第195話 ティリアリア奪還

 ティリアリアが再び目を覚ますとそこは狭い部屋の中であり、身体に触手のような機械がまとわりついていた。


「うわ……なにこれ気持ち悪い。それにここは……現実の世界に戻って来られたの?」


 自分が置かれている状況が把握できない中、ティリアリアは必死にこれまでのいきさつを思い出そうとしていた。

 そして自分がジュダスに突き飛ばされて機械だらけの装置の中に入れられたのを思い出す。


「そうか……私、ジュダスに変な装置の中に押し込められて……ここがそれなのね。皆は何処にいるの?」


 ティリアリアの意思を確認したシステムが起動し装置内の壁面に外の様子を映し出す。

 そこには大量のエーテル弾を躱しながらティリアリアに呼びかける竜機兵チームの姿があった。

 その中にいる純白の機体に注目すると、それは精神世界の中でティリアリアを迎えに来てくれた機体であったことに気が付く。


「あれはさっきの……<サイフィード>とちょっと違うようだけど、もしかしてハルトが乗っているの?」


 ティリアリアは仲間とコンタクトを取ろうと装置内をあちこち操作し始めた。




 色々とティリアリアに呼びかけてみたが彼女は一向に目を覚まさなかった。そこでクリスティーナがとんでもない事を俺に提案してきた。


『ハルトさん、わたくしが思いますに今までのような物で釣るような呼びかけでは効果が薄いと考えますわ。相手はティリアリアと言えど女性です。一世一代の告白くらいインパクトがあればもしかしたら反応するかもしれません』


 自分の従妹をなんちゃって女性扱いするこの姫様をどうかと思ったが確かに彼女の言うことも一理ある。

 俺がティリアリアに抱く想いを包み隠さず声に出して伝えればあるいは――。いっちょやってみるか。

 <オーベロン>がエレメンタルキャノンを無茶苦茶に撃ってくる中を逃げ回りながら、彼女に声が届くように大きく息を吸い込み意を決して声を出した。


「ティアーーーーーーー!! 聞こえてるか……いや、例え聞こえていなかったとしても今だからこそ言うよ……戦いの中で俺が挫けそうな時、逃げ出したくて堪らない時、そんな時はいつもお前が俺の背中を支えてくれたんだ。お前がいてくれたから俺は今まで戦ってこれたんだよ。お前がいてくれなくちゃ俺はしゃんと立つことも出来ない。だから……頼むから声を聞かせてくれよ。俺のところに帰って来て、これからも俺の傍にいてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 言った。力の限り言ってみた。俺の想いを包み隠さずストレートに伝えた。大声で言ったので少し息が切れている。

 するとモニターの向こうで何故かステラとアメリが感激しているのが見える。というか、なんか喜んでいるように見える。


『ハルトさん……あなた、やればできるじゃないですか。少し見直しましたわ』


『見事なお手前でした。そういうのが欲しかったんです。……ご馳走様でした』


「は、はあ……それはどうも」


 いきなり褒められて混乱していると、今度はモニターにティリアリアが映る。俺と目が合うと彼女の顔が一瞬で真っ赤になった。


『ハ、ハルト……あの、さっきの言葉……』


「ティア!? あれは、その……なんというか……って、え?」


『――え?』


「『――え?』」


 さっきの告白について本人に説明しようとしたところ、大切なことに気が付いた。


「というか……目が覚めたの!?」


『え? う、うん、ついさっき起きたんだけど、変な機械が絡みついて動けそうもなくて……今の私の状況ってどうなっているの?』


 次の瞬間、『聖竜部隊』の皆が歓喜の声を上げた。俺も胸が熱くなり視界もちょっと歪んでしまう。

 騎士服の袖で歪みの原因を取り除くと顔を叩いて気合いを入れ直す。ここからが本番だ。敵が行動を起こす前に先に動いてティリアリアを救出しなければならない。


「皆、聞こえてるな! 俺が装置を取り外すから、その間<オーベロン>の動きを止めてくれ。――行くぞっ!!」


『『『『了解ッ!!』』』』


 一斉に<オーベロン>に向かって動き出す。ジュダスも突然意識を取り戻したティリアリアに対し驚いているようだった。

 その動揺により隙が生じている今が最大のチャンスだ。絶対に仕損じるわけにはいかない。


『くそっ、来るな! 来るなーーーーー!!』


 俺たちを接近させまいとジュダスは距離を取りながらエレメンタルキャノンを放ってくる。

 このまま逃げられたらまずい。かといって攻撃をするわけにもいかない。どうすればいい?


『ここは<オーベロン>の中なのね。それなら――<オーベロン>、私の言うことを聞きなさい。あなたと私は世界が繰り返される間に数えきれない罪を背負ってきたわ。だから、もうここで終わりにしましょう。あなたもこんな事をするために生まれてきたわけではないでしょう? 本当は沢山の人々を守る為にあなたは生み出されたはずよ。もう、絶望や悲しみに振り回されて戦う必要はないのよ!』


 意識を取り戻したティリアリアが<オーベロン>に語り掛けるとその動きが鈍くなった。


『くそ……コントロールがきかないだと。クソ聖女の分際で生意気なんだよ!!』


『誰がクソ聖女よ、失礼ね! あんたこそ人をこんな所にぶち込むなんてよくもやってくれたわね。フルスイングで頬を引っぱたいてやるから覚悟しなさいよ!!』


『やれるものならやってみれば? もっともそんなことは出来ないだろうけどね』


『上等よっ! やってやろうじゃないの!!』


 エンジンがかかってきたティリアリアが機体のコントロールに更に干渉し<オーベロン>の動きがより鈍重になる。


「今だ!!」


 <サイフィードゼファー>の全エーテルスラスターを最大にして<オーベロン>に突っ込み、とうとう取りついた。

 そこからすかさずティリアリアが囚われている球体装置を両手で掴む。


「ティア、今からお前がいるこの装置をヤツから引っぺがす。かなり揺れると思うけど勘弁しろよ!!」


『分かったわ。思い切りやっちゃって!』


 俺が装置に取りついたことに気が付いたジュダスが激昂しこっちに手を伸ばしてきた。


『ふざけるなよ、モブ野郎! それに触れるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』


 <オーベロン>の両手は<サイフィードゼファー>には届かない。ヤツの両腕を<ヴァンフレア>と<グランディーネ>が拘束してくれている。

 それと同時に<アクアヴェイル>はエーテルフラガラッハで魔法陣を形成してヤツの天使の輪の出力を抑え込み、<シルフィード>はエーテルブリンガーで暴風を起こして飛行を妨げていた。

 竜機兵全機が妖精王に取りついて動きを封じている。


『今のうちにティリアリア様を助け出せ!!』


『あまり長くは持ちませんわ。お早く!!』


『頼んだよ、ハルト!!』


『僕たちがヤツを抑えられるのは僅かな時間だけだ。この千載一遇のチャンスを逃すな!!』


 全員が必死の思いで敵の動きを止めてくれている。これ以上時間をかけるわけにはいかない。

 

「任せろ! うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 両手で装置を掴んで全力で引っ張る。装置と<オーベロン>を繋ぐ幾つものコードがぶちぶちと音を立てて千切れていく。

 あともう少しだ。


「ティアは……返してもらう……!!」


『や……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


 ジュダスが大声を張り上げる最中、俺はついに装置を本体から取り外した。

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