第192話 ハルトVSジュダス再び

 ティリアリアの意識は完全に消えていないと確信した『聖竜部隊』は彼女を目覚めさせようと必死に呼びかけ続ける。

 彼女の声は聞こえないものの<オーベロン>は確実に性能低下を引き起こし、エレメンタルキャノンの威力と連射性が半減していた。


「ティリアリアにわたくし達の声は確かに届いていますわ。あと一押し、あの子が意識を取り戻すために何かきっかけがあれば――」


 クリスティーナが何か手はないかと思索しているとエーテルレーダーに高速でこの場に接近する装機兵の反応があった。

 それを見た途端に彼女の顔がほころぶ。他の竜機兵チームの操者たちもその反応に気が付き空を見上げる。

 <ニーズヘッグ>でもレーダーの反応から機体を特定したアメリが笑顔を見せながら報告をしていた。

 シェリンドンは、ブリッジモニターに映る純白の機体を見て安堵と喜びが入り混じった表情をしている。


「高速で接近する機影は上層雲海から降下してきた模様。機体確認……主任!」


「ええ、見えているわアメリ。――良かったぁ、無事に帰って来てくれた」


 『聖竜部隊』が上空から下りて来る機体に注目する中、<オーベロン>にも異変が起きていた。

 操者であるジュダスの意思とは無関係に機体が勝手に動き出し高度を上げていったのである。

 それはまるで空から下りて来る者の到来を待ちきれず自ら迎えに行こうとしているかのようであった。


「くっ、まただ……機体が勝手に動き出した。それに何だこの感覚は?」


(来てくれた……あの人が……私を……)


 ジュダスの頭の中に女性の声が木霊する。それは妖精王の中に押し込めた聖女の声と同じものであった。

 完全に消滅していたと思っていたティリアリアの意思を感じ忌々しい思いが込み上げて来る。

 更に彼女の感情であろう、とある人物を恋慕する思いが機体を通してジュダスに流れ不快感が強まっていった。

 

「何だよこの感情は……気持ち悪い……これが恋とか愛情だとでもいうのか? 馬鹿馬鹿しい! クソモブ聖女、これ以上僕をまやかすな! 消えろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ティリアリアの声が消失すると機体のコントロールが戻る。エーテルレーダーに反応のある頭上の映像を注視すると広大な空が一面に見える。

 その時、青空の向こうに一瞬何かが光って見えた。


「あれは……エーテルスラスターの光だ。あそこに何かがいる!」


 光が見えた辺りの映像を拡大しレーダー反応と照らし合わせて確認すると、そこに猛スピードで降下してくる白い飛竜の姿が見える。

 ジュダスはその姿を視界に捉えた瞬間、聖騎士の称号を授かった転生者の青年を思い出し不愉快な感覚が身体中を駆け巡るのを感じた。


「な……バカな。あいつは僕が破壊したはずだ。けど、あの機体から感じるこの不愉快極まりない感覚は――あのモブ野郎か!?」


 ジュダスは<オーベロン>を急浮上させながら頭上に大型の魔法陣を展開し狙いを降下してくる白い飛竜に定める。


「いい加減僕の目の前から消えて無くなれよ! ――シャイニングレイ!!」


 魔法陣から無数の光弾が上空に発射される。弧を描く軌道で白竜を襲撃した光弾は一発も標的に当たらず空の中に溶け込むように消えていった。

 王都では白い竜機兵に止めを刺した攻撃が完全に回避されジュダスは苛つき舌打ちする。すると接近してくる飛竜は一瞬で人型へと代わりマントをたなびかせ剣を装備した。

 白い竜機兵<サイフィード>の印象を強く残す機体を見て、ジュダスは焦りを覚えながらフォトンソードを構える。


「あの機体、<サイフィード>に似ている。――くそ、どこまで僕の邪魔をするんだよ。直接胴体を真っ二つにしてやる!」


 二機の距離が近づいていき、間もなく<サイフィードゼファー>と<オーベロン>は互いの剣をぶつけ合い鍔迫り合いをする。その衝撃で周囲の大気が歪んだ。

 接触回線が開通し互いのコックピットに敵機操者の姿が映る。

 <オーベロン>のコックピットに王都で倒したはずのハルト・シュガーバインの姿が映り、ジュダスは一瞬幽霊でも見たかのように驚いたがすぐに歪んだ笑みを見せた。


「まさか生きていたとはね、この死にぞこないが。今度こそ完全に死ねるようにぐしゃぐしゃにぶっ潰してやるよ!」


「今度は負けない。お前に奪われたものを全て返してもらう。――覚悟しろ、ジュダス!!」




 ハルトとジュダスの戦いが始まった頃、ラファエルはその戦いを雲海の上から観賞していた。


「始まったか。それにしても敵に『ありがとう』とか本当に甘っちょろい小僧だぜ」


『それがハルトだからね。割と君も気に入ったんじゃないのかな?』


 <ブラフマー>のコックピットモニターにシリウスの姿が映し出される。ラファエルが上空を見上げるとそこには青い装甲に身を包んだ装機兵の姿があった。

 頭上にエーテルハイロゥを展開しゆっくりと高度を下げ<ブラフマー>に隣接する。


「姿が見えないと思ったら<ヴィシュヌ>で上の方にいたのかよ。――ってことは、俺と小僧の戦いの一部始終もしっかり見ていたようだな」


「そりゃあもう、ばっちり記録映像にも残したよ。手に汗握るバトルだったんで興奮したよー。炭酸飲料とポップコーンがあったら言うこと無しだったね」


「この通り、マスターは映画鑑賞でもするかのようにラファエル様とハルト様の戦いを心の底から楽しんでおられました」


 <ヴィシュヌ>の複座型のコックピットではフロントシートにセシルが座り、リアシートにシリウスが座っている。

 セシルは表情こそ変化は見られないものの緊張感のないシリウスに呆れ気味の様子だった。

 当の本人はそんなことは気にせず今も頬を紅潮させて遥か下方の戦いをウキウキしながら見守っている。

 それはまるで待ちに待ったテレビ番組に釘付けになっている少年の様であった。


「ほらー、僕の言った通りだったろセシル。ハルトはやっぱり新型に乗り換えていたんだ。外見からすると<サイフィード>の流れを汲んだ機体の様だね。けれど、今回の機体は以前とは性能が段違いだ。人型でも空中戦を難なくこなし武装も強化されている。それに僕の見立てではあの機体はまだ奥の手を隠している。ドラグーンモードに相当する強化形態を見せていなかったからね」


「それは戦っていて俺も感じたな。小僧にはまだ余裕があったからな。<ブラフマー>と本気を出さずに渡り合うとは、少々『聖竜部隊』の連中を過小評価しすぎていたようだ。――実際に戦ってみてお前がどうしてそこまで入れ込んでいるのか分かった気がするぜ。確かにあの小僧――ハルト・シュガーバインは中々に面白い」


「ははは、ラファエルならそう言うだろうと思ったよ。あのミカエルでさえ気に掛けているぐらいだからね。きっとあの新型の真価が<オーベロン>との戦いで発揮されるはず。それをここで見届けることにするよ」


 遥か上空から『クロスオーバー』の重要人物たちが見守っていることなど知らず、ハルトはジュダスと空中で剣戟を繰り広げながら高度を下げていき飛空要塞へと不時着した。

 王都『アルヴィス』を奪還し、聖女ティリアリアを長きに渡り縛り続けてきた妖精王の呪縛を壊すべく白き聖竜の真の力が解き放たれようとしていた。

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