第215話 白竜と黒竜の激突、再び
遂に『アルヴィス王国』と『ドルゼーバ帝国』による海上戦が開始された。
俺とシオンは空中で<フレスベルグ>の部隊と戦闘を繰り広げている。こいつらに頭を抑えられると地上で戦っている仲間たちが攻撃に晒される。
そうなる前にまずは空の敵を黙らせる必要があるのだ。
「遅いっ!」
ドラゴンブレスを連射して<フレスベルグ>の翼を撃ち抜く。空を飛べなければこいつらはまともに戦闘が出来ない。
わざわざ頑丈な本体を潰さなくてもそれで事足りるのだ。
シオンも同様にエーテルブーメランで敵の翼を斬り裂いて地上に叩き落としていく。もはや<フレスベルグ>は俺たちにとって空中の脅威ではなくなっていた。
帝国の飛空艇編隊から次々と装機兵が出撃し全ての島に降下していくのが見える。当初の予想通りにポイント
帝国は量産型機の<ガズ>、<ドール>、<アリエテ>を始めとして高性能機である<ヴァジュラ>、<シュラ>も数多く投入している。
それに加えてボスクラスの重装機兵<エイブラム>を何機もポイントAに降下させた。
ゲームだったら帝国とのラストバトルと言ってもいいぐらいの戦力だ。これほどの敵が現れたらゲームでは苦戦は必至だっただろう。
しかし、地上での戦いは一方的なものだった。
『敵機マルチロック――ファイア!!』
<ドラパンツァー>が新武装のエーテルダブルガトリング砲とレールガン、エレメンタルキャノンの一斉射を放ち次々と敵が吹き飛んでいく。
生き残った装機兵が爆発と煙の中から姿を現すと、フレイはそこにエーテルダブルガトリング砲を容赦なく当てていく。
以前に比べて砲門が二倍になったそれは凶悪な威力にパワーアップしていた。
<ドラパンツァー>が装備する火器の中で圧倒的に使用頻度が多いメイン武装であるため、敵殲滅力が以前よりもかなり上がっている。
フレイの弾幕を生き残った敵は散り散りとなってポイントA内を逃げ惑う。
<ヴァンフレア>と<グランディーネ>は、そんな敵に急接近し各個撃破していく。
息の合ったスリーマンセルでポイントAに現れた敵を素早く処理していくのが見える。
「三人ともやるな。あれだけの大部隊を圧倒している。この調子ならポイントAの戦いは問題ないだろう」
そうなると気になるのは王都騎士団が戦っているポイント
四つの小島の様子を確認すると、騎士団の<セスタス>部隊が帝国の装機兵相手に善戦しているのが見えた。
どのポイントも膠着状態だが騎士団は見事な連携で敵機を撃墜している。この調子ならいけるはずだ。
今まで苦戦だらけの戦いをしてきた身としては、この形勢が有利な戦況に驚くばかりだ。
そんな状況で唯一不安要素があるとすれば、敵の大型飛空艇<ナグルファル>がまだ行動を起こしていない点だ。
ヤツの腹の中にはこの戦況に影響を及ぼす何かが確実にいる。それが分かっているから状況を見極めようとしているのだろう。
奥の手を出すタイミングを窺っているに違いない。
それを出される前に空中の敵だけは全滅させておく必要がある。
『<フレスベルグ>の数がだいぶ減ったな。あと一息といったところか』
「油断するなよ、シオン。帝国はまだ装機兵を温存している。後方にいる飛空艇からはまだ装機兵の出撃が確認されていないからな。<フレスベルグ>が搭載されている可能性は高い」
『了解した。後方の敵に関してはクリスたちに期待したいところだな』
その時、殺気を感じた。全身に鳥肌が立ち、反射的に顔を頭上に向ける。俺の反応と同時にコックピット内で敵の接近を告げるアラートが鳴る。
モニターには上空から敵の接近を知らせるマーカーが表示される。その先にいたのは二体の機影だった。
片方は翼を有した人型の機体、もう一方は黒い飛竜だ。
「あれは……<ベルゼルファー>か!?」
『見つけたぞ……ハルトォォォォォォォォ!!』
空中で白と黒の飛竜がすれ違う。俺に向けられる敵意がはっきりと感じられる。
「くっ、アインッ!!」
『この時を俺はずっと待っていた。貴様と再び戦うこの瞬間をなぁっ!!』
急旋回した<ベルゼルファー>が俺の後ろに張り付きドラゴンブレスを連射してくる。
その攻撃を躱しながら最大速度でヤツを振り切ろうとするがぴったりくっ付いてくる。
「引き剥がせない!?」
『お前は新型に乗り換えたようだが、俺の<ベルゼルファー>も以前より遥かなパワーアップを果たした。機体性能では引けを取らないはずだ』
黒い飛竜の口部に魔法陣が展開され膨大なエーテルが集中すると、レーザー砲のようなドラゴンブレスを俺に向けて放つ。
しつこく追随してくる砲撃を何とか回避し、機首を起こしインメルマンターンで<ベルゼルファー>の頭上に躍り出る。
その瞬間に<サイフィードゼファー>を人型に変形させ黒い飛竜に接近すると、向こうも人型に変形し俺に向かって来た。
<サイフィードゼファー>と<ベルゼルファー>は両手を組み合いエーテルスラスターでホバリングし、空中に留まったまま互いに怒鳴り合う。
「このまま地上に叩き付けてやる!」
『やれるものならやってみろ。今度こそ貴様を倒してやる!』
横目で<シルフィード>の方を見ると、空から現れたもう一機の装機兵と交戦していた。二機は空中で互角の戦闘を繰り広げている。
まさか帝国がここまで空中戦ができる機体を開発していたなんて……。
するとモニターにシオンが映り俺を叱咤してきた。
『何をよそ見している! お前は自分の敵に集中しろ。こいつは僕が必ず倒す。――ハルト……僕は大丈夫だ、仲間を信じろ!』
「――!! 分かった、そいつは任せる。後で合流するぞ!」
『了解した!』
俺は視線を眼前の黒い機体に向けて全エーテルスラスターを最大出力で放出する。
<ベルゼルファー>は抵抗するがパワーの均衡は崩れ二機は手を組み合ったまま地上に向けて落下していく。
『仲間とのお別れは終わったようだな』
「別れじゃない。再会の約束をしただけだ。そういうお前こそ、仲間に何か言うことは無かったのか?」
『仲間など俺にはいない。そのような存在は自分の弱さを肯定するようなものだ。強者に必要なのは己の圧倒的な強さのみ!』
相変わらず目元を隠す仮面をしているがこいつの感情は分かり易い。普通こういう仮面キャラはクールな性格をしているのがお約束なのだが……。
「孤独を装って強キャラぶってるつもりかよ。相変わらず厨二を引きずってるヤツだな。俺がお前に大人なりの厨二の生き方ってやつを教えてやる!!」
エーテルスラスターで落下速度を落としながら俺たちはポイントAに下り立った。握力勝負では埒が明かないと考え一旦離れる。
機体の左肩に搭載されたアークエナジスタルが発光し魔法陣が展開されると剣の柄が出現する。
剣を手に取り天に向かって構えると
「エーテルブレード、刀身固定完了。――アイン、行くぞっ!!」
『あの時の雪辱を晴らす時が来た。――勝負だ、ハルト・シュガーバイン!!』
互いにエーテルブレードを装備し、白と黒の二機の兄弟竜は再び死闘を繰り広げるのであった。
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