第197話 その名は聖竜機皇


 シェリンドンの命令により<ニーズヘッグ>後方デッキから飛竜型の機体<カイザードラグーン>が射出された。

 空中で急旋回すると<ニーズヘッグ>とすれ違うようにして戦場にいる<サイフィードゼファー>を目指して飛んでいく。

 その姿をカタパルトデッキに到着していたティリアリアとフレイア、そしてカタパルト上で戦っていたフレイが見送る。

 

「今通り過ぎて行ったのは何なのかしら。竜のような形をしていたけど」


「あれは、<カイザードラグーン>……。私たちも詳しいことは知りませんが、マドック錬金技師長の説明によると<サイフィードゼファー>の性能を引き出す機体だそうです」


「あれを出したってことは、ハルトは全力で戦うみたいだな。<サイフィードゼファー>の真の力がどんなものなのか見せてもらおうぜ」


 <カイザードラグーン>が向かった先では、<サイフィードゼファー>と<オーベロン>が接近戦を繰り広げていた。

 左右の手からフォトンソードを出して聖竜機兵を狙ってがむしゃらに斬り込んで来る。ハルトはそれを冷静に回避していた。


「くっ、今までよりも攻撃速度が上がってる!」


「いいぞ、いいぞぉぉぉぉぉぉ。<オーベロン>が僕のイメージ通りに動く。聖女なんて必要なかったんだ。僕こそがこの世界の神に相応しいってことの証明さ!」


 ティリアリアの妨害が無くなったことで<オーベロン>は完全にジュダスの思いのままの動作をする。

 強大な妖精王の力を掌握したジュダスはその力に酔いしれていた。

 その時、彼らの頭上を飛竜型の機体が通り過ぎていく。それに気が付いたハルトは<オーベロン>の攻撃を切り払って跳躍した。

 

「よし、<カイザードラグーン>が到着したな。ドラグエナジスタル共鳴開始――全術式解凍!!」


 <サイフィードゼファー>胸部のドラグエナジスタルが赤い光を発すると機体周囲に広大な結界を張る。

 結界内にいる二機の竜が共鳴するように輝き出した。


「<カイザードラグーン>とのシンクロ率九十パーセントを突破! やるぞ、<サイフィード>――聖竜合体!!」


 結界内を舞うように飛翔していた<カイザードラグーン>が<サイフィードゼファー>に向かって接近すると七つのパーツが切り離された。

 その内の二つのパーツは足の前方に二つの爪と後方に一つの爪を有した大型の脚部となり聖竜機兵の膝下を包むようにドッキングした。

 続いて重厚な大型の肩パーツが両肩に装着される。

 それと同時に前腕部を覆うように腕部パーツが装着され指先が鋭く尖る手を形成する。エーテルが通い始め指が徐々に動き始めた。

 切り離された竜を模した頭部パーツが胸部に装着されると、機体背部に<カイザードラグーン>本体が回り込みドッキングする。

 ストレージから右前腕に剣の基部、背部下方に刃で形成された尻尾が追加装着される。

 兜状のパーツが頭部を覆うと鋭い牙を連想させるフェイスマスクが装着され、額には緑色に光るアークエナジスタルを核として左右と前方に伸びる大型のブレードアンテナが展開した。

 これら全ての合体シークエンスが完了すると二回りほど巨大になった白き巨人のデュアルアイが深紅の光を宿し、背部の巨大な翼からエーテルの羽が放出され始める。


「カイゼル……サイフィードゼファーーーーーーーーー!!!」


 操者の雄叫びに呼応するように全身から淡い光を放ち太陽のように周囲を照らし出す。

 繰り返される『テラガイア』の終焉を止め、時を刻む針を未来へと進め人々を守るため白き聖なる竜機兵はその真なる姿を現す。

 ここに希望を託されし最強の竜――聖竜機皇<カイゼルサイフィードゼファー>が降誕した。




 <サイフィードゼファー>と<カイザードラグーン>の合体が完了すると、<ニーズヘッグ>のブリッジでは機体状況のチェックが行われていた。


「<カイゼルサイフィードゼファー>合体シークエンスの全工程を完了、ドッキング各部異常なし。操者のバイタル及びマナに顕著な変動なし、安定しています」


「ドラグエナジスタル及び全アークエナジスタル、エーテル増幅正常レベル。ツインドラゴニックエーテル永久機関連動開始しましたわ。単基と比較して出力倍率2.6……2.7……2.8……2.9……三倍値に到達!」


 アメリとステラが聖竜機皇の状態が良好であることを報告するとシェリンドンは安堵の息をついた。


「合体は無事に成功したわね。そして<サイフィードゼファー>と<カイザードラグーン>に搭載された二基のドラゴニックエーテル永久機関の同調による出力の上昇……理論値の三倍に達したことでスペック通りの性能が発揮出来そうだわ」


 順調に物事が進んでいた時、突然ステラの表情が一変する。


「え……なんなんですのこれは!?」


「ステラどうしたの? もしかして機体に不具合が生じたの!?」


「それが不具合ではなく、機体出力がまだ上昇を続けています。既に四倍値を突破……4.7……4.8……4.9……出力五倍値で安定しましたわ」


「五倍ですって!? 信じられない……理論値を大きく上回っているわ……操者や機体の状態はどうなっているの?」


「操者、機体共に状態は安定しています。主任、こんなことがあり得るんですか?」


「――常識で考えれば動力からの負荷で操者とドラグエナジスタルに弊害が出るはず。それなのに何の異常も無いなんて……可能性があるとすれば……」


 その時ブリッジモニターにマドックの姿が映る。その表情は真剣なものであった。


『可能性として考えられるのはドラグエナジスタルの成長じゃろうな。そもそも二基の動力の同調出力がここまで上昇したのはそれが要因となっている可能性が高い。ハルトと共に急速な成長を遂げた<サイフィード>のドラグエナジスタルだからこそ成し得た現象じゃろう』


「操者と共に成長するエナジスタル……ドラグエナジスタル。それが竜機兵の成長に繋がっている。今目の前で起きている光景を目の当たりにして改めて実感しました。技師長……これが……」


『うむ。我々の切り札にして最後の希望じゃ』


 『聖竜部隊』や『クロスオーバー』の者たちが見守る中、聖竜機皇と妖精王――二機の王の最終決戦が始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る