第208話 ドラタンク改修計画
シェリンドンたちは今回の<ティターニア>の試運転結果をまとめて、これから機体の最終調整をする予定だ。
機体のテストを終えたパメラとティリアリアはシャワーで汗を流すと以前より仲良くなって俺たちの前に現れた。
腕を組んで和気あいあいとしている。
「なんか二人共、随分仲良くなったね」
「打撃技の話とかしていたら盛り上がっちゃって。私たちは戦い方が似ているから」
「まさかティリアリアが格闘好きとはね。共通の趣味があると話が弾む弾む」
二人は実に楽しそうだった。年頃の娘さんたちの会話の内容がパンチとかキックなのはどうだろうと思ったが、本人たちが楽しければいいか。
すると、ここで思わぬ伏兵が現れる。
ティリアリアが抱き付いているのとは反対の腕にクリスティーナが抱き付いたのだ。パメラの両腕に聖女と姫が抱き付いている構図になった。
「ティリアリア。パメラはわたくしの親友なのですから、いきなりわたくし達の間に入るのはよくありませんわよ!」
「そんなの別によくない? 減るもんじゃないしぃ」
「減ります。わたくしがパメラを独占する時間が減るんです」
「まあまあ、二人共落ち着きなさいよ。私を取り合って喧嘩をする二人は見たくないな。――私は笑っている君たちが好きだよ」
「「パメラァ……」」
なにこれ? 俺の嫁さん二人がパメラと浮気しているんですが。
パメラが謎のイケメンオーラを出してティリアリアもクリスティーナもうっとりとした表情をしている。
困惑していると、ふとパメラと目が合った。
その瞬間、ヤツが勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
「ふっ、すまないねぇハルト君。どうやら君の嫁さん二人は、君よりも私の方がお好みらしい。敗者は敗者らしく昔の思い出に浸りながら一人寂しく枕を濡らしていたまえ」
「お前はそんな言葉を何処で覚えて来たんだ」
「それは乙女の秘密よ」
こいつの相手をしていたら頭が痛くなってきた。どうせ俺と同じ転生者のノイシュあたりの入れ知恵だろう。あいつは立派な腐女子だったからな。
妙に芝居がかっているから話が変な方向にいったが、彼女たちは訓練を通して以前より仲良くなっただけなのでこのままにしておいても別に問題ないだろう。
「おい、ハルトそろそろ時間だ。行こうぜ」
「あ、もうそんな時間か。それじゃ今日のテストお疲れ様。ティリアリアとパメラはちゃんと休養を取ってくれ。以上で解散」
俺とフレイが一緒にこの場を去ろうとするとティリアリアが青ざめてわなわな震えていた。
「そんな……、私とクリスが浮気したから今度はハルトがリベンジ浮気するなんて……夫婦生活の破綻だわ!」
「どんな思考回路してんだ! 俺たちはこれから<ドラタンク>の改修作業に立ち会うんだよ。それと浮気とか言わないで」
「<ドラタンク>の? あの機体は完成して日が浅いのにもう機体を改造するの?」
「マドック爺さん達の希望でね。そういうわけなので行ってきます」
ティリアリアたちは不思議そうにしている。<ドラタンク>はこれまでの戦闘で特に問題無く立ち回っていたからそう思うのは必然だ。
でもそういうのじゃないんだ。元々あの機体は漢のロマンと趣味が詰まった機体。これまでの戦闘結果からマドック爺さん達が新機能を付けたいと言ってきたのだ。
<ティターニア>のメンテナンスもあったはずなのに、彼等はいったいいつ休んでいるのだろうか?
皆と別れた俺とフレイは<ドラタンク>が待機しているハンガーに向かった。そこではマドック爺さんを始めとする漢共が楽しそうな顔をしながら集まっていた。
俺とフレイに気が付いた爺さんたちが早く来いと手でジェスチャーする。
「もう皆来てたんだ。予定時間の十分前なのに……随分早い集合だね」
「何を言っとるか。この日を皆楽しみにしとったんじゃぞ。既に改造プランは完成しておる。後は実行あるのみ」
この場に集まったのは錬金技師や整備士の男連中のみ。
ついさっきまでは女の子たちがキャッキャウフフしていた場所にいたせいかギャップが凄い。空気が淀んで見える。
でもこの雰囲気……嫌いじゃない。
「マドック技師長、俺とハルトは何をすればいいんですか?」
「フレイたちはこの場で改修作業を見ていてくればええ。それとお前さんはこのマニュアルに目を通しておくように」
爺さんがフレイに手渡したのは装機兵用マニュアルだった。タブレットみたいな端末になっており簡単に持ち運びできて便利だ。
早速フレイと俺でマニュアルを見ると改修後の機体と武装の説明が記載されていた。
「マドック技師長から事前に聞いていたのと大体同じ内容だな。追加武装はエーテルホーミングサンダーか――追尾式の雷属性のエーテル砲って、こいつはかなり使えるな。八発まで同時発射可能、威力も命中率も相当なもんだ。それにエーテルガトリング砲は二連装になるらしい。主力武器の威力が上がるのは助かるぜ」
「火力がかなり上がるみたいだな。それに何と言ってもこの改修最大の目玉は――」
俺たちがマニュアルに夢中になっていると作業場から大きな音が聞こえてくる。
そっちに目を向けると<ドラタンク>の上半身とタンク部分である下半身が切り離されている場面だった。
人型の上半身はチェーンで吊り上げられ隣のブロックにそのまま移動する。そこには新しいタンクが用意されていた。
慎重に上半身が下ろされ新しい下半身とのドッキングが完了する。
<ドラタンク>の上半身と下半身は整備のし易さを考え、簡単に取り外しが出来るようになっている。
そのためこの改修の山場は思いのほか簡単に完了した。後は上半身の装甲変更や武装の追加で終了する予定だ。
――数時間後、<ドラタンク>の改修は完了した。早速フレイが搭乗しテスト場で試乗を開始する。
今までと同じタンク形態での走行と武装の確認を一通り行うと、次のステップに移る。
「それじゃあ、やってみるか。――スタンディングフォーム!」
タンク部分が人型の脚へと変形し機体は立ち上がり、その雄姿を見守っていた男連中は満足した表情で見惚れていた。
俺とマドック爺さんは肩を組んで涙を流しながら、テスト場内を駆ける<ドラタンク>の改修機――<ドラパンツァー>を見つめていた。
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