第207話 強くなり過ぎた聖女
<ティターニア>による他機への修復やエーテル回復テストは既に済ませてある。その時点で本来の支援機能はちゃんと発揮できることは分かっているのだ。
事情を知らないパメラはコックピット内で得意げに笑っていた。
『ティリアリア……いくらハルトの嫁だからって私は手加減しないわよ。何故なら私は竜機兵チームの先輩だから! パイセンとして実戦の怖さをそのエロい身体に叩き込んでやるわ!!』
「……なに言ってんだお前」
『それはこっちのセリフよ、ハルト。実生活だけじゃ飽き足らず、戦いの場にまで更に嫁を投入してくるなんて……このエロ魔人め。あんたら夫婦連中の陰謀で私がどれだけ肩身の狭い思いをしているか知らないでしょう!?』
そんなの知るか。いつにも増して物凄い剣幕で吠えているけど、俺たちがこいつに何か悪い事でもしたのだろうか。
全く身に覚えがない。するとシオンが呆れ顔で真実を教えてくれる。
『その……なんだ……パメラは他の女性陣と比べて自分の体形を気にしているようでな……』
ああ……そういう……。なるほど、よく分かりました。
『なんだ、そんなことか』
フレイの余計な一言でパメラがぶち切れた。あまりに怒りすぎて目から涙が滲み出ている。
『そんなこと!? 今、そんなことっつったの? フレイのくせに生意気よ。それに私にとっては死活問題なのよ。戦闘中に味方機とやり取りしている時、モニター越しに巨乳がばるんばるん揺れているのを見て、私がどれだけ奥歯を噛みしめてきたか。それなのに、この度グランバッハ家の大型弾頭が投入されるのよ。私の奥歯は崩壊寸前よ!』
「お前、命のやり取りをしている時にそんな事を考えてたのか!?」
アホだ……アホすぎる……前々からアホな子だとは思っていたがここまでとは……。
管制室の方では多くの人が苦笑していた。中には涙を流して頷いている人もいたが。
『あの……パメラ大丈夫? 調子が悪いようなら誰か別の人に代わってもらった方がいいんじゃないの?』
パメラを心配するティリアリアが声を掛ける。操者のイメージをトレースした<ティターニア>が両手を身体の前でそっと重ねて小首を傾げる動作をした。
清楚な雰囲気を持つ深窓の令嬢風の装機兵がやるとロボットと言えど中々萌えるものがある。それを見たパメラが機体を後ずさりさせてショックを受けていた。
『何なのよそのあざといポーズは!? 可愛いじゃないのよ、私もやってみよ』
今度は<グランディーネ>が同じポーズをする。外見がごつい装機兵がやると全然印象が違う。全く可愛くない。
「うわぁ……ないわぁー」
本人も同じことを思ったのか、今起きたことはなかった事にしたらしい。気を取り直して話を進めていった。
『それじゃ、殺ろうかティリアリア。パイセンが胸……腕を貸してやるから遠慮なくかかってきなさいよ!』
――もう止めてあげて。自分で自分を傷つける発言をするパメラパイセンを誰か止めてあげて。
既に心が満身創痍のパメラに対し、今日のテストに気合いを入れて来たティリアリアはやる気が充実している。<ティターニア>が戦闘態勢に入った。
『分かったわ。では遠慮なく――エーテルハイロゥ展開、エーテルガントレット装備!』
<ティターニア>の頭上に天使の輪を模したアシストシステム――エーテルハイロゥが展開され足が地面から離れ浮遊する。
それと同時に両前腕部と手部を覆うように
つい先ほどまでお淑やかな雰囲気を醸し出していた<ティターニア>から只ならぬ殺気を感じ取ったパメラは、反射的にエーテルシールドを前面に構えて完全防御の姿勢を取る。
その直後、テスト場内に『ズガン!!』という鈍く重い音が響き渡った。
それは一瞬で間合いを詰めた<ティターニア>の正拳突きが<グランディーネ>の盾に直撃した音だった。
『なんっ!?』
防御こそ崩されなかったが足を踏ん張ったまま後退させられ、地面を抉る足跡が残っていた。
何が起きたのか理解が追いついていないパメラは目をぱちくりさせている。
『え? ちょ、ま……え……嘘でしょ。 ただのパンチでこの威力って……マジで?』
「パメラ、ボケっとすんな、次が来るぞ! <ティターニア>は操者であるティアの影響で腕力がえぐい事になってる。打撃力なら<グランディーネ>と互角かそれ以上だ」
『そういう事は先に言ってよ!』
そう、ティリアリアは侍女であるフレイアから護身用に格闘技を習っている。その結果、彼女は強くなり過ぎたのだ。
俺が初めてティリアリアに逢った時、色々あって彼女に引っぱたかれたのだが一撃で俺は気を失った。
装機兵操者として訓練を受けていた人間をたった一撃で倒したティリアリアの腕力は常人離れしたレベルに達している。
ジュダスに襲われた時は不意打ちだったことや、本気で抵抗すると逆にジュダスを殺ってしまいかねないと悩んでいる間に例の装置に押し込まれたらしい。
そんな腕力お化けの操者を得た<ティターニア>は既に支援系装機兵とは思えない剛腕アタッカーへと変貌していた。
『はああああああああああ! パメラ次行くわよ――フォトンナックル!!』
<ティターニア>の腕部が光のエーテルを放ちながら<グランディーネ>の盾に打ち込まれる。
先程よりも激しく鈍い音が聞こえパメラは機体を二、三歩後退させたが、最初よりもしっかり踏ん張りを利かせて対応していた。
『つぅ……中々いいもの持ってんじゃん。こうなったらとことん付き合ってやるわ! 思う存分打ち込んで来い!』
『ありがとう、パメラ。それじゃ、次は――』
それからしばらくテスト場には鈍い金属音が木霊し続けていた。
その音が止み無事にテストが終了すると<グランディーネ>と<ティターニア>は『第一ドグマ』地下格納庫に収容され、その場にいたスタッフたちもそれぞれの職場に戻っていった。
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