第225話 冥竜機兵ベルゼルファーノクト
術式兵装バハムートとウロボロスの衝突によって受けたダメージが徐々に修復されていく。
より高い自己修復機能を持つ<ベルゼルファー>が一足早く完全修復を終えて俺に斬りかかって来る。
再び剣戟が繰り広げられる中、アインはこれまでよりも素早くかつ重い斬撃を打ち込んできた。
『これだ……俺が望んでいたのはこの戦いなんだ! この命を削り合うような気迫のぶつかり合い。剣と術式兵装の応酬――並大抵の相手ではここまでの戦いには耐えられないはず。ハルト、お前とならどこまでもこの闘争を楽しめる!』
「満足してもらえたみたいで良かったよ。でも、俺はこんな戦いをいつまでもやるつもりはない。お前をぶっ倒して、その先にいる本当に倒すべき敵を討たないといけないんだよ!」
エーテルアロンダイトを弾いて隙を作ろうとするがアインは咄嗟に剣を構え直してしまう。
テンションが高くなるにつれて戦い方が研ぎ澄まされてきたようだ。
こいつは非常に厄介なことになってきたぞ。アインはまだ感情を無意識にセーブしている。こいつが感情を爆発させたらどれだけの力を発揮するのか見当もつかない。
『本当の敵とは『クロスオーバー』のことか? 確かに連中は底知れない力を持っているが、進化した<ベルゼルファー>なら
「くっ!」
敵の斬撃をエーテルカリバーンで受け止めるが、そのままパワーで押し切られて後ろの岸壁に押し込まれる。
さっきまでこっちの方がパワーが上回っていたはずなのにいつの間にか逆転されている。
戦いの中で<ベルゼルファー>の性能がどんどん上がっているような気がしたが気のせいじゃなかった。
俺の中で嫌な予感と焦りが強くなっていく中、敵の大剣に強力なエーテルエネルギーが集中していく。
「術式兵装が来る! それならこっちも」
エーテルカリバーンにエーテルエネルギーを集中し、刀身を黄金の光が鞘のように包み込む。
俺の十八番の必殺技を食らわせてやる。
「術式解凍! コールブランドォォォォォォ!!」
『お前が光の斬撃なら俺は闇の斬撃だ。ギルティィィィィブレイクッッッ!!』
光と闇の斬撃が衝突し、発生した干渉波によって周囲の岩場が破壊されていく。
何てパワーだ。このまま少しでも力を抜けばエーテルカリバーンが折られるかもしれない。一瞬の気の緩みが命取りになりかねない。
「ぐっ……くぅ、こんのおおおおおおおお!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
二回目の術式兵装の打ち合いも互角で終わり光と闇の刃は消失した。
その時発生した爆発の余波で<サイフィードゼファー>と<ベルゼルファー>は付近の岸壁に叩き付けられた。
「くそっ、コールブランドまで相殺された。……予想以上にやる! それにまだパワーが上がっているみたいだ。今のうちに<カイザードラグーン>の発進要請をしておくか」
<ニーズヘッグ>に<カイザードラグーン>の発進要請を済ませて機体を立ち上がらせる。
<ベルゼルファー>もゆっくりと立ち上がり剣を構えた。
相変わらずやる気満々のようだ。ここまでやり合って剣技も術式兵装の威力もほぼ互角。
こっちは<カイザードラグーン>と合体すれば機体性能が上がるという余裕がある。
けれど俺も<サイフィードゼファー>もヤツに対して油断をするなと危険信号が最大になっている。
『分からないか、ハルト? 俺もお前もこうして戦っている時が最も充実している。永遠に続く闘争の中でこそ俺たちのような戦士は己の存在意義を実感できるんだ。『ドルゼーバ帝国』にしろ『クロスオーバー』にしろ、どちらも戦いに満ちた世界を作ろうとしている。俺たちにとって最高の世界だと思わないか?』
「――バカかお前。一生戦い続ける世界なんて俺はごめんだね。確かに戦いは好きさ、一応俺も男の子なんでね。でも、それはあくまで他人に迷惑がかからないっていう条件での話だ。お前の言うそれは実現すれば多くの人が死ぬ地獄だろうが。俺は……そんな地獄に生きるのも、この世界をそんな地獄にするのもどっちも嫌なんだよ。だから俺は、いや俺たちは戦いを終わらせるために戦っているんだ!!」
俺とアインはこの戦いの中で充実した感覚を共有しているのかもしれない。それでも俺たちが目指す場所は決定的に違っている。
生きるために戦う俺と戦うために生きるアイン。目的と手段が逆になった者同士、コインの表と裏、白と黒。
俺たちは似ているようで真逆の存在なのだろう。それが今はっきりと分かった。こいつをどうにかしない限り、俺たちが目指す平穏は訪れない。
『そうか、残念だよ。俺はお前と戦っている時が一番楽しいと、生きていると実感できたんだがな。どうやら俺とお前は相容れない存在らしい。――ならば、俺が目指す闘争の世界の実現。お前にはそのための最初の生贄になってもらう』
「ったく、一々言い回しが厨二なんだよ! 俺だってそんなセリフ思いつかないぞ。まあ、いいや。やれるもんならやって見ろよ。お前の目指すそんなヘンテコ世界なんぞ実現前に俺がぶっ潰してやる」
『いい答えだ。ならば殺し合おう、俺たちの闘争心が赴くままにな! ――<ベルゼルファー>!!』
その時<ベルゼルファー>に異変が起きた。漆黒の装甲のあちこちがまるで筋肉が膨れ上がるように肥大化し、十五メートル級の体躯が一回りも二回りも巨大化していったのだ。
それに機械の黒騎士という言葉がぴったりだったヤツの姿は、所々が生物のようなパーツで構成されている禍々しい悪魔のような外見へと変貌した。
背部からはコウモリのような大型の翼が生え、頭部のデュアルアイは真っ赤に光っている。更に頭上では熾天機兵のシンボルとも言えるエーテルハイロゥが展開されていた。
「な……こいつは……そうか、これが進化した<ベルゼルファー>の本当の姿なのか。俺と<サイフィード>が感じていた禍々しいプレッシャーの正体はこれだったんだ!」
『その通りだ。これこそが竜機兵と熾天機兵の長所を併せ持った機体――
全高二十メートル以上の機体へと巨大化し、まるで天使と悪魔が合体したような姿を見せる<ベルゼルファーノクト>を前に鳥肌が立つ。
<サイフィード>の兄弟竜は竜機兵とは違う怪物へと進化していたのだった。
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