第204話 クラウス・グランバッハの真実②
『――ん? あれ、もう始まっていたか。撮り直すのもあれだしこのまま始めるか。えーと、皆さん初めましてあるいは久しぶり、私はクラウス・グランバッハです。皆さんがこの映像を見ている時には私は既に亡くなっていることと思います。そんな私が何故このようなメッセージを残したかというと、この世界について色々と話しておきたいことがあったからです』
映像の中のクラウスさんは明朗快活な感じの男性だった。元気な彼の姿を見て孫にあたるティリアリアとクリスティーナがすすり泣いている。
「お爺さま……う……ぐす……」
「本当に……クラウスお爺さまですわ……懐かしいです……」
泣いている二人をフレイアが優しく抱きしめ映像は続いていく。
『もしも私の予想が的中していたとしたら『クロスオーバー』と呼ばれる組織があなた方、新人類を滅ぼそうと動き始めている事と思います。その『クロスオーバー』とは――』
クラウスさんが語ったのは俺たちが今までに聞いた『クロスオーバー』の成り立ちについてだった。
ただ、彼の説明の方がより詳しく構成員について語っていた。
『クロスオーバー』のメンバーはナノマシンを体内に取り入れ、オリジンという人種へと進化した。
ナノマシンにより彼等は不老不死の身体を手に入れ、この惑星再生の為に気が遠くなるほどの年月を生きてきた。
その中でもトップにいるのが、ガブリエルという人物で彼を筆頭にミカエル、ラファエル、ウリエル、メタトロン、サンダルフォン、バラキエル、マルティエル、アザゼルといった者たちが中心となって活動してきたらしい。
その中には既に面識のあるヤツが何人かいた。
しかし、正直言って詳しすぎる。連中と面識のあったカーメル三世でさえ『クロスオーバー』のメンバーについてここまで詳しくは知らなかった。
『――ここまで説明してきて疑問に思った方もいるかもしれません。私が彼等について詳細に知り過ぎていると。それは当然です。私もかつては彼らの一員でした。その頃の私はウリエルと名乗っていました』
「お爺さまが……『クロスオーバー』の一員だった……?」
クラウスさんの孫であるティリアリアとクリスティーナはショックを受けていた。俺を含めたこの場にいる皆も同じで驚きを隠せない。
ただその中でマドック爺さんだけは冷静だった。
「――これで合点がいったの。彼等は極めて高い技術力を持っている。クラウスが彼等の一員であったのなら、あの優秀さも頷ける」
「爺さん……」
「別にわしはあいつが何処の誰であろうと気にせんよ。共に数十年過ごした中でクラウスは心を開いてわしらと接していた。十分信用に値する人間だったんじゃ。重要なのは『クロスオーバー』からあいつが抜けた経緯じゃよ。そして、どうしてわしら新人類と歩む道を選んだのかということじゃ」
確かにマドック爺さんの言う通りだ。クラウスさんは新人類の側に立って錬金学の進歩や竜機兵の開発など多岐にわたって恩恵を授けてくれた。
彼がそうしてくれた理由が今から語られるはずだ。
『私が『クロスオーバー』を離れたのは彼らの思想が危険だと感じたからです。本来『クロスオーバー』は惑星環境の再生後、新人類の文明が一定レベルに到達した際に解散する予定でした。オリジンは不老不死ではありますが、定期的なナノマシンの注入をしなければ普通に老い、やがて死を迎えます。そうして新人類の一員として生活し、やがてこの大地に還るはずだったのです。――しかし現実は違いました。『クロスオーバー』は新人類を監視するという名目で存続し、組織としての在り方が大きく変わっていきました。そして私が恐れている事態が起きたのです。それは『クロスオーバー』による新人類の支配というものでした』
どんどん話がきな臭くなってきた。この場にいる全員がモニターに映るクラウスさんの話に集中していた。
『私を含めたオリジンの半数はこの支配体制に否定的で、この時はその話は流れました。しかし、ある男が水面下でこの計画を推し進めていたのです。その男の名はガブリエル……『クロスオーバー』のリーダー的存在で彼を慕う者は大勢いました。彼は表面的には理知的で優しくカリスマ性も備えた人物でしたが、その裏では新人類を奴隷のように考える危険な思想を持っていたのです。私が彼の裏の顔に気が付いた時には既に組織は彼の支配下に置かれていました。このままでは『テラガイア』はガブリエルに支配されてしまう。そう考えた私は完成させたばかりの三機の
ティリアリアとクリスティーナは画面の中の祖父へ熱い眼差しを向けている。俺はそれを見てクラウスさんの気持ちが分かった気がした。
彼はきっと守りたかったんだ。この世界で知り合った人々や家族をただ守りたかっただけなんだ。
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