第231話 ライバル

 俺は中破した<ベルゼルファーノクト>の目の前に降下し様子を見る。その間にものすごい速度で敵が再生していく。


「…………」


『どういうつもりだ。何故こちらの修復中に攻撃を仕掛けて来ない? 俺を馬鹿にしているのか!?』


「……別に。強いて言うなら、お前が何回かかってこようと、俺と<サイフィード>ならぶちのめせると思ってるからさ。今のお前等と違って俺たちは人機一体となって戦っているからな」


 俺が言ったことが納得いかなかったのかアインは憤りを見せながら機体を立ち上がらせる。

 破損した脚部の再生が完全ではないにも関わらず、無理矢理動かされて機体が軋む音が泣き声のように聞こえる。


『俺と<ベルゼルファー>はお前たちを倒すことに執念を燃やしている。その意志があればこそ俺たちは何度も立ち上がれるんだ。どんなに傷つこうともな!!』


「……お前はバカか? 傷ついてるのは<ベルゼルファー>だけじゃないか! ――アイン、お前には相棒の声が聞こえないのか? 俺たちと戦っている間、ずっと痛みを訴えている相棒の泣き声が」


『なんだと?』


「お前たちと『第四ドグマ』で初めて戦った時、お前と<ベルゼルファー>は互いの心を通わせた、まさに人機一体の存在だった。それを目の当たりにしたからこそ、俺も<サイフィード>の声を聞くことが出来たんだ。――けど、今のお前は<ベルゼルファー>の声を聞こうともせず、自分の感情だけで突っ走っている。おまけに自己再生能力なんていうものを得たばかりに相棒が傷つく戦法を平気で取るようになっちまった。今のお前には相棒の苦しむ声すら届かないんだな」


 俺が言い捨てるとアインはショックを受けたような顔をしていた。もっとも仮面で目の周りは見えないので何となくそんな感じがするだけだが。

 アインは俯き動かなくなる。俺はそれを黙って見届ける。――その時が訪れるのを待ち続ける。

 すると<ベルゼルファーノクト>の胸部で赤い光が発生し機体の破損個所が瞬く間に再生された。

 それと同時に黒い機体から発せられるプレッシャーの質が変わるのを、俺と<カイゼルサイフィードゼファー>は感じ取っていた。


「この感覚……『第四ドグマ』でお前等と初めて会った時のことを思い出すよ。あの時は<サイフィード>が完全にビビッて大変だったけど。あの戦いがあったからこそ今日の俺たちがいる。――ようやくそっちの準備も整ったようだし、最終ラウンドといこうか!」


 俺が言うとモニターの向こうでアインが顔を上げて俺を真っすぐに見つめていた。

 さっきまでの余裕の無い雰囲気は既になく、自身に満ち溢れているような憑き物が落ちたような感じがする。


『感謝するぞ、ハルト。お前の言う通り、俺は<ベルゼルファー>の声を聞かず独りよがりになっていたようだ。改めてこいつの意志を確認することが出来たよ。――今思えば<ベルゼルファー>は俺の憎しみに同調するようにして他の竜機兵を憎むようになっていたのかもしれないな。しかし、もうそんなのはどうでもいいんだ。俺はライバルと認めたお前に勝ちたい。ただそれだけだ』


「俺も同じだよ。これから俺はこの世界の未来を掛けて『クロスオーバー』と戦っていくことになる。それはきっと今の俺には想像もできない壮絶な戦いになると思う。だから、その前にライバルであるお前との戦いにちゃんと決着をつけたいと思ったんだ。あの時の――『第四ドグマ』の戦いから続く因縁に終止符を打つ!」


 今の俺たちの間には敵味方による憎しみだとか怒りだとかいう感情は無い。ただ純粋に目の前にいる好敵手に勝ちたいという気持ちだけがある。

 それはお互いの愛機にとっても同じだ。今の<ベルゼルファー>からは以前にあった<サイフィード>に対する憎悪の気配を感じない。

 それどころか好感のようなものを感じる。きっとこれが<ベルゼルファー>本来の意志なのかもしれない。

 

『ヤツを倒すぞ、<ベルゼルファー>!!』


 アインの気迫に呼応するように<ベルゼルファーノクト>から黒いオーラが発生し機体を包む。

 今までは全てのエーテルエネルギーを攻撃のみに回していたが今度は防御面にもエネルギーを割り振ってバランス型にしてきたようだ。

 それに加えてアインも冷静になって攻守を意識した戦い方をしてくるはず。それを凌ぎ叩き潰す。


 そのために、この機体の最終兵器を使う。

 <カイゼルサイフィードゼファー>の全てのエナジスタルが共鳴し機体の前面で何層にも重なった魔法陣が展開する。

 その中から武器の柄が出現し、魔法陣から放出されるエネルギーの反発に逆らいながら手に取った。

 つばの中央に鎮座するアークエナジスタルが輝くと膨大なエーテルエネルギーが放出され大型の刀身を形成する。


「刀身固定、マテリアライズ完了――ドラゴニックウェポン、エーテルエクス……カリバーーーーーーー!!」


 大剣型のドラゴニックウェポンであるエーテルエクスカリバーを装備し剣先を敵に向けるように構える。

 刀身から放たれる黄金のオーラが機体に伝わり<カイゼルサイフィードゼファー>の純白の装甲を黄金色に変化させた。

 俺もアインも準備が整った。あとは――。


「『ただ、ぶつかり合うのみ!!』」


 俺とアインは同時にその場を飛び出し全力で互いの得物をぶつけ合う。

 エーテルエクスカリバーとエーテルアロンダイトを形成する膨大なエーテルエネルギーが干渉しあって閃光を伴う火花を散らせる。

 そしてヤツとの戦いが始まってから何度目なのか分からない剣戟が再び開始された。

 けれど、お互い機体も含めてパフォーマンスは最高の状態。これが正真正銘最後の戦い。互いに相手の息の根を確実に止めるため、必殺の術式兵装を温存している。

 その瞬間が訪れる時は近い。

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