第212話 出陣前のブレイクタイム①

 出陣前の機体チェック中、<ニーズヘッグ>の格納庫に意外なゲストがやって来た。

 

「これがお父さまが造った機体、<ティターニア>ね」


「とても神秘的な装機兵ですね。まるで女神のようだ」


 シャイーナ王妃とクレイン王太子は肉親であるクラウスさんが製造した<ティターニア>の見学に来ていた。

 俺とティリアリアとクリスティーナで機体説明をしている最中だ。

 

「うーん……このデザイン、以前どこかで見た記憶が…………あっ、思い出したわ! 私が子供の頃遊んでいたイケイケプリンセスの衣装とそっくりだわ!」


「何ですか、そのイケイケプリンセスって」


「女児に人気の着せ替え人形よ。現在も少しずつ姿かたちを変えて発売されている人気シリーズなのよ」


 あー、なるほどそういうのは前世でもあったな。バー〇―人形とかリ〇ちゃん人形とか、着せ替え衣装や小道具が豊富だったはず。

 どこの世界にも似たようなものはあるのね。


「私やクリスも昔よく遊んだわね。隣国王子ルークと遊び人ジェスの間で揺れ動く乙女シリーズは楽しかったなぁ」


 どうやらプリンセスの相手役としてルークとジェスという二体の男性人形がいたらしい。


「懐かしいですわね。ルークとはドレスを着せてダンスパーティーセットで遊び、ジェスとはラフな衣装に着替えさせて酒場セットで遊び、そこから夜の宿屋セットで締めるという流れでしたわね」


 ティリアリアとクリスティーナが遠い目をしながらかつての人形遊びを語っている。


「ちょっと待った。その最後に言った〝夜の宿屋で締める〟ってなんなのさ!? そこでいったい何が起きるんだ?」


「そこいっちゃう? 本当にハルトってスケベねぇ」


 三人の女性がくすくす笑いながら俺を見ている。何なんだ、この女性たちは。夜の宿屋でプリンセスと遊び人ジェスの間に何が起きたんだ。

 気になる……非常に気になる。でもそれを興味津々な態度でしつこく訊くのは気が引ける。

 

「『アルヴィス王国』の女性はね、この人形遊びを通して男性との付き合い方を学んでいくのよ。つまりは情操教育よ」


 女性三人だけで納得したようにうんうん頷いている。

 嘘だろ……これが情操教育? だって二股かけてんじゃんプリンセス。これ絶対、夜の宿屋のベッドでジェスからいけない遊び教わってんじゃん。

 イケイケ過ぎるんじゃないだろうか、このプリンセス。女児用の人形遊びでこんなただれた恋愛観を養うなんて、この国の女性……こわっ!




 その後クレイン王太子は会議があるという事で戻り、俺たちはシャイーナ王妃を伴って『第一ドグマ』の商業区域に新設されたスイーツ店にやってきた。

 この店は以前王都でスイーツ食べ放題をやっていた店が避難生活をしている住民に元気を出してほしいという思いで始めた店だ。

 以前からティリアリアたちが行きたいと言っていたので、竜機兵チームとシェリンドン、シリウス、セシルさん、そしてシャイーナ王妃と一緒にやって来た。

 予約してから行ったのでそんなに待たずに店内に入れた。物資の関係上食べ放題は現在やっていないそうだが、質にこだわったスイーツが並んでいる。

 テーブルに座ってメニューを見ると非常に甘そうな品々が載っている。俺は無難にショートケーキとコーヒーのセットを頼んだ。


 ちなみに今回のスイーツ店訪問は、<オーベロン>戦で俺がティリアリアにスイーツ店に連れて行ってやると言ったのが発端だ。

 今まで頑張ってくれている仲間への労いも兼ねて俺のおごりということになっている。それなりに資金を下ろしてきたからお金は足りるはず……多分……。


 俺のもとに注文したケーキセットが届いた。とりあえずコーヒーを飲んでいると皆が注文したメニューも続々運ばれてくるのが見える。

 フレイは甘いものが苦手と言っていたので紅茶だけ頼んだようだ。

 シオンはチョコレートケーキとコーヒーのセットを頼んだようだ。それに気が付いたシェリンドンが不思議そうな顔をしている。


「あら、どうしたのシオン。あなたコーヒーを頼んでいるけどいつもはココアを飲んでいるじゃない」


「……余計なことを言わないでくれ。それに甘い食べ物に甘い飲み物の組み合わせなんてナンセンスだ」


 シオンはブラックコーヒーに口をつけて眉をひそめるとカップから口を離した。複雑そうな表情をして黒い液体をじっと見つめている。

 

「はいはい、シオンにはまだブラックコーヒーは早かったみたいね。ミルクと砂糖を入れれば飲みやすくなるでしょ」


「うう……情けない」


「ふふふ」


 悔しさと恥ずかしさを感じてかシオンは顔を赤くしてミルクコーヒーとケーキを交互に口に入れていく。

 その隣でシェリンドンは満足そうな顔をしてチーズケーキを食べていた。


「いやー、まさかハルトのおごりとはね。会社員の時はいつも割り勘だったからこんな日が来るとは思わなかったよ」


 そう言いながら笑っているシリウスの皿には大量のケーキがずらりと並べられている。そうだ、忘れていた。黒山はかなりの甘党だった。しかも結構な量を食べるのだ。


「おい……お前それ全部食べるのか。というか食べられるのか?」


「ハルト、甘いものは別腹だっていうじゃないか。問題ない、全部いけるよ」


 そう言いながらシリウスはじっくりと味わいながら種々のケーキを頬張り始める。その隣ではセシルさんがコーヒーを飲んでいる。


「セシルさんは何か食べないんですか? 甘いものが苦手とか」


「ええ、そうなんです。ですからお飲み物だけで結構です」


 そう言えばセシルさんが食事をしているところを見た記憶がない。メイドさんって忙しそうだけどいつご飯を食べているのだろう。

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