第232話 兄弟竜決着の刻
<カイゼルサイフィードゼファー>と<ベルゼルファーノクト>の二機は搭載している最強の剣を携え斬り合う。
以前の調子を取り戻したアインと<ベルゼルファーノクト>のコンビは動きがさっきまでと全然違う。
大剣であるエーテルアロンダイトを巧みに操り力と技で深く斬り込んで来る。
こっちはエーテルエクスカリバーでその攻撃を
「これを躱すのか――やるっ!」
『俺は負けるわけにはいかん!』
鍔迫り合いをする度にアインから流れ込んでくる感情は愛機に対する思いだけじゃない。
「アインさんよ、さっきまでは自分の為だけに戦っているような事を言っていたようだけど、今は違うみたいだな。――いや、本当はもっと前から気付いていたんじゃないのか。お前の戦いは既に自分だけのものじゃないって!」
ぶつかり合う刀身から閃光がほとばしる。切り払って敵を蹴り飛ばすと、ヤツはすぐさま体勢を整えて再攻撃してくる。
『……そうなのだろうな。俺はあいつらと一緒にいる時をいつの間にか心地よく感じるようになっていた。分かっていて、それは自分を弱くすると思い込んで受け入れないようにしていた。――だが、こうして俺がお前と一対一の戦いが出来ているのはあいつらのお陰なんだ。あいつらがいてくれたから俺は――戦える!』
「俺も同じだ! 仲間がいたからこれまでの戦いを乗り越えて来れた。そしてこれからの戦いも仲間たちと一緒に乗り越えて見せる!!」
剣に込められたエーテルエネルギーが反発し合って小規模な爆発を起こし、<カイゼルサイフィードゼファー>と<ベルゼルファーノクト>は空中でそれぞれ後退する。
ここに来るまで俺たちは互いの機体の武装を全て使い、己の操者としての技量を最大に活かして斬り合って来た。
俺たちは自分と愛機の力を出し切ったのだ。最後まで温存した切り札を除いて――。
「アイン……次で勝負を決めるぞ。この攻撃に全てを込める!!」
『いいだろう、俺も同じことを考えていた。決着をつけるぞ、ハルトッ!!』
<カイゼルサイフィードゼファー>の動力にマナを流し込み出力が最大にまで達する。
それと同時に機体に搭載された全てのエナジスタルが共鳴しエーテルエネルギーが臨界を突破した。
背部のエーテルフェザーからエーテルの粒子が放出されエーテルエクスカリバーに凄まじいエネルギーが集中する。
<ベルゼルファーノクト>もまた機体全体からこれまでで最大のエーテルエネルギーを放っている。
そのエネルギーがエーテルアロンダイトへと注がれていく。向こうも最後は剣を用いた術式兵装で来るようだ。
お互いの機体に集中したエネルギーが限界を超え、それぞれの翼から余剰分のエーテルが放たれる。
それを合図として俺たちは最後の攻撃のため突撃を開始した。
先に攻撃を放ったのはアインの方だった。エーテルアロンダイトに集中した漆黒のオーラが爆発的に広がっていく。
『もらった! これが俺と<ベルゼルファー>の最後の力だ。食らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、カラミティアーク!!』
漆黒の巨大な斬撃波が真っ正面から向かってくる。俺は最初から回避する気は無かった。
アインと<ベルゼルファー>の全力を正面から受けきってやる!
俺はエーテルエクスカリバーを前面に突き出しながら最高速度で黒い刃の中に突っ込んで行く。
機体を覆う黄金の鎧に次々と傷と亀裂が入っていき、コックピット内でアラートが鳴り響いた。
「持ってくれよ、<サイフィード>! いけえええええええええええええ!!」
機体各部にダメージを負いながらも<カイゼルサイフィードゼファー>は漆黒の斬撃波に耐えきり敵の正面に出た。
全力の攻撃を放った直後の<ベルゼルファーノクト>は動けずにその場にいる。
「アイン、こいつを受けろ! 術式解凍――
エーテルエクスカリバーにありったけのエーテルエネルギーを集中させ、思い切り敵機に斬撃を浴びせる。
斬撃が直撃した瞬間に刀身に込めたエーテルを叩き込む。機体を高速移動させながらこの斬撃を八回敵に食らわせていく。
「壱斬……弐斬……参斬……肆斬……伍斬……陸斬……漆斬……!!」
次々に放たれる斬撃を前に<ベルゼルファーノクト>は自己修復が追いつかない。
敵の黒い装甲が次々と砕かれていき内部を流れるエーテル循環液が噴き出している。
俺は最後の一撃に全ての力を集中させ接近する。
「これで終わりだ! 捌斬目ェェェェッ、ファイナル……ストラァァァァァァァァッッッシュ!!!」
八岐大蛇の八回目の斬撃が<ベルゼルファーノクト>に入った。
それに連動してこれまでに敵機に刻んだ七つの黄金の刃が同時に爆発し内側から漆黒の竜機兵の身体を食い破った。
機体の内側から爆発し装甲や内部フレームの破片が吹き飛んでいく。
大破寸前まで破壊された<ベルゼルファーノクト>からエーテルハイロゥが消え、機体の形態とサイズが通常の状態へと戻る。
真下にあった小島ポイント
自分のマナや機体のエーテルエネルギーのほとんどを使い切った俺は、<カイゼルサイフィードゼファー>を<ベルゼルファー>の近くへと降下させた。
エーテルエクスカリバーをストレージ内に収めると装甲を覆っていた黄金のコーティングが消えて元の純白のものへと戻る。
今度こそ本当に全ての力を出し切った俺は大きく息を吐いてシートに体重を預ける。モニターの向こうにはアインの姿があった。
機体に大ダメージを負った衝撃で彼も怪我をしているが、見た感じ命に別状は無さそうだ。
「どうやら俺の勝ちみたいだな」
『……そうだな、お前の圧勝だ』
「圧勝って……互角の戦いだったじゃないか」
『……よく言う。戦いの中で散々俺に塩を送った挙句、こちらの最大の術式兵装の直撃にも耐えて見せただろう。ここまで圧倒的な実力差を見せつけられたらさすがに俺も自信を無くすさ』
そうは言いつつもアインの声はとても穏やかだ。ついさっきまで永久に戦争する世界にしたいと言っていたヤツと同一人物のようには見えない。
その憑き物が落ちた好敵手を見ていると俺も何だか心が満たされるような気持ちになってくる。
戦争をしていて戦った後にこんな穏やかな気持ちになるなんて思わなかった。
「お前と戦争をするのはもうこりごりだけど、命を掛けない戦いだったら後でいくらでも受け付けるよ。『クロスオーバー』との戦いが終わった後の話だけどね」
『そうか……なら、今度やる時はもっとお前を追い詰めてやるさ』
「そんだけボコられたって言うのに、その自信はどこから来るんだよ。……あははは」
『確かにそうだな。ふふふ……はは……』
戦いの中で殺し合い、ライバルと認め合い、憎しみ合って殺意を剥き出しにして最終的にはこうして笑い合っている。
俺とアインは本当に不思議な間柄だとつくづく思う。
<サイフィードゼファー>も<ベルゼルファー>もお互い生き残れたことを嬉しく思っているようだし、とりあえず兄弟竜の喧嘩に決着がついたのであった。
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