第196話 皇竜発進
『くうううううううううっ!』
ティリアリアが衝撃に耐える声が聞こえ俺は機体を急速離脱させる。後方に全力で跳び退いて無事に着地した。
俺とティリアリアが安全域に移動したのを確認すると<オーベロン>を抑えていた仲間たちもヤツから離れる。
「ティア、大丈夫か!?」
『ええ、私は大丈夫。衝撃でちょっと頭がくらくらするけど――』
モニターの向こうには頭を押さえながらも元気そうなティリアリアの姿が映っている。彼女が無事だと分かると自分の中で何か熱いものが込み上げて来るのを感じた。
これは俺がずっと前から望んでいた光景だった。この世界に来る前――『竜機大戦』をプレイしていた時から夢想していた聖女ルートのティリアリアが生存する展開。
あの絶望的な状況を俺たち全員で覆した。聖女ルートではティリアリアと運命を共にするフレイアは竜機兵<ヴァンフレア>の操者となって一緒に彼女を救出した。
<オーベロン>相手に誰一人欠けることのない展開。これは破滅の流れを何度も辿って来た世界において一度も成し得なかったことでもある。
『ティリアリア様、ご無事ですか!!』
感慨に浸っているとフレイアのでかい声が反響しびっくりした。
普段はクールなフレイアが今や涙で顔をぐしゃぐしゃにしてティリアリアの無事を喜んでいる。
クリスティーナたちもフレイアと同じように目が潤んでいる。仲間たちから自分の生存を祝福されティリアリアもまた泣いていた。
『フレイア……皆……ありがとう。私のせいでいっぱい迷惑かけたね……ごめんね……』
『なにを言っているのですか。仲間がさらわれたのなら助けるのは当然でしょう。それにあなたはわたくしの
『そうそう、悪いのはあの変態大臣だって』
『僕の言いたいことは他の連中が言ってくれたようだな』
現在空中の敵と交戦している<ドラタンク>や<ニーズヘッグ>でもティリアリアの奪還が成功したことでお祭り騒ぎだ。
フレイは妹同様に泣いている。本当に涙脆くなったなこいつは。
『この……何勝手に終わった気になってるんだよ!!』
このハッピーエンドな雰囲気に水を差してきたのはジュダスだ。驚いたことに<オーベロン>はまだ動いている。
『ちょっと待ってよ。ティリアリアがいなくなったのになんであいつが動いてるわけ?』
『もしかしたら<オーベロン>は私がまだ中にいると思っているのかもしれないわ』
『それなら丁度いい。ティリアリア様を酷い目に遭わせたあの男を徹底的にぶっ潰してやる!』
まだ動いている<オーベロン>とジュダスに怒りを露わにする仲間たち。それは俺も同じ気持ちだ
それに異を唱えたのは意外にもティリアリア本人だった。
『<オーベロン>はもう一人の私なんだわ。繰り返されて来た世界では私の絶望を受けて破壊を繰り返す怪物になってしまった。私の弱さがあの機体をそうさせてしまったのよ』
「どうしたんだ突然」
『私ね……<オーベロン>の中で母と父と祖父に会ったの。あれが幻だったのかどうかは今となっては分からないけど、あの時お爺さまは自分が<オーベロン>を造ったと言っていたわ。そしてあの機体の本来の役目は皆を守ることだとも言っていたの。私のせいでその使命を歪ませてしまったのよ。そして今はジュダスの憎悪に引っ張られて破壊衝動に駆られている。私が皆に助けられたように、<オーベロン>もその悲しい運命から解放してあげたい。でも私にはそれを可能とする力が無い。だから、ハルトお願い。<オーベロン>を終わらせてあげて。あなたならきっと――』
ティリアリアが俺に懇願してくる。彼女の言葉を聞いて俺も色々と考えさせられる思いだった。
俺は<オーベロン>を諸悪の根源だと決めつけていた。
聖女ルートのラスボスであり、ティリアリアを戦場に立たせ死に追いやって来た元凶なのだと。
けれどそれは俺の思い込みだったのかもしれない――。
「力はただ力、そこに善悪は存在しない。それを決めるのはあくまでその力を扱う乗り手の心次第ってことか。――分かった、<オーベロン>は俺が破壊する」
『ありがとう。大変なことを頼んでごめんね』
「謝るなよ。どのみちジュダスとは決着をつけないといけなかったんだ」
ティリアリアは申し訳なさそうにしている。俺はそんな彼女を見ながら聖女と妖精王の関係が変化したことを嬉しく思っていた。
ティリアリアが<オーベロン>の中で経験したことが事実なら、あの機体は竜機兵と同じように皆を守る使命を背負っていたことになる。
そうであれば、こうして敵としてではなく味方として肩を並べて戦った未来だってあったはずなんだ。
それはもう叶わないにしても、これ以上託された想いと真逆の行動をさせるわけにはいかない。
「フレイア、ティアを<ニーズヘッグ>に連れて行ってくれ」
『分かった。――<オーベロン>を倒すのだな』
「ああ。皆には悪いがあいつとは俺一人で戦わせてくれ。ジュダスは俺と同じ転生者だ。あいつはこの世界を未だにゲームの延長線上だと考えている。俺のこの手で決着をつけたいんだ」
クリスティーナたちは俺の考えに戸惑っていたが最終的には納得してくれた。
『ハルトさん一人では危険と判断したら即座に加勢に入りますわ。それでいいですね?』
「そんな格好悪い展開にならないように頑張るよ。――ブリッジ、<カイザードラグーン>は出せるか?」
アメリが格納庫と連絡を取り合うとモニターにマドック爺さんが映る。
『<カイザードラグーン>の最終チェックは終わったぞい。ぶっつけ本番になってしまうがお前さんなら大丈夫じゃろ』
「へへっ、ぶっつけ本番は俺たちにとっちゃ日常茶飯事だかんね。それじゃすぐに出してくれ。ランデブー後すぐに合体シークエンスに入る」
『そう言うと思って機体は既に後方デッキにて待機中じゃ。今すぐに出せるぞ』
爺さんが得意そうに言うとブリッジにいるシェリンドンが苦笑いをしていた。
『そういう手際の良さは技師長らしいですね。――それでは<カイザードラグーン>を発進させましょう』
『了解。後方デッキ確認、<カイザードラグーン>各部異常なし、機体内エーテルエネルギー充填完了。――主任、発進準備完了しました』
『問題なさそうね。――<カイザードラグーン>発進!』
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