第211話 次の世代の戦い


 『聖竜部隊』の新たな戦力である<ティターニア>と<ドラパンツァー>の調整が終わった頃、俺たちは『第一ドグマ』のブリーフィングルームに集められていた。

 そこにはロム卿やガガン卿、ジェイソン騎士団長といった面々もおり、何やら物々しい雰囲気が漂っている。

 テーブルにはシャイーナ王妃が真剣な表情で座っている。どうやら招集を受けた者が全員集まったらしく話が始まった。


「皆、忙しい所緊急招集をかけてごめんなさい。ですがこれは急を要する案件であったため、各重要役職に就いているあなた方を呼び出させてもらいました。単刀直入に要件を説明すると、『ドルゼーバ帝国』の大部隊が帝国本土の前線基地に集められているという情報を得ました。恐らく再びこの国に攻撃を仕掛けて来る気でしょう」


 皆のぴりぴりした雰囲気からしてそうじゃないかと思っていたが、予想よりも再攻撃のタイミングが早い。

 連中だって飛空要塞<フリングホルニ>を一隻失ってそれなりに打撃を受けているはずなのにもう戦力が揃ったのか。


「帝国に潜り込んでいる偵察隊が送ってくれた映像をモニターに出します」


 作戦説明用の大型モニターに映ったのは今まで見たことの無い大型の飛空艇と二、三十隻の飛空艇で編成された大部隊だった。

 その大型飛空艇を見たシリウスが険しい表情をしている。


「どうした、シリウス。あの飛空艇がどうかしたのか?」


「あれは……たぶん<ナグルファル>だ。まさか完成していたなんて」


 謎の大型飛空艇を知っているらしいシリウスがその説明役を買って出ることになった。


「私の記憶が確かならば、この飛空艇の名前は<ナグルファル>……帝国の竜機兵開発計画の母船として設計されていた船です」


 そんな計画の存在は初めて聞いた。周囲は帝国製の竜機兵の話をされてざわついている。

 こちらの切り札である竜機兵が向こうにも複数あったなら脅威と言わざるを得ない。


「数年前に帝国に奪取された竜機兵<ベルゼルファー>を解析した帝国は、ドラゴニックエーテル永久機関とドラグエナジスタルについて研究し、動力部に関しては何とか実現できる目処がつきました。けれどドラグエナジスタルに関しては同じものを作り出すことは不可能だと言う結論に至りました。それにより帝国の竜機兵開発計画は中止になったんです」


「それじゃ、その頓挫した計画の母船だけ造ったのかな?」


 竜機兵が再現できなくても飛空艇に関しては別問題のはずだ。俺はそう思って意見を述べるとシリウスは少し考えてから再び話を始めた。


「その可能性は高いでしょう。でも、さっき話したようにドラゴニックエーテル永久機関は再現可能。私も小耳に挟んだ程度だったのですが、その動力を搭載した高性能機を開発しているという噂を聞いたことがあったんです。ドラゴニックエーテル永久機関は非常に大出力のエーテルを出力しますが、その分操者には高いマナの素養が求められます。それに製作には相当の資金と時間を要します。そのような理由からその高性能機も量産には至ってはいないはずです。造れても数機程度だと思います。恐らく<ナグルファル>はそれらの機体の母船として建造されたのではないかと思います」


「つまり竜機兵クラスの装機兵を帝国が生産しているかもしれないってことか」


「まだ懸念はあります。帝国の後ろには『クロスオーバー』がいるという事実です。彼等の技術提供によって、帝国は今までの世界線よりも早い時期に強力な装機兵を実戦投入しています。本来であれば<フレスベルグ>や<エイブラム>は今頃の時期に戦場に現れるはずだったんです。それだけ今回はこれまで繰り返されて来た八百四十二回の世界線とは異質な流れを辿っています。そう考えると『クロスオーバー』の協力によって竜機兵と同等以上の機体が開発されている可能性が高い。<ナグルファル>には竜機兵チームのような、少数精鋭の装機兵部隊が配備されていると私は思います」


 竜機兵以上の機体が複数いる可能性が高いという事実に王都騎士団の表情は暗い。一方で竜機兵チームの面々は特に気にしていない様子だ。

 今まで竜機兵クラスの機体と何度も渡り合ってきた俺たちにとっては別に気に留めるような話ではないのだ。

 どんな敵が出てこようとも全力を出して叩き潰すのみ。


 その後、帝国の大部隊とやり合う為の作戦会議が行われた。

 戦闘場所として選ばれたのは『アルヴィス王国』と『ドルゼーバ帝国』間にある海上だ。

 そこには無人島がいくつもあるため装機兵の足場として使える。そこで敵を迎え撃つ算段だ。


「よし、作戦は決まったな。そうであれば早速出陣の準備だ!」


「待っていろよ帝国め。わしの<ガガラーン>でひねり潰してやる!」


 ロム卿とガガン卿が気合いを入れて出撃の準備に入ろうとしていた。前回の王都陥落の件で責任を感じていた二人は名誉挽回をしようと躍起になっている。

 六十歳くらいのご年配の方が意気込んでいる姿を見ると、彼等の血圧が心配になってくる。

 前世では会社の健康診断で四十代の先輩の血圧が高くて病院への受診を勧められていた。六十代のお爺さんなら尚更だ。

 そんな高血圧気味のお二方にシャイーナ王妃が近づき悲しいお知らせを伝える。


「ロム卿とガガン卿には今回王都守備隊の指揮を執っていただきます」


「「――え?」」


 訳が分からないといった表情をして固まる二人の爺さん。

 普段は鋭い目をした武人たちが目を丸くしている姿は失礼だと思ったが中々に面白い。

 

「つまり我々は帝国との戦闘には出られない……と?」


「ええ、その通りです」


「何故ですか、王妃! 我々にとって今回の帝国との戦いこそ汚名を挽回するチャンスだと言うのに」


「ロムの言う通りです。理由があるのなら説明していただきたい!」


 シャイーナ王妃は屈強な爺さま二人に詰め寄られながらも臆する様子を見せず背筋を伸ばして応対している。

 こういうのを見ると、やはり王族は肝が据わっていて凄いと思わされる。


「前回の王都陥落時にこの国を第一線で支えていた国王や多くの大臣たちが犠牲になりました。そのため現在この国を動かしているのは当時の中堅の役どころ、つまり次世代の者たちです。彼等は先人たちに比べ実力不足な部分を必死で何とかしようと現在奮闘しています。私は戦いにおいても同じことが言えると思うのです。ロム卿やガガン卿の助力によって、王都騎士団は生まれ変わりました。故にこれから先の帝国との戦闘で矢面に出るべきは新たな世代である必要があると私は思うのです。ジェイソン騎士団長には帝国との戦いにおいて最高責任者として指揮を執ってもらうように伝えてあります。お二人にはそんな新しい世代が全力で戦えるように後方の守りを固めていただきたいのです」


「む、むう……」


「なるほど……そのようにお考えであったとは……」


 確かにロム卿とガガン卿がいれば、戦いは楽になるかもしれない。しかし、いつまでも二人の補助輪ありきで戦っていては、この先二人がいなくなった時に騎士団は迷走する。

 そうならないために今のうちから若い世代に経験を積んでもらいたいという事なのだろう。

 

「ロム卿、ガガン卿……此度の帝国との戦いは我々に任せてください。お二人は我々が戻って来る場所を守ってください。よろしくお願いします」


 ジェイソン騎士団長と王都騎士団全員が二人に頭を下げる。その姿を見た二人は観念した顔をして戦いを若い世代に任せることにした。

 こうして俺たちはブリーフィングルームを後にし、次の戦いに向けて最後の準備をするのであった。

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