第220話 ヴァンフレアVSシグルズ①

 ポイントAアルファにおいて竜機兵チームとドラゴンキラー部隊の会敵後、竜機兵<ヴァンフレア>は滅竜機兵<シグルズ>と交戦していた。

 炎属性の<ヴァンフレア>に対し<シグルズ>は水属性の機体であり、属性の相性上<ヴァンフレア>は苦戦を強いられていた。


「こちらの攻撃が半減されている。<ヴァンフレア>にとって相性が最悪の相手だな」


「ふふふふ……さっきからあまり攻撃をしてこないようだけど、もう諦めたのかしら? その機体は竜機兵の中でもトップクラスの攻撃力を持っていると聞いたから楽しみにしていたのだけれど」


 <シグルズ>の操者フィーアは戦闘開始後から優勢を維持しており余裕の笑みを浮かべる。

 一方、フレイアは自慢の火力が殺されている現状に苛立ちを覚えていた。

 炎のエーテルを纏わせた二刀のエーテルソードで斬り込むものの、敵が所有する水の刃の剣――エーテルグラムによって炎は打ち消されてしまう。

 エーテルグラムの刀身は高密度に圧縮された水のエーテルで形成されていて、距離に応じて刃にもなれば鞭にもなり隙の無い攻撃を仕掛けてくる。

 フィーアの鞭捌きはかなりものでフレイアは変幻自在に襲ってくる水の鞭を凌ぎきれずダメージが蓄積していた。

 

「逃げてばかりじゃ私を倒せないわよ!」


 複雑な軌道を描きながら向かってくる水の鞭を<ヴァンフレア>が紙一重で躱すと、周辺の岩場が鞭によって斬り落とされていく。

 その様子はまさにウォーターカッターで切断されたかのようであった。

 

「くそっ!」


 フレイアは苦し紛れにエレメンタルキャノンを連続で放つが、エーテルグラムの水の刃によって一瞬で薙ぎ払われてしまう。

 確実に追い詰められていく深紅の竜機兵を眺めてフィーアは笑みをこぼし唇を舌でぺろりと舐める。


「んふふ、必死に抵抗しちゃってか~わいい。確かフレイア……だったわよね。あなた、私のペットにならない?」


「何だと?」


 敵からの突然の提案にフレイアは意味が分からないといった表情を見せる。

 モニターの向こうにいるフィーアは目線をバイザー型の仮面で隠しているものの、上がった口角や楽しそうな声色から非常に上機嫌であることが窺える。

 <シグルズ>は<ヴァンフレア>に急接近し斬り込んで来る。フレイアは応戦し、剣戟を繰り広げながら二人は会話を重ねていった。


「私ね、あなたのような気が強い女性ってかなり好みなのよ。私のペットになって服従を誓えば楽しい生活が待っているわよ」


「断る。それに私には既に服従を誓った相手がいるからな」


「あらそう、それは残念って……ん?」


 凛々しい女性騎士であるフレイアの口から発せられた「服従を誓った」というワードを聞いてフィーアは数秒ほど状況整理に思考を奪われる。

 状況整理が終わると彼女はクスクス笑いながら攻撃を強めていった。


「ふふふふ、意外だったわ。あなたは私の想像以上に面白い性格をしているようね。ますますあなたが欲しくなったわ。ちなみにあなたが服従を誓った相手というのは誰なのかしら? 物凄く興味があるのだけれど」


 フレイアは自信たっぷりの顔を見せながらその人物の名を言うのだった。


「ハルト・シュガーバインだ」


「それって確かアインがご執心の男じゃない。あの戦闘オタクの話を聞いている限りじゃ、あいつと同類の戦闘バカだとばかり思っていたのだけど……ね!」


 フィーアは刀身のエーテルエネルギーを増大し大剣クラスまで巨大化させると上段から勢いよく振り下ろし、フレイアはエーテルソードを交差させて受け止めた。

 二機の装機兵が力比べを開始し膠着状態に入る。


「確かにハルトは戦闘バカだ。それでいてスケベでドSでもある」


「そんなヤツのどこがいいの? あなた、男の趣味が悪すぎるんじゃないの?」


 呆れ口調で言い捨てるフィーアに対しフレイアの目は真剣で、大切な何かを思い出しているかのように穏やかな顔をしている。


「あいつの良さは実際に関わってみなければ分からないさ。――私はずっと見てきた。どんなに絶望な時でも逃げ出さず戦い抜いてきたあいつの背中を。だからあいつの背中を守るのが私の役目なんだよ」


 その時<ヴァンフレア>の全身が突然燃えだした。

 赤い機体を覆う炎はエーテルグラムを受け止めている剣にまで伝播し、水の刀身がボコボコと音をたて始め大量の湯気が発生する。


「エーテルグラムの刃が沸騰している。何て熱量なの!?」


 フィーアが眼前で燃えている竜機兵の底力に恐怖を感じていると、機体を覆っていた炎が拡散し増加装甲を装着した<ヴァンフレア>が姿を現した。

 両手に携えていたエーテルソードは専用ドラゴニックウェポンであるエーテルカンショウとエーテルバクヤに代わっており、刀身から今までとは段違いの炎が出力される。

 

「ドラグーンモード発動、ドラゴニックウェポン装備完了。――ここから見せるのが<ヴァンフレア>の本当の力だ。そう簡単に竜を狩れるとは思うな!!」


「くっ、エーテルグラムが……嘘でしょ!?」


 二振りの炎の刃によって水の刃が蒸発した。フレイアはその隙を突いて機体の膝部ブレードにエーテルを集中する。


「この距離なら外さん!」


 <ヴァンフレア>のニースラッシュが<シグルズ>の胴体に直撃しそのまま後方に吹き飛ばす。

 <シグルズ>は装機兵としてはやや華奢な姿をしており装甲は薄く機動性重視の機体であった。

 そのため攻撃を当てたフレイアは敵に確実にダメージを与えたと確信し、この攻撃を起点として一気に攻勢に転じようとする。

 二刀の炎の剣で斬りかかろうと接近した時、体勢を立て直した<シグルズ>が水の鞭で反撃し追撃を阻止された。

 <シグルズ>の装甲には傷らしい傷は無く、それを目の当たりにしたフレイアは驚きを隠せなかった。

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