第213話 出陣前のブレイクタイム②

 別のテーブルではフレイアが幸せそうにパフェを食べていた。その近くでは既に食事を終えたパメラがいる。


「パメラはもう食べ終わったのか、相変わらず食べるのが早いな」


「修業時代は周りが食べるのが早かったからね。その影響か私も食べるのが早くなっちゃって」


「まだ皆食べてるし、お代わりしてもいいんだよ」


「いや、私はもういいよ。甘いものは嫌いってわけじゃないんだけど、そんなに量は食べないからね」


 意外だ。普段はクリスティーナたちと一緒にクッキーやチョコレートを食べていたから、てっきり甘い物好きかと思っていた。


「それじゃ、パメラはどんな物が好きなんだ?」


「そうだねぇ、乾き物とかナッツとか……珍味が好きかなぁ」


「酒のつまみじゃないか。そんな若いうちから……好みが渋いなー」


 転生前の俺は、酒はあまり得意ではなかったがスルメとかビーフジャーキーなどの乾き物は好きだった。

 口の中に広がった塩味を、酒の代わりに炭酸ジュースで流し込むのが格別だったのを覚えている。

 そんな昔のことを思い出していると近くで乾いた金属音がした。そっちに目を向けると空になったガラス容器の中にスプーンが置かれている。

 どうやらフレイアがパフェを食べ終えたらしい。


「ご馳走様でした。やはり甘味は最高だ、堪能させてもらった」


 恍惚とした表情をしている彼女は、普段の威厳のある姿とのギャップも相まって色々と驚かせられる。

 ――さて、残るはティリアリアとクリスティーナ、それにシャイーナ王妃の三人だが、彼女たちは何を食べているのだろうか。

 三人が座っているテーブルに視線を向けると俺は驚愕した。俺だけじゃなく、皆も俺と同様に目を丸くしている。

 それもそのはず、三人は同じ種類のスイーツを食べているのだがこれが凄い。

 それはまるで巨大な山だった。大量の生クリームで作られた雪山。そこにチョコレートソースやストロベリーソースがふんだんにかけられている。

 

「何なんだあれは。大量の生クリームの塊……なのか?」


「いや……それは違うぞ」


 恍惚状態から正気に戻ったフレイアが解説を始める。そんな彼女の頬にはパフェのクリームが付いていた。

 それを伝えようか一瞬迷ったが、このままの方が何だか面白い気がしたので言わない事にした。


「何を笑っている? いいか、あれはこの店で最大のボリュームを誇るパンケーキだ」


「……パンケーキの姿なんてどこにもないんですが」


 どう見ても大量の生クリームしかいない。フレイアが目線で「黙って見ていろ」と言うので見ていると生クリームの中からスライスされたバナナが現れた。


「――!? バナナだ、バナナが出て来たぞ!」


「そうだ、あの生クリームは言わば雪山の表面に積もった大量の雪。その中には様々なものが埋まっているんだ」


 ティリアリアたちはスプーンで生クリームのコーティングを次々と剥がしていく。 

 その途中、中からは様々な果物や板チョコ、角切りにされたスポンジ生地などが大量に出土した。

 そして生クリームの中から姿を現したのは、何枚にも重ねられた極厚のパンケーキだった。

 見ているだけで胸やけしたのか、甘いものが苦手なフレイが口元に手を置いて青ざめている。正直言って俺も見ていて胃がもたれてきた。

 パンケーキが姿を見せるまでにティリアリアたちはかなりの量の生クリームを食べている。雪の中に潜んでいた山を食べ崩す余力は残っているのだろうか?


「うわ~、凄いパンケーキ。美味しそう。どうやって攻めていこうかしら」


「わたくしが調べた情報ではこのパンケーキはかなり絶品だという話ですわ。残りの生クリームを載せて食べるのがジャスティスだと思います」


「――ふっ、甘いわね二人共。メニューをよく読んでみなさい。このパンケーキは無料で追いシロップが出来るのよ。これを使わない手はないでしょう」


「さすが叔母さまだわ」


「確かに、ここにシロップが追加されれば鬼に金棒ですわね」


 嘘だろ、全然余裕じゃないか。それにしても生クリームが大量に残っているんだからシロップなんて必要ないと思うんだが。どうしてそこまで甘味を求めるの?


「「「すみません、シロップ追加お願いします!」」」


 生クリームの雪山にたっぷりのシロップが追加された。あれの甘さが既にK点越えしているのは明らかだ。

 見ているだけで口の中が甘くなっていくような気がして、俺は追加でコーヒーを注文し一気に飲み干す。

 一方で、ティリアリアたちは終始幸せそうな表情で甘い山脈を崩していき、とうとう完食してしまった。

 

「「「ご馳走様でした~!」」」


 この食事だけであの三人はどれだけのカロリーを摂取したのだろうか。

 そう言えばティリアリアもクリスティーナも普段からクッキーだのチョコだの甘いものをよく食べている。


「普段もそうだけど、あの人たちはあれだけカロリー摂取していてどうして太らないんだ。あのエネルギーはどこに蓄積されてるんだろうか?」


 俺は素朴な疑問をぽつりと呟き満足そうにしているティリアリアたちを見る。彼女たち三人の胸部では豊か過ぎる果実が揺れていた。


「…………あそこか」


 会計を終えると皆は俺にお礼を言って解散した。

 グランバッハ家出身者の食欲に驚く俺だったが、会計の金額を見て目が飛び出すようなショックを受けるのはそれから間もなくの事であった。

 ちなみにフレイアのほっぺたに付いていたクリームはティリアリアが美味しくいただきました。


 こうして束の間の平穏を楽しんだ俺たちは間もなく新たな戦場へと赴くのであった。

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