第203話 クラウス・グランバッハの真実①
そこにいた妖精姫<ティターニア>は異色の機体だった。
サイズは通常の装機兵の規格である十五メートル級だが、その姿は女性のようなフォルムでドレスを着こんだような形状の装甲を
機体の配色は白を基調としながらも青色や金色の装飾が所々に施され豪奢かつ清楚な感じだ。
頭部にはティアラのようなパーツを装着しており、デュアルアイは端が丸みを帯びており優しい印象を持たせてある。
つまり何が言いたいかと言うと――。
「なにこの装機兵……可愛い」
「そうじゃろう、そうじゃろう。わしも同じ意見じゃ」
「女性的な形状としては<アクアヴェイル>と似たコンセプトだけど、向こうが美しさを追求したのに対しこちらは可愛い印象が強いわね」
「こんな機体がずっと地下にいたなんて驚きだよ。さしずめ装機兵版、深窓の令嬢ってとこかな?」
「あっ! それだよそれ、そのイメージがピッタリ合うよ。さすがシリウス、口が達者」
「ハルト……それ褒めてる?」
ロボットマニアの俺、マドック爺さん、シェリンドン、シリウスで<ティターニア>への感想を好き勝手に述べていく。
盛り上がる俺たちを他所にフレイアたちは若干引き気味だ。
そんな空気の中、ティリアリアは<ティターニア>をじっと眺めていた。心配したフレイアが隣に来て一緒になって巨大なご令嬢を見上げる。
「ティリアリア様、この機体がどうかしましたか?」
「私……この装機兵を知っているわ……」
ティリアリアの突然の告白に皆が驚き注目していると、しばらくして彼女は何かを思い出したように目を見開いた。
「そうだ……小さい頃にお爺さまの書斎で見たんだわ。お爺さまがこの機体を紙に書いていたのを見て可愛いって言ったのよ。そしたらお爺さまが喜んで……」
「それじゃ、やっぱり<オーベロン>と<ティターニア>を造ったのはティアやクリスのお爺さんのクラウス・グランバッハってことなのか。多才な人だとは聞いていたけど、これだけの装機兵をドグマの援助も無く完成させるなんて本当に何者なんだろう?」
俺はクラウスさんに関して面識は全くない。グランバッハ家に飾ってある家族写真や肖像画でその姿を見た程度だ。
ティリアリアと同じ銀色の髪をした厳格さと優しさを併せ持ったような外見をしていた。
生前の彼と面識があるのは彼の家族であるティリアリアとクリスティーナ、ティリアリアの侍女のフレイア、シェリンドンも少し会ったことがあるとは言っていた。
けれど、最も彼と長い間関わっていたのは――。
「ここで二機の装機兵を造ったのはクラウスで間違いないじゃろう。王都の地下に誰にも知られず単独でこれだけの施設を建造し、非常に高性能な装機兵をこしらえるなんぞあいつ以外にはあり得ん。逆を言えばあいつであれば、これだけのことをやってのけても不思議ではないということ。――あいつはそういうヤツじゃったよ」
マドック爺さんはクラウスさんについて、そう語りながら大型モニターと制御用コンソールが置いてある場所に歩いて行く。
メイン電源を入れてコンソールを操作しながらクラウスさんとの思い出を話してくれた。
「あいつと出会ったのはわしが錬金技師として駆け出しの頃じゃった。当時の錬金学は長い停滞時期に入っていたが、あいつは次から次へと新たな技術を開発していきおった。高出力なエーテル永久機関の開発……高純度のエナジスタル生成法……現在では当たり前になった錬金学の基本はあいつが中心となって作り上げたんじゃ」
「お爺さまが!? そのような話は初めて聞きましたわ」
クリスティーナも実の祖父のそんな話は初耳だったようで大変驚いていた。それは同じ祖父を持つティリアリアも同様でクリスティーナと一緒の反応をしている。
周囲を驚かせながらマドック爺さんは淡々と端末を操作しながら話を続けた。
「クラウスは錬金学会への発表関連は共同研究をしていたわしにさせていた。本来であれば錬金学発展にもっとも貢献したのはクラウスなんじゃよ。あいつはわしにとって友であり師匠でもあったんじゃ。そんなあいつを中心として、わし、ロム、ガガンの四人でつるむようになっていた。この『アルヴィス王国』をもっと平和で豊かな国にしたいと酒を飲みながら朝まで語り合ったもんじゃ」
「昔ドグマで技師長に並ぶ天才がいたとは聞いていましたが、それがクラウスさんだったのですね。竜機兵開発計画が立ち上がった時に多額の寄付をしていただいたのをよく覚えています。ドラグエナジスタル開発時にも足しげく研究室に通ってくれていましたし」
「シェリー、それに関して真実は異なる。確かにクラウスは当時、既に貴族になっておりグランバッハ家から多額の資金提供をしてくれた。その援助のお陰で研究環境は非常に恵まれておった。だが、資金以上にあいつは自らの頭脳を提供してくれたんじゃよ。ドラグエナジスタルの生成技術の基本理論はクラウス自らが持ち込んだものがベースになっておるんじゃ。その時点で驚くほどのエーテル増幅能力を持つエナジスタルが作れるレベルだったんじゃが、それだけでは駄目だとあいつは言っての……それからわしとあいつで試行錯誤して、操者と同調を繰り返すことで成長し続けるドラグエナジスタルが完成したんじゃよ。そして、そのドラグエナジスタルに十分なエーテルエネルギーを送出する為の動力として、ドラゴニックエーテル永久機関が開発された。そこにもクラウスのアイディアが活かされておる。――つまりクラウスの助力なしには竜機兵は現在のレベルでの完成には至らなかったと言える」
俺たちは押し黙ってしまった。
マドック爺さんが言ったことが本当ならクラウスさんがいなければ竜機兵は現在の性能には至っていなかったわけで、そうであれば『ドルゼーバ帝国』の装機兵に太刀打ちできなかった可能性がある。
そうなっていれば今頃『アルヴィス王国』は帝国に滅ぼされていたかもしれない。
クラウス・グランバッハという人物がもたらした恩恵が今日の俺たちを生かしているんだと実感し、ますますこの人物の凄さを思い知らされる。
「――さて、これじゃな」
爺さんが呟き皆でモニターを見ると、何やらパスワードの入力画面になっているようだった。
そこにはこう表示されていた。
『生涯の朋友との出会いの日を私は忘れない』
「これっていったい何を意味してるんだろう?」
「今までここを調査した錬金技師たちが、このパスワード解読に挑んだのだけれど結局駄目だったの。それで今回マドック技師長と私が来たのだけど――」
俺とシェリンドンが一緒に悩んでいると、爺さんが何やら数字を打ち込んでいった。するとパスワード画面が消えてモニターが真っ暗になる。
そして白文字で短い文章が浮き上がってきた。
『我が友と愛しき家族に幸あらん』
文章が消えるとモニターの明かりがついて大量の文字や数字の羅列が続いていく。どうやらパスワードの入力に成功しシステムが立ち上がったみたいだ。
「爺さん、パスワードが分かったの?」
「まあ、そうじゃな。今ここに入力したのはクラウスとわしらが初めて会った日付じゃ。ハルトよ、ここにある紋章が何なのか分かるか?」
コンソールのちょうど真ん中に紋章が刻印されている。俺はそれに見覚えがあった。
「これってグランバッハ家の紋章じゃないか。それじゃ、やっぱりこの施設はクラウスさんが?」
「うむ、確定じゃな。今、とあるデータが復元されているようじゃ。恐らくそれにあいつの答えがあるはず」
モニターを見つめていると、一瞬画面が切り替わり動画が再生され始める。
そこには銀髪の男性が映っており、この映像を録画した端末を操作している最中のようだった。
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