第221話 ヴァンフレアVSシグルズ②

「馬鹿な、確かに手応えがあったはず。それなのにどうして?」


 フレイアが発した疑問に答えるようにフィーアが種明かしをする。<シグルズ>の装甲を覆うように水の膜が展開されていった。


「確かにさっきの膝蹴りは中々の威力だったわ。でも、<シグルズ>のブラッディスケイルの前ではそれも無意味なのよね」


「ブラッディスケイル……それがその機体の術式兵装か?」


「ええ、そうよ。機体表面に展開した水の障壁であらゆる攻撃の威力を半減し、装甲のダメージをも修復するのよ。素敵でしょ」


 それは事実上の無敵宣言だった。

 水のバリアによる防御力の向上とダメージ修復能力に加えて、滅竜機兵全機に備わっているセルスレイブによる自己修復機能があるのだ。


「……つまり、<シグルズ>を破壊するには自己修復が追いつかない速度、もしくは一撃で倒すしかないということか」

 

「その通りよ。けれどそんなことは不可能でしょ!」


 <シグルズ>は相変わらず水の鞭で<ヴァンフレア>の接近を阻止しつつじわじわとダメージを与えていく。

 フレイアはこれまでのフィーアとの戦いを思い返し、勝負に打って出ようとしていた。


(敵の性能は防御能力に偏っている。エーテルグラムの攻撃力は大して高くはない、ドラグーンモードの<ヴァンフレア>なら直撃にも耐えられる。次の攻撃に全てを賭ける!)


 意を決したフレイアは機体の出力を限界まで引き上げる。

 <ヴァンフレア>を包むように炎のオーラが立ち上り、膨大なエーテルがプレッシャーとなってフィーアにのしかかる。


「――っ! どうやら勝負を諦めていないようね。いいわ、あなたの攻めを全て凌ぎきってあげる。そうすればその強気な態度もぽきっと折れるでしょう!」


「折らせはしないさ。そっちこそ覚悟しておくんだな、私を本気にさせて無事に帰れるとは思うなよ」

 

 フレイアは不敵な笑みを浮かべると機体を真正面から突撃させた。


「正面から来るなんて正気なの? エーテルグラムの餌食になりなさい!」


 水の鞭が<ヴァンフレア>の全身を殴打し斬り刻んでいくが、装甲にダメージを与えるものの内部フレームを破損させる威力は持ち合わせてはいなかった。

 フレイアはコックピット部のみに防御を限定し最短ルートで敵の懐へ入り込む。


「まずはこれからだっ! 炎の十字斬りを受けろ、フレイムクロス!!」


 エーテルカンショウとエーテルバクヤの刀身を交差させた炎の十字斬りを真正面から<シグルズ>に叩き込む。

 水のバリアを蒸発させながら装甲に十字傷をつけると、フレイアは二刀のドラゴニックウェポンの柄頭を連結させて薙刀形態にする。

 右手で薙刀を回転させ、そのまま炎の風車斬りで<シグルズ>に斬り込んでいった。その間に左腕にエーテルを集中し次の攻撃準備が同時進行で進められていく。

 その様子を零距離で目の当たりにしていたフィーアは敵の気迫と連続で繰り出される攻撃の威力に恐怖を覚えていた。


「な……なんなのこの気迫とエーテルエネルギーは? 以前のデータとは段違いのパワーだわ」


 フィーアが敵の攻撃を止めようとエーテルグラムを持つ右腕を動かそうとした時、<ヴァンフレア>の燃え盛る左腕が繰り出された。


「反撃などさせはしない! これを受けろ、エクスプロードスマッシュ!!」


 <ヴァンフレア>の炎の手刀は<シグルズ>の右肘を貫き爆発を起こす。右腕と一緒にエーテルグラムが吹き飛び<シグルズ>は武器を失ってしまった。

 超耐久性のサンドバックと化した白銀の機体の目の前で深紅の機体は武器を再び二刀流へと戻し、刀身から今までと桁違いの炎を放出する。


「この熱量は……まずいっ!!」


「フィーア、お前の言う通り火は水の前では一瞬で消えてしまう。――だが、業火の前ではいくら水をかけようとも容易く消すことは不可能だ。それを今から実証する! 煉獄の炎に抱かれて消えろ、ケツァル……コアトルッッッ!!」


 フレイアは二刀のドラゴニックウェポンを合わせて生み出した巨大な炎の刃をフィーアに向けて解き放った。

 炎の斬撃は<シグルズ>のブラッディスケイルを蒸発無力化し、その身体を溶断していった。


「きゃあああああああああああ!!」


 フィーアは絶叫し機体は炎上しながら地面に膝をつく。

 エクスプロードスマッシュによって吹き飛ばされた右腕に続き、左腕は肩を切り落とされ戦闘継続は不可能であることは一目瞭然だ。

 完全に破壊された両腕以外は自己修復を始めるがこの状態では攻撃が不可能、二人の女性戦士の間に決着がついた。


「私の負けのようね。機体属性の相性を覆してたった数回の攻撃で落とされるなんて……完敗だわ。煮るなり焼くなり好きにしなさい」


「そうだな。それならお前には投降して――」


 その時、『ドルゼーバ帝国』の飛空艇編隊を海から出現した水柱が強襲した。それを目の当たりにしたフィーアは今までとは様子が異なる焦りを見せるのであった。


「飛空艇が攻撃を受けている。このままじゃ、<ナグルファル>……マスターが! フレイア、悪いけど私は下がらせてもらうわ」


 体力、精神力共に限界に達していたはずのフィーアは、そんな事は忘れたかのように<シグルズ>を立ち上がらせて母船のもとへ向かって行った。

 そんな彼女の素早い動きに呆気を取られて見逃してしまったフレイアであったが、敵が向かった先にはティリアリアとクリスティーナがいることに気が付く。

 奇襲を終えて撤退する二人を援護するために、フレイアは<ヴァンフレア>を二人の撤退ルートへと向かわせるのであった。

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