第222話 ドラパンツァーVSベオウルフ①
ポイント
竜機兵チームにおける後方支援機の<ドラパンツァー>とドラゴンキラー部隊の<ベオウルフ>だ。
<ベオウルフ>の操者ヒュンフは自分の相手が竜機兵ではないことに不満を感じていた。
作戦開始前はハルトを狙っていたが、そこはアインに譲る形になった。
それならば他の竜機兵を始末しようと思っていたのだが、ポイントAにおいて唯一竜機兵ではない機体と戦うことになってしまったのだ。
さっさと敵機を瞬殺して他の竜機兵のところに向かおうと考えていたが、現実はそう思い通りにはいかない。
雑魚だと侮っていた戦車の下半身を持つ装機兵<ドラパンツァー>は、重火器を駆使して<ベオウルフ>の接近を阻んでいた。
攻撃を回避しエーテルスラスターの出力を上げて接近戦を試みるも、<ドラパンツァー>の弾幕は正確に<ベオウルフ>を狙ってきていた。
エーテルダブルガトリング砲による砲撃は少しずつ<ベオウルフ>の動きを先読みするようになり何度も機体をかすめている。
それによりバランスを崩した隙にレールガンやエレメンタルキャノンが発射され追撃を狙ってくる有様だ。
装機兵同士の戦いは基本的には接近戦が主流で遠距離から一方的に攻撃されるケースはほとんどない。
数ある装機兵の中でもここまで遠距離戦に特化した機体は稀であり、思うように攻撃が出来ないヒュンフは苛立ちを募らせていた。
「――くそっ、全然接近できないじゃないか。そんな遠くから攻撃をしていて恥ずかしくないのかい!?」
「恥ずかしい? バカ言うな、装機兵同士の戦いで遠距離から一方的に攻撃しては駄目ですなんてルールはないだろうが。悔しかったらこの砲撃をかいくぐって来るんだな!!」
ヒュンフの挑発には乗らずに<ドラパンツァー>の操者であるフレイは自らの戦闘スタイルを崩さず、徹底的な遠距離戦で敵を翻弄している。
「よしっ、段々ヤツの動きのクセが分かってきた。上手く足を止められれば火力を集中して大ダメージを与えることが可能なはずだ」
エーテルダブルガトリング砲が敵の肩に当たりバランスを崩させる。そこにレールガンを発射するが、ぎりぎりのところで回避されてしまう。
さらに肩に付いた銃痕が瞬く間に修復されていくのが見える。フレイは軽く舌打ちをしながらも頭の中を冷静に保つように心がけ正確な射撃を継続する。
「あの修復速度はセルスレイブの効果に間違いない。『クロスオーバー』の連中は結構な技術提供を帝国にしているみたいだな。――それにしても、あのヒュンフとかいう操者の声と喋り方があいつに似ている気がするんだが……確かめてみるか!」
<ベオウルフ>の左腕はエーテルネイリングという大型の五本爪を有した兵器モジュールとなっており、爪が燃え上がると五つの炎の刃を形成しフレイに向けて放って来る。
「これで燃えちゃいなよ!!」
フレイはキャタピラの稼働を最大にして全速で回避を試みるが、この島は地表がでこぼこしていて思うような加速が得られない。
早々に回避は不可能だと判断し、地面に砲撃を集中して地中から抉り出した岩盤を盾にして炎の爪を相殺した。
「くそっ、やっぱりこの悪路じゃタンクフォームは駄目だ。それならスタンディングフォームで!!」
<ベオウルフ>の攻撃の影響で周囲が炎に包まれる中、<ドラパンツァー>は炎の中を勢いよく走行していく。
下半身であるタンク部分が左右に分かれると人の脚のような形状になり、<ドラパンツァー>は大地に立った。
ヒュンフは敵がいきなり人型になった状況に面食らうものの、左腕の爪による攻撃の手は緩めない。
互いの攻撃が空中で衝突し、それにより炎が飛び散って小島の海岸部に火の手が回っていく。
「よく動き回るじゃないか。正直君を舐め過ぎていたようだね。――けど、その程度の攻撃力じゃ<ベオウルフ>には勝てっこないよ」
ヒュンフには余裕があった。そんな他人を無暗に嘲笑する振る舞いを見てフレイは敵の正体が例の人物だと確信した。
「ヒュンフ……お前はアグニ・スルードだな。その人を馬鹿にしたような態度と甲高い笑い声、聞き間違えるはずがない」
フレイが敵の正体の名を告げるとヒュンフはしばらく黙り、攻撃の手を一旦止める。
奇妙な沈黙が数秒間あった後、不気味な笑い声が<ベオウルフ>から聞こえてきた。
「――ふふふふ……あははははははは……アグニ・スルード、か。その名前で呼ばれるのは実に久しぶりだね。そう、君の言う通り以前の僕はその名前を名乗っていた。あの時の戦いで部下を全て失い、今では強化兵の一人としてこんなザマさ」
以前『アルヴィス王国』と『ドルゼーバ帝国』間の戦いにおいて、王都と『第一ドグマ』を帝国の部隊が急襲した。
その際、『第一ドグマ』の地上施設ではアグニ・スルード率いるスルード隊が竜機兵チームと激戦を繰り広げ多大な被害をもたらした。
最終的には『第一ドグマ』に帰還した<サイフィード>が戦闘に加わりスルード隊は壊滅、アグニ自身も搭乗機である<シュラ>をドラグーンモードを発動した<サイフィード>によってフルボッコにされたという苦々しい経歴を持っていた。
ヒュンフ自身から自らの正体がアグニだと知らされたフレイは「やはりそうか」と呟くと、より一層戦意を高めていく。
「嬉しいぜ、こうしてお前と戦場で会えたことがな。――おかげであの時の借りを返せる!」
「……その言い方だと君は僕と戦ったことがあるみたいだね。僕と戦場で遭遇して生き残っているなんて運がいいじゃないか」
悪戯っぽく笑うヒュンフに対しフレイは険しい表情を見せる。球体状の操縦桿を握る手に力が入る。
お互いに遠距離攻撃を仕掛けながら会話を続けていく。
「そうだな、確かに運が良かったよ。あの時ハルトが来てくれなかったら、俺も妹もお前の手で蒸し焼きにされていただろうからな」
その話を聞いたヒュンフが突然声を上げながら笑い出す。
相対する<ドラパンツァー>のコックピットにその甲高い笑声が響き、フレイはモニターに映る敵操者を睨み付けていた。
「くふっ、ふふふふふははははははは!! そうか、君はあの時の兄妹の兄の方か。あんな目に遭ったっていうのにまだ装機兵に乗って戦場にいるなんて大したもんじゃないか。普通なら恐怖に駆られて二度と戦えなくなっているところだよ。――でもまあ、ここで再開したのも何かの縁だ。今度こそ僕の手できっちり始末してあげるよ!!」
<ベオウルフ>のエーテルネイリングから放たれた炎の爪――フレイムネイルは<ドラパンツァー>のすぐそばを通り過ぎ海岸の崖に当たって勢いよく炎上した。
その炎を背にして<ドラパンツァー>の両腕のエーテルダブルガトリング砲が絶えず敵を狙っていく。
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