第214話 海上戦開始

 『第一ドグマ』を出発した『聖竜部隊』と王都騎士団の飛空艇編隊は『ドルゼーバ帝国』方面に進み海上に出た。

 現在俺たちの真下には大海原とその中に点在する無人の島々があるだけだ。

 戦場予定地は、この一帯でも特に大きい無人島とそこを囲むように四つの小島が点在するポイントだ。

 戦場付近まで来たので俺たち竜機兵チームは機体に搭乗して作戦の最終確認をしていた。

 コックピットモニターにマップを表示しながら説明をする。


「今回の戦いで主戦場となるのはこの大きな無人島だ。戦闘中は、この島をポイントアルファと呼称する。その周辺にある四つの小島はポイントブラボーチャーリーデルタエコーとする。俺たちはポイントAに降下し、ここで敵と戦闘する。王都騎士団はBからEで敵を迎え撃つ」


『つまり我々竜機兵チームはポイントAで敵を倒し続ければいいんだな』


 フレイアが俺たちの役目を分かりやすく表現してくれた。俺は頷くとそこに情報を付け加える。


「フレイアの言う通り俺たちはポイントAで暴れまわればいい。ただ、ポイントBからEはAに遠距離攻撃を仕掛けられるほど位置が近い。つまりそこを敵に陣取られると俺たちは周りの小島から敵の長距離攻撃に晒される形になる。それを防ぐために王都騎士団には動いてもらう。逆にポイントBからEが占拠できれば騎士団が俺たちを援護してくれるってわけだ。その為に今回騎士団には遠距離支援型の装機兵<ブラス>が組み込まれている」


『なるほどな。ポイントBからEの陣取り合戦は騎士団に一任するしかないってことか。俺たちは自分たちの戦いに集中すればいいんだな』


 今度はフレイが状況を確認する。元王都騎士団に所属していた彼だから仲間の安否が気になるようだ。


「騎士団なら大丈夫さ。フレイがいた時とは違ってロム卿やガガン卿、それにジェイソン騎士団長の本領発揮で生まれ変わったからな。――それと、ポイントAの地形なんだが、これが結構起伏に富んだ場所らしい。山岳地帯並に足場が悪い場所が多いから戦闘時は気を付けるように。<ドラパンツァー>はスタンディングフォームで立ち回った方が良いかもしれないが、そこはフレイに任せるよ」


『分かった。生まれ変わった<ドラタンク>の力を帝国に見せてやるさ』


「今回の戦闘の説明は以上だ。俺とシオンはまず敵の空中戦力を叩く。その間は他のメンバーでポイントAの敵を殲滅してくれ」


『了解!』


 説明が終わったところでブリーフィングルームでの会話内容を思い出す。俺はその件も話すことにした。


「それと、例の飛空艇<ナグルファル>の件なんだけど、そこには竜機兵クラスの装機兵が搭載されている可能性が高い。そんな奴等が出てくれば騎士団に多大な被害が出るだろう。その時は俺たちで臨機応変に対処する」


『合点承知! つまり、いつも通りって事でしょ』


 パメラが掌に拳を入れて気合いを入れる。その時のパァンという小気味よい音が俺たちの戦意を高める合図になった。


「その通りだ。つまりやる事はいつもと同じ。全力で敵をボコボコにすればいいってわけだ」


 皆が笑みを見せながら頷く。俺たちの戦闘準備が整った頃にブリッジからの回線が開き、オペレーターのアメリがモニターに映った。


『現在、<ニーズヘッグ>並びに騎士団飛空艇編隊はポイントA付近に到着しました。竜機兵チーム各機は出撃準備よろしいでしょうか?』


「こちらは問題なし。いつでも発進できます」


『了解しました。――カタパルト準備完了、いつでも出撃できます』


「――よし、皆行くぞ!」


『了解!』


 格納庫内で発進警報が鳴り、錬金技師や整備士たちが装機兵の移動ルートから退避する。全員の退避が完了すると各機を固定するハンガーの拘束部が解除された。

 俺たちは自由になった機体をカタパルトデッキまで移動させ発進準備に入った。

 <グランディーネ>が一番槍として位置に着く。カタパルト内にエーテルが充填され重量級の機体が浮遊する。


『よーし、それじゃ私から行くよ。パメラ・ミューズ――<グランディーネ>、行くよ!』


 <グランディーネ>が勢いよく船外に射出されると、続けて<ヴァンフレア>がカタパルトデッキで発進位置に立った。


『今回の戦いではティリアリア様が初めて戦場に立つ。それまでに私が露払いを済ませておかねばな。フレイア・ベルジュ――<ヴァンフレア>、出る!』


 その次に<ドラパンツァー>が位置に着いた。最初はタンクフォームで行くようだ。


『各部問題無し、いけるな。フレイ・ベルジュ――<ドラパンツァー>、出るぞ!』


 三機が出撃しポイントAに向かって降下していく。ここからは空中戦に向けて俺とシオンが出る。

 先に出撃準備に入ったのはシオンだ。


『海上戦となれば敵も空中戦力を大量に投入してくるはずだ。僕が全部叩き落とす。シオン・エメラルド――<シルフィード>、発進する!』


 <シルフィード>は射出されると背部に翼を装備し、それを羽ばたかせながら空で待機する。

 モニターに映る仲間たちの動きを確認しながら、俺は機体をカタパルトデッキに立たせた。

 今回の作戦は三段構えだ。ポイントAで俺たちが大暴れして戦場を膠着こうちゃく状態にする。

 その間、別行動を取っているティリアリアとクリスティーナが敵飛空艇の集中しているポイントに移動し奇襲をかける。

 上手くいけば奇襲で敵にかなりの損害を与えられるはずだ。

 その後は混乱に乗じてティリアリア、クリスティーナと合流し竜機兵チームの全戦力で残存する敵を一気に殲滅する。

 不安要素は色々とあるがこれが今回の作戦内容だ。


「行くぞ、相棒。ハルト・シュガーバイン――<サイフィードゼファー>、いきます!」


 コックピットに加重がかかり機体が船外に射出される。上空には青空と眼下には青い海が広がっている。

 視界一杯に自然の青い色が広がる。

 その美しい光景に一瞬目を奪われるが、これから戦いが始まるのだと気合いを入れ直し機体を飛竜形態に変形させ<シルフィード>と合流する。


 遥か前方には空を埋め尽くすように編隊を組む『ドルゼーバ帝国』の飛空艇が沢山いる。その中に一際巨大な飛空艇がいた。

 船体は漆黒で左舷と右舷に巨大な鋭い爪が装備されている。いかにも悪の船という姿形に感心すらしてしまう。

 敵の飛空艇から空戦用装機兵<フレスベルグ>が何体も発進するのが確認され、俺とシオンは巨大な鳥の群れへと突っ込んで行った。

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