第219話 グランディーネVSカドモス②

「その前に一つ訊きたい事があるんだけどいいかな。ドライ、あんたはその<カドモス>って機体で何回ぐらい戦ったの?」


「質問の意図がよく分からないが……五回程度のはずだ」


 答えを聞いたパメラは納得したような顔になりドライの投降の有無に対しての返答をする。


「悪いけど私は投降なんてしないよ。そもそも投降する必要なんて無さそうだし」


「それは……どういう意味かな?」


「平静を装っているみたいだけど、本当はかなり苦しい状況なんじゃない? その機体に積まれているドラゴニックエーテル永久機関ってのはね、大出力の反面マナをかなり消耗するから操者にとっては結構きついのよ。その上、セルスレイブの自己修復でもかなりマナを使うみたいだしね。今まではどうだったか知らないけど、これだけ戦闘が長引いたりダメージを受けたのは初めてでしょ。予想以上にマナを消耗して長時間戦闘を続けるのは難しいんじゃないのかな。――つまり、このまま戦い続ければ先にそっちが自滅するから、その前に投降を勧めて来たってとこでしょ」


「……随分さといな君は。戦いの中でそこまでこちらの状況を分析していたとは恐れ入ったよ。確かに君の言う通りに、この機体はマナを大量に消耗する。これまでは特に損傷を受ける事もなく戦闘も短時間で終わっていたから、その点を軽視し過ぎていたようだ。だが、私とてドラゴンキラー部隊の一員。このまま負けるわけにはいかん。これで勝負をつける!!」


 <カドモス>は両腕を地面に突き刺すと、そのままエーテルエネルギーを地中に流し込み始める。

 すると地面から五つの石柱がせり出し間もなく爆発した。その中から出現したのは五体の装機兵だった。

 装機兵と言っても身体は骨格だけで構成されており剣と盾を装備している。人間に例えるなら武装したスケルトン兵というところだろう。

 装機兵サイズのスケルトン兵は僅かに光る目を一斉に<グランディーネ>に向ける。


「これはセルスレイブで造りだした装機兵<ドラゴントゥース>。見た目は脆弱そうに見えるが性能は中々のものだ。これらを全滅させられれば君の勝ち、そうでなければ私の勝ちだ」


「一人の乙女相手にこんなゾンビ集団をけしかけるなんて、紳士なふりしてとんだ鬼畜男じゃないのよ」


 軽口を叩きながらもパメラは気合いを入れて襲い掛かかってくる<ドラゴントゥース>を迎え撃つ。

 素早い動きで散開した五機は一斉に<グランディーネ>に飛びかかり食らいついた。

 ガキン、バキンと鈍い金属音が響き渡り大地の竜機兵は膝を折る。


「どうやら私の勝利――」


 その様子を見ていたドライが勝利を確信した瞬間、五機の<ドラゴントゥース>は吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。

 敵集団を吹き飛ばした<グランディーネ>は、ほぼ無傷の状態で今しがた自機から引き剥がしたスケルトン兵へと追撃を開始する。

 

「乙女のぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 パメラはファフニールを発動させて前方にいる二機の<ドラゴントゥース>に体当たりしバラバラに吹き飛ばした。


「柔肌はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 続けてストレージからチェーンハンマーを取り出すと鎖を持って鉄球部分を頭上で勢いよくぶん回す。

 その勢いのまま近づいて来た一機を粉砕し、遠くにいた機体にチェーンハンマーを投げつけて破壊した。

 そして残った一機に猛スピードで接近すると拳を腹部に打ち込み、そのまま持ち上げて腕部から衝撃波を放つ。


「超合金製よっっっ!!」


 パメラの謎の主張を乗せて放たれた一撃によって最後の<ドラゴントゥース>が爆散し、炎の中から現れた<グランディーネ>がゆっくりとした足取りで<カドモス>に近づいていく。

 それは王者の風格を思わせるものであった。

 ドライは悠然と歩み寄る勝利者の前に機体を跪かせ自らの敗北の意思を示す。既に彼はマナを消耗しきり戦闘続行は不可能な状態に陥っていた。

 息も絶え絶え意識を保つのがやっとであった彼は、やっとの思いで声を絞り出す。


「……さすが……だ。本物の竜の力……伊達……ではない……な。私の負けだ……止めを……」


「止め……ねぇ……うーん、断る」


 パメラは一秒程も考えずあっけらかんとした態度で彼の申し出を断った。彼女の意外な反応にドライは驚きを隠せないでいた。


「何故……だ。私は敗北した……のだぞ」


「負けたから殺されて当然とか、そういうのは私のポリシーに反するのよ。確かにこれは戦争、命のやり取り。その結果、死者が出るのは当然の摂理かもしれない。けどね、こうして互いに生き残って決着がついたのならそこで手打ちにしていいと私は思ってる」


「甘いな。ここで私を殺さねば……再び……戦場でまみえる事になる。その時……他の連中に……被害が出るかもしれんのだぞ」


 モニター越しにパメラとドライの視線が絡み合う。パメラは自身の甘さを指摘するドライに真摯に答えるのであった。


「ドライ……あんたの言いたいことは分かるよ。確かにここで私があんたを見逃せば、戦場に復帰したあんたが復讐しに来るかもしれない。それで私の仲間が傷つくかもしれない。そう考えれば、ここであんたに止めを刺すのが正解なのかもね。――でもね、私はそんな不確定な未来のために殺戮をするぐらいなら、人の中にある善意を信じて未来に託したいと思ってる。まあ、それはうちのリーダーの受け売りなんだけどね」


「……ハルト・シュガーバインか。なるほど……今なら……アインがあの男に……固執する気持ちが……わか……」


 言いかけてドライは意識を失った。機能を停止した敵機を見つめパメラは彼の戦いぶりを認めるのであった。


「あんたの敗因は自分の相棒のことを知らな過ぎたことだよ。もうちょい経験を積んで相棒を理解したら、またバトルしようね」


 その時、『ドルゼーバ帝国』の飛空艇編隊を無数の水柱と閃光が襲う様子がパメラの視界に入った。

 何隻もの飛空艇が炎上落下し始める中、海中から二機の装機兵が姿を見せる。


「奇襲は成功したみたいだね。――そんじゃ、一仕事終えたお姫様と聖女様を迎えに行きますか!」


 パメラは奇襲を終えて後退を開始した仲間を迎えに<グランディーネ>を発進させるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る