第209話 動き出すドラゴンキラー
◇
『聖竜部隊』の強化が行われている頃、『ドルゼーバ帝国』の前線基地では『アルヴィス王国』再侵攻の為の大部隊が編成されていた。
その中でも異質な雰囲気を放つのが特殊兵を主力とした部隊〝ドラゴンキラー〟である。
その名が示す通り、彼等は対竜機兵戦を目的としており最新鋭の飛空艇と装機兵が配備されていた。
ドラゴンキラー部隊所属、大型飛空艇<ナグルファル>。漆黒の装甲と両舷に搭載された巨大なクローアームにより凶悪な雰囲気を漂わせている。
その船内にかつてハルトと死闘を繰り広げたアインとその愛機、竜機兵<ベルゼルファー>の姿があった。
<ベルゼルファー>を見上げるアインの近くにはミカエルがおり、格納庫の端末で機体のチェックをしている。
「これで<ベルゼルファー>の改造は終了だ。今のところ以前と見た目は変わらないが、お前と<ベルゼルファー>の戦意にセルスレイブが反応し、より強力な形態へと機体を変貌させるだろう」
「そうか……ミカエル、お前には感謝しなければならないな。お前のおかげで<ベルゼルファー>は生まれ変わった。この力ならヤツと……ハルト・シュガーバインと戦える!」
ミカエルから説明を受けアインは彼に礼を述べる。そんな彼の姿勢を見ていたミカエルはかねてから抱いていた疑問を問うことにした。
「以前から感じていたが、お前は随分とあの男に固執しているな。いったいヤツの何がお前をそこまで駆り立てる? あの男――ハルト・シュガーバインにはそれだけの価値があるのか?」
「俺も上手く説明は出来ない。――だがヤツと戦った時、俺は初めて生の実感を得たような気がしたんだ。ハルトと戦っている間、俺は自分の全てを出し切り充実感に満たされていた。敗北こそしたがそれでもそのように感じたんだ。今度は俺が勝つ……いや勝ちたいんだ。今の俺の中にあるのはそれだけだ」
「ハルト・シュガーバインはお前にとってライバルというわけか。勝利への純粋な渇望か……俺の知り合いにもお前に似た男がいたよ。純粋にこの星や新人類の未来を考えていた人物だった」
いつもは感情を表に出さないミカエルにしては珍しく、何処か嬉しそうなそれでいて悲しそうな表情をしているとアインは感じていた。
普段は他人に興味を抱かないアインではあったが、ミカエル程の男が感情を見せる人物に不思議と興味を抱いた。
「その男は今何をしているんだ?」
「死んだよ。もう随分と昔の話だ。もしも彼が生きていれば世界はもっとまともな方向に向かっていたかもしれない。……いや、今更そんなことを言ったところで何の意味もないな」
「そうか……」
二人の間に沈黙が流れる。すると格納庫内に警報が鳴り響き、四機の装機兵がカタパルトデッキから格納庫内に入って来た。
アインは特に驚いた様子もなく格納庫のハンガーにその身を委ねる四機見つめていた。
「<ゲオルギス>、<カドモス>、<シグルズ>、<ベオウルフ>……あの四機は『ワシュウ』攻略戦に出ていたはずだが、いつの間にか戻っていたんだな」
四機からそれぞれの操者が降り、まっすぐにアインへ向かって歩いてくる。その四名はアインと同じく目の周囲を覆うバイザー型の仮面を装着していた。
その中で青い髪の男がアインに話しかけて来る。
「久しぶりだな、アイン。<ベルゼルファー>の強化は終わったのか? 外見的には以前と変わった部分が見受けられないが」
「外見は同じでも中身が違う。それにこの機体はこれからの俺と<ベルゼルファー>次第で姿が大きく変わる。――それよりもツヴァイ、何故お前たちがここにいる。お前たち四人は新型機のテストを兼ねて『ワシュウ』を落とすために出ていたはずだが?」
「『ワシュウ』攻略戦は新型機である滅竜機兵の性能もあって途中までは順調にいっていたんだが、向こう側に援軍が現れてな。お前も噂を聞いたことぐらいはあるだろう。転生者で結成されたエインフェリアとか言う部隊の存在を」
「つまり、そいつらにやられておめおめと逃げ帰って来たというわけか。
アインが嘲笑すると四人の中で唯一の女性であるフィーアが苛つきながら反論してくる。
「言ってくれるじゃない。あなたこそ、例の白い竜機兵に負けてからまともに戦闘に参加していないくせに。皆言っているわよ、あなたは臆病者だって。次の作戦参加も拒否するようなら<ベルゼルファー>の操者から降ろされるらしいじゃない。後がないのはあなたの方じゃないかしら?」
フィーアは仲間と同じ軍服を着てはいるが胸元が大きく開かれており胸の谷間が全開になっていた。
アインに詰め寄る度に露わになった胸が揺れ、彼は不快そうな表情をしながら後ずさりする。
「相変わらず下品な格好をしているな、フィーア。お前に言われなくても次の任務には必ず出る。――ようやくあいつと再戦できるのだからな」
「誰が下品な格好よ、失礼しちゃうわね。――それと一応訂正しておくけど、私たちは転生者たちに負けてないわよ。途中で『クロスオーバー』の連中が横槍を入れて来たおかげで戦況がぐちゃぐちゃになったのよ。おまけに私たちの部隊は『アルヴィス王国』再侵攻のために強制的に本国に戻されたわけ。……理解した?」
「――ふん」
説明したにも関わらず興味を示さないアインに対しフィーアが憤慨していると、この中で最も大柄でスキンヘッドの男――ドライが二人の間に入って仲裁をする。
「まあまあ二人共落ち着いて。仲間同士でいがみ合っていても仕方がないだろう。それにアインが戦闘に積極的に出ないのは、<サイフィード>の操者と約束をしたからだというのはお前も知っているだろう」
「それこそ意味不明でしょ。どうして敵との約束を律儀に守っているのよ。確か『再戦するまで誰も殺すな』だっけ? 馬鹿馬鹿しいにも程があるわ!」
「そんな事は俺が一番分かっているさ。それでもヤツと正々堂々と戦うためには必要な事だと思った。――そして、その時がやっと巡って来た。今度の『アルヴィス王国』への攻撃では俺たちは『聖竜部隊』を標的に動く。やっと……ハルト・シュガーバインと再戦ができる!」
アインは笑っていた。顔の半分近くを覆う仮面により表情が分かり難いが、口元の動きだけでも彼がとても嬉しそうなのが十分に伝わってくる。
「アインが笑っているわ」
「これは珍しいものを見たな」
「それだけアインにとって、<サイフィード>の操者の存在が大きいという事か。――いいだろう、ヤツはアインに任せる。我々は他の竜機兵を落とす。……それでいいな?」
部隊のリーダーであるツヴァイが作戦の段取りを説明しアイン、ドライ、フィーアが異論はないと首を縦に振る。
しかし、沈黙を守っていた銀髪の少年ヒュンフだけは、その作戦に納得がいかないようであった。
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