第201話 オーベロンの最期

 <カイゼルサイフィードゼファー>が黄金の衣を纏い出力を上げていく中、<ニーズヘッグ>はより上の高度に移動し黄金の園発動の準備に入っていた。


「<カイゼルサイフィードゼファー>、指定ポイントにてエーテルエクスカリバーを装備、機体のゴールドアストラルコーティング完了を確認。ツインドラゴニックエーテル永久機関、黄金の園使用可能出力を突破しました!」


「<ニーズヘッグ>、黄金の園の展開範囲からの離脱が完了しましたわ。船首装甲解放、ドラゴニックバスターキャノン用砲塔のエーテル照射モードへの切り替え完了、エーテルエネルギーチャージ率、95……98……臨界点に到達。――主任、いつでもいけますわ」


 アメリ、ステラ両名のオペレーターから黄金の園発動条件が整ったと伝えられたシェリンドンは深呼吸するとついにその命令を下す。


「ハルト君、あなたと<カイゼルサイフィードゼファー>に全てを託します。――エーテルエネルギー照射開始!」


 <ニーヘッグ>の船首に装備された主砲から膨大なエーテルエネルギーが眼下に待機する<カイゼルサイフィードゼファー>に向けて放たれる。

 それを確認したハルトはエーテルエクスカリバーの出力を最大にし、光を放つ刀身で莫大なエネルギーを受信し機体に取り込んでいった。


「エーテルエネルギー受信開始、機体への負荷問題無し……全エネルギー取り込み完了。――皆から貰ったこの力、絶対に無駄にはしない。ツインドラゴニックエーテル永久機関フルドライブ! 黄金の園発動!!」


 大剣の切っ先を天に向けて構え<カイゼルサイフィードゼファー>から黄金の結界が展開される。

 その光に満ちた空間は広範囲にわたって拡張し、飛空要塞<フリングホルニ>を完全に飲み込んだ。

 ハルトは飛空要塞が完全に結界内に収まったのを確認すると、その巨大建造物の破壊へと動き出す。

 その時、彼の前方に満身創痍の<オーベロン>が立ちはだかった。ハルトは敵機とのエーテル通信を開きジュダスと問答する。


「そんな状態じゃこれ以上戦うことは出来ないはずだ。どうして逃げなかった?」


「今更何処に逃げろっていうのさ。どのみち<オーベロン>がこのザマじゃ遅かれ早かれ僕は捕まるだろう。そして惨めな最期を迎えるぐらいならここで華々しく散った方がマシだ!!」


「――その為にこの飛空要塞を王都に落とそうってのか。どこまでも自分勝手な……でも、そんなことは俺たちがさせない。この飛空要塞を破壊して王都を取り戻す!!」


「はっ! あそこは既に廃墟も同然じゃないか。今更あんな所を奪い返して何になる?」


「確かに王都はあの時の戦いでボロボロになったかもしれない。けど、人々が無事ならいくらでもやり直せる。皆の記憶に残っている王都の姿を再び取り戻すことが出来るんだ。お前にだって心に残っている場所はあるだろ。――その為にこいつは絶対に落とさせやしない!!」


 ハルトはエーテルエクスカリバーの刀身から天空まで伸びる光の刃を発生させた。結界内を満たす黄金の光が剣に集中し更に光刃を巨大化させる。

 規格外のエーテル量を内包する刃を前にジュダスは一瞬驚くが、その表情は穏やかになっていった。

 彼は<カイゼルサイフィードゼファー>の前に立ちはだかるようにしてその場に留まる。


「見せてみなよ、ハルト・シュガーバイン。お前たちが奇跡を起こす様を!」


「……お前に言われなくてもそのつもりだ。ツインドラゴニックエーテル永久機関、最大パワー! いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、術式解凍――キング・オブ・アヴァロンッッッ!!!」


 両手で柄を持ちハルトは思い切りエーテルエクスカリバーを振う。刀身から放たれる巨大な光刃は結界内を縦断しながら凄まじい勢いで飛空要塞に向かっていく。

 その斬撃の範囲内にいた<オーベロン>は逃げることなく真っ向から光の刃を受けた。

 無敵を誇っていた妖精王の身体は既に見る影もなく朽ちかけており、斬り裂かれると同時にエーテルの粒子となって消滅していく。

 その最中、<オーベロン>からジュダスの音声のみが聞こえてきた。


『お前に言われて気付いたよ。世界がどんなに変わったって、自分が変わらなければ結局前と同じなんだって。本当に僕は馬鹿だ、自分が優しくされていた事に今頃気が付くなんて。ハルト、この世界を救――』


 その言葉を最後に<オーベロン>は完全消滅した。

 自責の念とハルトたちに未来を託す言葉を残し、転生者ジュダス・ノイエはその生涯を閉じた。


「ジュダス……この……バカヤローーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 <オーベロン>を消滅させた光の刃は一つの都市ほどの大きさを誇る<フリングホルニ>を真っ二つに斬り裂いていきエーテルの粒子へと還していく。


「<フリングホルニ>――輪廻の狭間に沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ハルトの咆哮と共に巨大な飛空要塞は大量の光の粒となって世界へ還っていった。

 王都にとっての全ての脅威を消滅させると黄金の園はその役目を果たし消えていく。

 その場に残ったのは、エーテルエクスカリバーによって黄金の輝きを放つ<カイゼルサイフィードゼファー>だけであった。

 聖竜機皇の頭上を飛行する<ニーズヘッグ>では黄金の園消失後の状況確認が行われる。


「黄金の園の結界範囲内にいた<オーベロン>と<フリングホルニ>のエーテル反応ありません。――<カイゼルサイフィードゼファー>の反応を確認しました。メインモニターに回します」


 ブリッジモニターや船内の各モニターに聖剣をストレージに戻し純白の装甲に戻る聖竜機皇の姿が映り、歓声が上がった。

 ――こうして、王都『アルヴィス』の上空で行われた戦いは『聖竜部隊』の完全勝利に終わり王都は無事に奪還されたのであった。




 そして、雲海の上では――。


「まさか<オーベロン>を倒すだけじゃなく<フリングホルニ>を消滅させるとはな。予想以上の隠し玉を持っていやがったぜ」


 黒い装甲の熾天セラフィム機兵シリーズ<ブラフマー>のコックピットでラファエルが満足そうな笑みを見せていた。

 その隣で戦いを静観していた<ヴィシュヌ>内では、セシルが<カイゼルサイフィードゼファー>の性能を分析しその結果をシリウスに報告している。


「マスター、合体状態の<サイフィードゼファー>の出力なのですが、金色の大剣を装備した際は本機にも匹敵するパワーを持っていることが判明しました」


 複座型コックピットの後部シートに座るシリウスは片手を顔に添えて、視線をモニターに映る聖竜機皇に向けている。

 報告を聞いた彼の口元は喜びで緩んでおり、それを見たセシルは少々呆れ顔をしていた。


「そうか……予想以上の機体を彼等は仕上げてきたようだね。僕が思い描いたシナリオについに真の主人公が現れたわけだ。役者も揃ってきたことだし、物語はここからが本番だ。セシル、楽しくなってきたね」


「私はただマスターの指示通りに任務を全うするだけです。そこに感情はありません」


「つれないなぁ。この展開をもう少し楽しもうよ。合体ロボの合体シーンだよ!? あれを見て何かこう……熱いものを感じないのかね?」


「いいえ、全く」


 スンとするメイドの態度に肩を落とすシリウス。そのコントのようなやり取りをする二人を見てラファエルは笑っていた。


「ったく、こんなあアホらしい発言をしているのが世界再生を成し遂げたAIだとか笑えるぜ。――さてと、それじゃ俺はそろそろ行くぜ」


リングに戻るのかい?」


「いいや、しばらくはドルゼーバで活動する予定だ。ミカエルは既に仕込みの最終段階に入っているはずだしな。……一応忠告しておく。確かにあの坊主も機体も中々に底知れないものを感じさせるが、帝国にも同じようなヤツはいる。そうそう楽にはいかないぜ」


「そうか、よく覚えておくよ」


 ラファエルは北の方角に向かって飛んでいき、彼が搭乗する黒い機体は空の中に消えていった。

 かつての仲間の姿を見送ったシリウスとセシルもまた機体を降下させ始め、現在の仲間と合流しようとしていた。

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