第229話 見守る者たち

「へっくち!」


「大丈夫ですか、シェリンドンさん。もしかして風邪ですか?」


 <ニーズヘッグ>のブリッジでも空中戦を続ける二機の竜機兵をモニターしていた。

 帝国側が撤退を開始したが無理な追撃はしないという指示が出ていたため、ドラゴニックバスターキャノンを発射した位置で待機し味方機を回収しようとしていた。


「大丈夫よ、シリウス君。きっと誰か噂でもしたんじゃないかしら」


「そうですか。それならいいんですが……それにしても凄い攻防戦ですね」


 <ベルゼルファーノクト>と熾烈な戦いを続ける<カイゼルサイフィードゼファー>を見てシリウスは色々と考えていた。

 システムTGでもある彼は他の者たちとは異なる視点でこの戦いを見ている。

 熾天セラフィム機兵シリーズと同等の戦闘力を見せる聖竜機皇は十分に『クロスオーバー』と渡り合える力を持っている。

 

(ハルトと<サイフィードゼファー>の力なら『クロスオーバー』の主戦力にも対抗できるはずだ。そして……この世界を本当の意味で彼等から開放するためには過去の遺物は排除されなければならない。ハルト……白河……いずれ僕は君に酷いことをお願いするだろう。でも、君なら必ずそれをやり遂げてくれると信じてるよ)




 戦場の勝敗は決し『ドルゼーバ帝国』の残存勢力が撤退を開始する中、二体の兄弟竜の戦いは衰えるどころか激しさを増していく。

 戦いを終えた者たちはその戦いを遠巻きに眺めていた。自分たちの力を凌駕する別次元の死闘に目を奪われていたのである。


 そのような中、竜機兵チームの各機は無事に合流を果たし母船へ向かっていた。ティリアリアたちは上空で戦っているハルトに視線を向ける。


「凄い戦いだわ。パワーアップした<ベルゼルファー>は<オーベロン>以上かもしれない。ハルトに加勢は――しない方がよさそうね」


「そうですね。空を飛べる<ティターニア>であれば援護は可能でしょうが、あの戦いに横槍を入れるのはハルト自身が望まないでしょう。私たちに出来るのはあいつの無事と勝利を祈るだけです」


「――だな。あいつは以前から<ベルゼルファー>との決着は自分一人でつけたいって言っていたからな。任せるしかないさ」


 ティリアリア、フレイア、フレイの三人はハルトの意志を汲んで戦いを見守ることに決めた。

 一方のシオン、パメラ、クリスティーナも同意見ではあったが、そう決めたのには他にも理由がある。

 

「僕たちもこの戦いはハルトに任せるべきだと思っている。――それに<シルフィード>もあの二機の戦いに介入するのは無粋だと言っているしな」

 

「<グランディーネ>も同じことを言ってるよ。全部で六機ある竜機兵の中で最初に造られた<サイフィード>と<ベルゼルファー>の関係は特別なもの。この戦いは操者同士が望んだものであると同時に、あの二機が望んだものでもある」


「ハルトさんとアインさんが互いの信念をぶつけ合っているように、<サイフィード>と<ベルゼルファー>もまたお互いの因縁に決着をつけようとしているのかもしれませんわね」


 竜機兵チームの六人が地上から見守る中、<ニーズヘッグ>のブリッジではマドックが二機の戦いを見守るため姿を見せていた。

 以前ティリアリアが使用していたしシートに座り、弟子であるシェリンドンと共にメインモニターに映る白と黒の竜機兵を見つめる。


「シェリー……覚えているか? <サイフィード>と<ベルゼルファー>が完成したあの日のことを」


「はい、昨日の事のように覚えています。あの二機の完成は私たちにとって記念すべき日ですもの……忘れられるわけありません。あの二機を筆頭にした六機の竜機兵がこの国を守る道しるべとなる。それを信じて皆が希望に胸を躍らせていましたから」


「そうじゃのう。わしもそう思っておった。しかし<ベルゼルファー>が帝国に奪われ、<サイフィード>は起動することなく時間だけが過ぎ去り、あの二機は竜機兵計画から外される流れとなった。――その二機が今、姿を変え新たな力を得てぶつかり合っておる。それは、わしらにとって嬉しくもあるし悲しくもある。……複雑な心境じゃよ」


 マドックは肩を落としながらもモニターから視線を外すことはなかった。

 竜機兵開発計画はマドックにとって親友であるクラウスと共に始めた自身の集大成となるものであり、試行錯誤の末生み出された竜機兵は我が子のような大切な存在だった。

 だからこそ、始まりの竜機兵である二機の死闘を見届けなければならないという責任感が彼にはある。

 共に竜機兵計画に携わってきたシェリンドンはそのように考えていた。


「そうですね。日の目を見る事がないと考えていた<サイフィード>と<ベルゼルファー>が、あのような戦いをしている。開発に携わった私たち技術屋からすればこの上無い喜びであると同時に、あの兄弟機が争うのはとても悲しく思います。――ですが、あの二機は既に私たちから巣立ち自ら選んだ主と共に自らの意志で戦っているんです。私たちに出来るのはこうして戦いを見守る事しか出来ません。後はハルト君に託しましょう」


「……そうじゃな。その通りじゃ……頼んだぞハルト……」


 空を縦横無尽に飛翔し圧倒的な火力をぶつけ合う<カイゼルサイフィードゼファー>と<ベルゼルファーノクト>。

 その激しい戦いの中で、各々の主の信念の声が周囲に木霊するのであった。

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