第224話 サイフィードゼファーVSベルゼルファー

 

 ポイントAアルファに下り立った俺とアインは互いの機体にエーテルブレードを装備して剣戟を繰り返していた。

 術式兵装の類は一切使わず数分間、剣だけを振って何度も鍔迫り合いをしている。

 刀身がぶつかる度に発生する火花が装甲に飛び散って微かな焦げ跡を残す。フェイントを加えるとかそういった小細工は一切なしのガチンコ勝負。

 子供の頃にやっていたチャンバラごっこのように互いの剣をひたすらにぶつけ合う。

 しかし、俺たちがやっているのは人型ロボットに乗って真剣で斬り合うというものだ。俺が前世で子供の頃にやっていたのとはスケールが違う。

 今の俺の心はあの頃と同じように高鳴っていた。そして俺と斬り結ぶアインもまた俺と同じように心底この状況を楽しんでいるようだ。

 

『さらに腕を上げたな、ハルトォォォォォォォ!!』


「そう言うお前もな、アインッ!!」


 幾度目かの鍔迫り合いを経て一度大きくバックステップして距離を取る。アインも今までとは異なる俺の動きを警戒してか追撃はせずその場で止まっている。

 いや……違うな。たぶんあいつも俺と同じ考えなのだろう。

 

「ウォーミングアップは終わりでいいよな。そろそろ本気でいかないか?」


『奇遇だな、俺も同じことを考えていた。機体も十分温まったことだしいい頃合いだろう』


 俺もアインもエーテルブレードをストレージに戻すと、より強力な武器の召喚を始める。

 両肩のアークエナジスタルが発光し、出現した二つのエーテルエネルギーの塊をぶつけ合うと内包されている術式が結び合って武器を形作る。

 <サイフィードゼファー>の手には黄金の輝きを放つ剣が出現し、<ベルゼルファー>の手には漆黒の大剣が現れた。


「エーテルカリバーン、マテリアライズ完了……以前戦った時はその剣に歯が立たなかったけど、今回はそうはいかない!」


『黄金の剣か……以前、『第一ドグマ』で見たな。俺のエーテルアロンダイトとどちらが上か比べてみようじゃないか!』


 そう言うや否や、俺たちは再び真正面から突撃し、装備したばかりの剣を全力でぶつけ合う。

 エーテルブレードよりも遥かに強力なエーテルと術式により構築された二本の剣は衝突しただけで凄まじい干渉波と火花を周囲に放つ。

 エーテルカリバーンはエーテルアロンダイトにパワー負けしていない。

 以前あの剣に蹂躙された時とは違って、こっちは機体も武器も遥かにパワーアップしているんだ。


「うおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああ!!」


 こっちの剣よりも一回り以上大きいエーテルアロンダイトを切り払い、体当たりをかまして<ベルゼルファー>を吹っ飛ばす。


『うおっ!?』


 これまでは剣をぶつけ合っていただけだが、ここからは機体の性能をフルに活かした総力戦だ。

 体勢をすぐさま立て直したアインが大剣を振って反撃してくる。それに対して俺は刀身で受け流し、カウンターとして横一文字斬りを食らわせた。

 <ベルゼルファー>の装甲に刃傷が付くが瞬く間に修復されていくのが見える。やはりセルスレイブによる再生能力はかなりのものだ。


『ちぃっ、カウンターとは味な真似を!』


 転生者のジンと戦った時の経験が役に立った。あいつが使用していた斬竜刀ハバキリに比べればエーテルアロンダイトのパワーは圧倒的なレベルじゃない。

 

「武器は大型化すれば取り回しが難しくなる。そこを突けばやれるはずだ!」


 今までの力任せの剣戟から機体の運動性能を活かしたスピード戦に突入する。

 エーテルマントと脚部エーテルスラスターの出力を上げて高速で動き回りながら攻撃と回避を繰り返していく。

 <ベルゼルファー>の大剣が<サイフィードゼファー>の肩や脚をかすめる中、カウンターでヤツの身体に斬撃を浴びせる。

 「肉を切らせて骨を断つ」と言いたいところだが、敵の肉はやたらと硬い上にすぐに再生していく。


 ダメージを与えているという実感が得られないため自分が不利だと思いがちだが、自己修復には機体のエーテルエネルギーを使用しているはず。無限に回復を続けることは出来ないだろう。

 このままアインのマナ切れを狙うのも戦略の一つなのかもしれないが、それは本意じゃない。

 あいつはずっと前から俺をライバルとして認め、こうして戦いを挑んで来た。

 一人の装機兵操者として真っ正面から受けて立たなければ、俺は一生自分を許せない。

 ――だからっ!


「アインッ! お前を徹底的にぶっ潰してやる。術式解凍――!!」


 上空から下降してくる<ベルゼルファー>に向かって地面を思い切り蹴りジャンプし、エーテルスラスターを噴射しながら飛翔する。

 俺は<サイフィードゼファー>の左腕にエーテルを集中し掌に高密度のエネルギーの塊が発生する。

 前方にいる黒い機体の右手に黒色のエネルギーが集中しているのが見えた。向こうも術式兵装を使う気だ。


『それは俺のセリフだ。今日こそお前を倒してみせるっ! これを受けろっ、ウロボロスッッッ!!』


「やらせるかよっ! いっけぇぇぇぇぇ、バハムートォォォォォォォォ!!」


 <サイフィードゼファー>の光り輝く左手と<ベルゼルファー>の漆黒の右手。その掌に展開されたエネルギーの塊がぶつかり反発し合う。

 吹き飛ばされまいと俺もアインもスラスターを全開にして空中に留まる。反発し合うエネルギーの余波が二機の装甲表面にダメージを与えていった。

 臨界に達したエネルギーの塊が爆発し、俺たちは吹き飛ばされて眼下に広がる小島へと落下していった。

 

「なんのっ!」


 空中で機体の体勢を立て直して地面に無事着陸する。離れた場所ではこちらと同様に軟着陸する<ベルゼルファー>の姿が見えた。

 兄弟竜の戦いはまだ前哨戦を終えたばかり。ここからが本番だ。

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