦いたくはないなぁ」
アインとだべっているとモニターに竜機兵チームの機体が近づいてくるのが見えた。その数は六機、ちゃんと全員がいることにホッとする。
『ハルト、お疲れ様。怪我とかしてない?』
<ティターニア>がすぐ傍に来て<カイゼルサイフィードゼファー>の修復作業に入った。
ティリアリアは心配そうな表情でモニターに映ったが、俺の元気な姿を見ると安心した様子を見せる。
「ありがとう、ティア。初陣だったのにクリスと見事な連携だったな」
『一応、あなた曰く私は元〝ラスボス〟だからね。それに<ティターニア>の性能のお陰よ。正直、奇襲攻撃をしてすぐに逃げまくったから大した事はしてないけどね。だからちょっと不完全燃焼気味かしら』
俺とティリアリアの会話を聞いていたアインの表情が若干引きつるのが見える。向こうにしてみればボコボコにやられたのに、これ以上やられるのはたまったものじゃないだろう。
そんなアインに対し話しかけたのはシオンだ。以前『第一ドグマ』の戦いではシオンはアインに負けている。
色々と思う所はあるのかもしれない。
『ハルトの連撃を食らって生きているとはな……中々にしぶとい奴だ。お前の仲間も強力な連中ばかりだった。<ベオウルフ>は海中に沈んで消息不明だが、少なくとも他の機体と操者は無事だ。戦闘は終わったようだし、間もなく海中捜索が行われるはずだ』
『そうか……それならアグニもすぐに見つかるな』
どうやらシオンにはアインに対する遺恨は残っていないらしい。それにさりげなく安心させる発言してるし本当に大人になったものだ。
<ナグルファル>にアインの仲間の機体が回収されている間、海岸から見える海を皆で眺める。
今でもかなり綺麗だと思うが戦いの直後でなければもっと美しい景色だったに違いない。
今度はプライベートで来てみるのもいいかもしれない。
そんな折、<ベルゼルファー>のコックピットに通信が入った。アインは<ナグルファル>のブリッジとやり取りをした後、焦った様子で事情を説明してくれた。
『今しがた<ナグルファル>に先に撤退した部隊から救援要請があったらしい。だが、その途中で通信は途絶、エーテルレーダーからも味方飛空艇の反応が消えたそうだ。何者かの奇襲に遭って全滅した可能性が高い』
『全滅だと!? さっき撤退した飛空艇はかなりの数がいたはずだ。それを……』
『帝国の撤退ルート上に味方を配置したという話は聞いていませんわ。それに同盟を結んでいる『ワシュウ』や『シャムシール王国』は今回作戦には関与していませんし』
『それじゃ、誰がやったのさ?』
フレイアとクリスティーナ、パメラもこの異常事態に戸惑っている様子だ。
そうなると考えられる相手は一つしかいない。その推察が合っていれば、ついに奴等が本気になったという事を意味している。
その事に気が付いたフレイが険しい表情で俺を見る。
『状況を考えればこんな事を可能とする組織は一つしかいないよな』
「ああ、『クロスオーバー』が動いた。しかも今まで同盟を結んでいた『ドルゼーバ帝国』を真っ先に攻撃したんだ。直接、新人類を潰しにかかって来たということだろうな」
<ニーズヘッグ>からエーテル通信が入るとオペレーターのアメリが血相を変えていた。それを見て俺たちの予想が的中していたのだと悟る。
『<ニーズヘッグ>より竜機兵チームへ。この空域に接近する大型飛行物体の反応あり。内部からは高エーテルエネルギーの反応も見られています。帝国の飛空艇編隊を殲滅したのはこれではないかと思われます!』
ブリッジとの通信モニターがアメリからシェリンドンへと切り替わる。取り乱した様子はないがどのように対処すればいいか悩んでいる様子だ。
『今の報告の通り、ここに正体不明……と言っても十中八九『クロスオーバー』でしょうけど、その所属と思われる巨大構造体が接近中よ。その全長は最低二千メートルと推測されているわ。この規模なら内部にかなりの数の装機兵を搭載しているはず。撤退をするのならすぐに動かなければならないけれど……』
俺たちは戦闘を終えたばかりだ。万全の状態ならまだしも戦力が未だ不透明な敵組織相手に正面からぶつかるのは危険すぎる。
しかし、いくつもの小島にいる騎士団の装機兵を全機回収するにはまだ時間が掛かる。
どのように動けばいいかすぐに決断する必要がある。
「シェリー、聖騎士特権を使ってここからは俺が現場指揮を執る。それでいいかな?」
『分かりました。それでは指揮権を聖騎士ハルト・シュガーバインに委譲します』
これで俺は現場の最高責任者となった。聖騎士にはこのような緊急事態において指揮権を譲ってもらい作戦立案をする権限がある。
「それじゃ、まずは地上にいる王都騎士団の即時撤退を開始する。ジェイソン騎士団長、それでお願いします」
ジェイソン騎士団長と通信を繋ぎ直接指示を出す。彼はこれに対し少々納得のいかないという表情をしている。
『直接戦闘はともかく撤退しつつそちらのサポートをするぐらいは可能です。ハルト殿たちも激戦で疲弊しているはず。これ以上負担を掛けるわけには!』
「いえ、ここは一切戦闘せず撤退に集中してください。『クロスオーバー』の機体の中にはセルスレイブを打ち込んで装機兵のコントロールを奪うヤツがいます。それで同士討ちをさせるのがヤツらの常套手段なんです。俺たちの機体には対セルスレイブ用の処置が施されていますが、まだ騎士団の機体にはそれがされていません。ここは俺たちに任せてください」
『……了解しました。それでは騎士団は撤退を開始します』
各小島に飛空艇が降下し騎士団の撤収が開始された。敵がここに来るまでにやらなければならない事は他にもある。
「ティア、俺の機体のエーテルエネルギーの回復を頼む。クリスは<ベルゼルファー>のダメージ修復をしてくれ。それと二人のスキルで俺たちのマナ回復を頼む」
ティリアリアが搭乗する<ティターニア>は、装機兵のダメージを修復するヒールとエーテルエネルギーを回復するエーテルサプライという便利な術式兵装を搭載している。
この機体がいるだけで戦略の幅がかなり広がる。
おまけにティリアリアとクリスティーナは味方のマナを一定量回復させる『愛情』というバトルスキルを持っている。
これらを併用すれば疲弊した状態から全快に近い状態に短時間で持っていけるのだ。
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