第216話 竜機兵チームVSドラゴンキラー部隊
◇
<サイフィードゼファー>と<ベルゼルファー>が剣を装備して鍔迫り合いをする中、周囲の戦場でも変化が起きていた。
今まで沈黙を守っていた<ナグルファル>から三機の装機兵が出撃し、ポイント
<ヴァンフレア>、<グランディーネ>、<ドラパンツァー>の三機はポイントAに侵入した帝国の装機兵部隊を返り討ちにしていた。
破壊された大量の装機兵が地面に横たわり炎上する中、立ち込める炎と煙の向こう側から上陸した三機――<カドモス>、<シグルズ>、<ベオウルフ>が姿を現す。
「見たことの無い機体だ、新型か?」
正体不明の三機の装機兵に気が付いたフレイアが『ドルゼーバ帝国』製装機兵のデータと照らし合わせるが照合する機体はいない。
その結果から新型と判断し、作戦前に話していた帝国の竜機兵開発計画の件を思い出す。
実際にその三機から感知されるエーテルエネルギーは量産機とは桁違いに高く、その波長パターンは竜機兵のあるものと同じだった。
「間違いない。このエーテルエネルギーとエーテル波長パターンはドラゴニックエーテル永久機関のものだ。やはり帝国は竜機兵を再現した機体を開発していたのか」
フレイアの頬から冷汗が流れ落ちる。
彼女の視線の先にいる三機の目が光り前進を始める。同時に機体から発せられる殺意が強まっていく。
「来る! パメラ、兄さん、こいつらは強敵だ。注意して――」
言い終わる前に敵機が動きフレイアたちに襲い掛かった。
<ヴァンフレア>には銀色の機体<シグルズ>が接近し、刀身が圧縮した水で形成された剣エーテルグラムで斬りかかる。
炎のエーテルを帯びた刃と水の刃が衝突し大量の水蒸気が発生していく。
<グランディーネ>には全高二十五メートルの怪物<カドモス>が大型の矛であるエーテルハルバードを振り下ろしてくる。
パメラはエーテルシールドで矛を受け止め、足が地面にめり込むのであった。
<ドラパンツァー>の前方には血のように赤い機体<ベオウルフ>が立ちはだかる。
その左前腕部は巨大な五本爪のモジュールとなっており、それ自体が強力な武器と化している。
その五本爪――エーテルネイリングを広げたり閉じたりしながら一定の距離まで近づくと<ベオウルフ>は加速して接近戦を挑んでくる。
フレイはエーテルダブルガトリング砲を連射し敵の接近を妨害しながら距離を取って遠距離戦を維持していた。
ポイントAにて互いのパーティが一対一の戦いにもつれ込む中、空中ではシオンが上空から現れた機体<ゲオルギス>と交戦していた。
<シルフィード>と<ゲオルギス>は背部の翼を羽ばたかせ、空中を縦横無尽に飛び回りながら何度も激突する。
<ゲオルギス>が装備する槍――エーテルアスカロンのパワーに対抗するため、シオンは早々にエーテルブリンガーを装備し刃をぶつけ合う。
接触回線が開いてお互いのコックピットモニターに相対する操者の姿が映っている。
シオンの目の前には目元を覆うバイザー型の仮面を着けたツヴァイがモニター越しに映っていた。
その姿はかつて『第一ドグマ』の戦いでシオンを倒したアインとそっくりであり、あの時の苦い経験を思い出させる。
「随分とふざけた仮面をしているな。あのアインという男といい、帝国ではそういうのが流行っているのか?」
「これは我々ドラゴンキラー部隊の象徴のようなものだ。戦いの為に生み出され、戦いの中でしか生きられない存在――それが我々強化兵だ。お前は知っているか? 人間の五感、すなわち視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。その中で視覚が占める割合は八割と言われている。強化兵は肉体だけでなくこれら五感も強化されている。それ故に視覚への負担が大きく、視覚異常を引き起こすことも少なくはなかった。この仮面はその負担軽減と調整の役割を果たしているというわけだ」
「戦争の為に生み出された故の代償というわけか。――それでお前は何が言いたいんだ。同情でもしてもらいたいのか?」
シオンはエーテルブリンガーを上段から全力で振り下ろし、ツヴァイはエーテルアスカロンで受け止める。
風のエーテルを放つ二つの武器が衝突することによって二機の周囲に風の余波が生じ疑似的な嵐を生み出していった。
突風によって飛行時のコントロールが難しくなるが、巧みな操縦技術で二人はそれをカバーしている。
「まさか! 同情など我々にとって侮辱以外の何ものでもない。我々はこの世界を生き延びるために力を得た。最初から何の代償も無く力を得られるとは思ってはいない。――全力で挑んで来い、竜機兵<シルフィード>! この俺ツヴァイが操る滅竜機兵<ゲオルギス>は、そう簡単には落とせんぞ!!」
暴風吹き荒れる空の中でツヴァイは槍の刺突攻撃を繰り返し、防御の上から<シルフィード>の装甲を削っていく。
「くぅ……やるっ!」
シオンも黙ってはおらず敵の攻撃の隙をついて風の斬撃を<ゲオルギス>の肩にお見舞いする。
するとシオンの目に傷ついた装甲が修復していくのが見え、十数秒で元の状態に戻ってしまった。
「自己修復……いや、そんな速度じゃない。まるで再生したかのような……まさか!?」
「気が付いたようだな。滅竜機兵のフレームや装甲にはセルスレイブが使用されている。そのおかげで高い自己修復機能を持っているのだ」
セルスレイブは『クロスオーバー』製の装機兵に使用されているナノマシンの名前である。それにより構成された装甲などは、ある程度の破損であれば短時間で完全修復してしまう。
嫌な予感が的中したシオンは完全修復を終えた敵機を睨む。
「ということは、その機体の開発には『クロスオーバー』が関わっているということか」
「この機体だけではない。滅竜機兵は四機いる。それら全てがセルスレイブにより建造された機体なのだ。それにより我々の機体は竜機兵を超える性能を獲得した!!」
<ゲオルギス>の槍の一突きが<シルフィード>をかすめた。バランスを崩し暴風の中に飲み込まれた風の竜機兵をツヴァイは黙ったまま眺める。
「――あまり僕と<シルフィード>を甘く見るなよ!」
吹き荒れていた暴風が爆ぜるようにして消滅した。その中心部から姿を現したのは増加装甲を身に纏い強力なプレッシャーを放つ<シルフィード>であった。
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