第227話 海の底から
ポイント
竜機兵<アクアヴェイル>と妖精姫<ティターニア>である。二機の攻撃目標は海上で待機している『ドルゼーバ帝国』の飛空艇編隊だ。
装機兵による戦いは各地の小島で行われており、そこを境目として両国の飛空艇は空中で睨み合いをしていた。
戦闘が始まる前に海に潜った二機は、戦いが膠着状態になっている間に海中から敵飛空艇編隊の真下に移動し奇襲を仕掛けるという重要任務を受けていた。
水の加護を持つ<アクアヴェイル>は海中を順調に進んで行き、<ティターニア>は手を引かれて泳いでいる状況だ。
エーテルハイロゥを使用すれば強力なエーテル反応から敵に察知されてしまうため、出力を最小に絞って稼働している。
<アクアヴェイル>も本来であればもっと速度が出るのだが、同じ理由で出力を限界まで抑えて敵のレーダーに引っかからないように注意し潜行している。
水中を優雅に泳いでいく二機はさながら巨大な人魚のようだ。
各々の操者であるクリスティーナとティリアリアは接触回線で奇襲決行時の最後の打ち合わせをしていた。
「<アクアヴェイル>は水中からリヴァイアサンを広域発射、その後海上に出てから<ティターニア>はシャイニングレイで追い打ちをかける。そこから術式兵装を連発するという流れですわ。それで帝国の飛空艇編隊にかなりの損害を出せるはず」
「それに飛空艇内で待機している装機兵を戦わずして海に沈めることが出来る。上手くいけば敵の残存戦力をごっそり削り落とせるってわけね。……私たちの攻撃が成功するかどうかでこの戦いの優劣が決まるのよね……」
今回の戦いが装機兵操者として初陣であるティリアリアの顔に緊張が見えるとクリスティーナは微笑んで「大丈夫よ」と言って緊張をほぐす。
「あくまでわたくし達の攻撃は戦闘を短時間で終わらせ、味方の被害を最小限に抑えるという狙いがありますわ。最悪上手くいかなくても全機揃った竜機兵チームの力で後詰をすればいいんですし気負う事はありませんわ」
「分かったわ――よしっ、気負いすぎず気合いを入れてぶっ飛ばせばいいのよね」
もう少しで敵飛空艇への攻撃ポイントに到着するところでティリアリアがクスッと笑う。不思議に思ったクリスティーナがその理由を訊ねる。
「急に笑ったりしてどうしたのですか?」
「ちょっと今までの事を思い出していたの。これまで繰り返されて来た世界じゃ、私は何度も皆と敵対して凄惨な最期を迎えてた。それが今じゃ、こうしてクリスや皆と一緒に仲間として戦うことが出来てる。――それが物凄く嬉しいの」
「それは――わたくしも同じ気持ちです。ティリアリアとわたくしが力を合わせればどんな敵でもイチコロですわ」
想いを一つにしたティリアリアとクリスティーナは攻撃ポイントに到着した。彼女たちの頭上には何十隻もの敵飛空艇がいる。
二人はモニター越しに頷き合うと機体を急浮上させ始め、それに応じて機体の出力を最大まで引き上げた。
「参りましょう、<アクアヴェイル>――ドラグーンモード起動!」
「<ティターニア>……これが私たちの初陣ね。派手に暴れるわよ!!」
<アクアヴェイル>はドラグーンモードを発動させ、豪奢なドレスを模した増加装甲をその身に纏い出力が大幅にアップする。
また、ドラゴニックウェポンであるエーテルフラガラッハ三基をストレージから召喚し自機の前方に配置した。
<ティターニア>はエーテルハイロゥを頭上に展開し、<アクアヴェイル>に負けないスピードで浮上する。
海中から出た直後に術式兵装を放つため莫大なエーテルエネルギーが天使の輪に集中する。
海中を浮上していくと海面から陽光が入り周囲が段々と明るくなっていった。
二機は一旦ここで止まり<アクアヴェイル>が攻撃準備に入った。周囲に無尽蔵に広がる水のエーテルを機体に取り込み、本来の性能以上のエネルギーが集中する。
機体前面に展開した三基のエーテルフラガラッハが高速回転し巨大な魔法陣を作り上げる。
「エーテルフラガラッハ……シャーマニックフォーメーション! エーテル集中……最大出力でいきますわ! リヴァイアサンッ!!」
<アクアヴェイル>の掌に展開された魔法陣から高密度の水の砲撃が発射される。
リヴァイアサンはエーテルフラガラッハが作りだした大型魔法陣を通過すると無数の水の砲撃へ変化し海面を突き破って空中にいる飛空艇の群れを襲撃した。
安全域にいた帝国の飛空艇はエネルギーの消耗を抑えるためエーテル障壁を展開しておらず、リヴァイアサンの拡散砲撃を無防備な状態で受け甚大な被害が出る。
それに続けと海面から姿を現した<ティターニア>はエーテルハイロゥに大規模な魔法陣を出現させた。
コックピットモニターではいくつもの飛空艇が照準ロックされる。ティリアリアは球体の操縦桿を通して術式兵装発射のイメージを送った。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! シャイニングレイッッッ!!」
魔法陣からレーザーのような光のエネルギー弾がいくつも発射され、放物線を描きながら飛空艇を何隻も貫いていく。
<アクアヴェイル>と<ティターニア>――二機の広範囲攻撃によって後方に待機していた何隻もの飛空艇が炎上し落ちていく。
さらに落下する飛空艇に他の飛空艇が巻き込まれるなど、芋づる式に被害が拡大していった。
「やりましたわ! 作戦は成功ですわ、ティリアリア」
「ええ、やったわ。クリス、もう一回最大出力で追撃しましょう!」
再び二機は初手と同じ強力な術式兵装を発射し帝国の大部隊は混乱に陥っていた。
その中でドラゴンキラー部隊の母船である<ナグルファル>だけは、早々に飛空艇の密集空域から抜け出し反撃に出ようとしていた。
<ナグルファル>船長のゼクスは生き残った飛空艇にすぐに装機兵を出撃させるように命令する。
今回の戦闘の旗艦は一撃目の奇襲攻撃の際に小破し既に逃げ支度に入っていた。この後の指揮は<ナグルファル>に任せ母国へと撤退してしまった。
「船長、味方の被害が大きすぎます。ここは我々も撤退をすべきでは?」
副長のアリアナがゼクスに撤退を進言するが、彼は鋭い眼光で『アルヴィス王国』の飛空艇や攻撃を仕掛けてきた二機の装機兵を見ながら返答した。
「撤退はできん。少なくとも何の成果も無く撤退したとなれば、今回の戦闘の全責任は後任旗艦に任命された我々が負う事になるだろうからな。――それが狙いで連中はすぐに逃げだしたのだろうさ」
「そんな……」
「このままやられる<ナグルファル>ではない。下にいる装機兵に火力を集中しろ。好き勝手に暴れてくれた礼をしてやれ!」
<ナグルファル>の船体下部に装備されているエレメンタルキャノンが一斉に発射され始め、真下に広がる海原では着弾による水柱がとめどなく発生する。
ゼクスの命令を受けて態勢を立て直した各飛空艇から砲撃が始まり、装機兵も順次発進していく。
「これ以上ここに留まるのは危険みたいね」
「そうですわね。撤退しましょう」
飛空艇から放たれる砲撃の雨をかいくぐりながらティリアリアとクリスティーナは撤退を開始した。
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